第5話 悪役令嬢になりたい人生でした
それから数年後。
私は学園から卒業した。
後輩の親衛隊から涙ながらに見送られる私。
普通なら感動する光景だけど……
これ、もう悪役令嬢じゃなくね。
明らかにおかしい。
釈然としない気持ちを持ちながら、私は首席として卒業の挨拶をする、ヴァロンの姿を見ていた。
彼は相当頑張って私を追い抜いたので、主席になっている。
抜かれて悔しい思いも多少はあるけど、あの可愛い子があそこまで成長したと思うと、感無量な気も……
その後、卒業記念のパーティーが開かれた。
「アリア、僕と結婚してくれ」
生徒たちの前で、ヴァロンにそう申し込まれた。
真剣な目つきだった。
まあ、婚約者だから結婚するのは当然だけど、いつかサーヤとくっつくと思っていたので、正直こんな日が来るとは思ってもいなかった。
でも、ヴァロンは私に相応しい男になったら、婚約を申し込む的なことを言っていた。今は越されたというのは事実。有言実行である。
正直、私の心は混乱していた。
いきなり言われたということ、それからどう返事をすべきかわからないということ、さらに、プロポーズをされた事が非常に嬉しかったこと、さまざまな感情が心中で渦巻いた。
こ、この程度で動揺するなんて私らしくない。
確かに私は恋愛経験などゼロだけど、精神は強い女なはず。
何とか無表情を貫きながら、どう返答するか考える。
ヒーローである彼とくっつくことは、悪役令嬢として非常におかしなことではあるが……
でも、改めて考えると、私は乙女ゲームを基準に考えすぎていたのかもしれない。
別にヴァロンと結婚しようが、主人公のサーヤと仲良かろうが、悪役令嬢にはなれなくはないのだ。
特にヴァロンと結婚することで、私は王妃になれる。つまり大きな権力を手に入れられるということ。
そこから、裏からヴァロンを操り、様々な悪政して私腹を肥やしていけば、どうだろう悪役もいいところだ。
よし、結婚の話を受けよう。
ちなみに、決してヴァロンが好きだから結婚するというわけではない。
確かにヴァロンは、頑張り屋で、イケメンで、背が高くて、優しいし、普通の女なら一瞬で堕ちるだろう。
だけど私は恋愛感情なんて、俗っぽい気持ちで結婚相手を選ぶような女ではないのだ。だって、悪役令嬢だから。
確かに、プロポーズされて胸が高鳴ったけど、別にこれは恋愛感情とかじゃないから。原因不明の心臓の病気だから。命に別状とかないやつの。
私が長い間無言を貫いたから、ヴァロンが不安そうな表情をしている。
「喜んでヴァロン様と結婚いたします」
こうして私はヴァロンと夫婦になった。
○
それから数十年の月日が流れた。
老婆になった私はベッドに臥し、自分の死期を悟っていた。
あの時、結婚したあと、私は悪政を行い国を混乱させてやろうと思ったけど、上手くいかなかった。
無駄な道を作って、国庫を無駄に減らしてやろうと思えば、意外とその道が交易などに使えて、経済が大発展したり。
有能な家臣の処刑を命じたら、あとで反乱を企てていたという証拠が次々に出てきたり。
息子が生まれたので、悪の王子に育て上げようと思ったけど、何を間違ったのかいい子になって、今では立派な王となり、国を引っ張っている。
私の死に際には、大勢の人々が涙を流していた。
国民の母とか、賢妃とか、様々な二つ名を付けられていた私は、国中から慕われていた。
結局私は悪役令嬢になりきることは出来なかった。
悪役令嬢になりたい人生でした。
でも泣いている息子や娘、孫、たちの姿を見ると、この人生も悪くはなかったかも。
私は心の奥底でそう思った。
【完結しました!】
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