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第九十一話 一晩明け篇――その一

 一晩明け、ミカは早朝から羊の群れを牧場に放し、彼らの数を数えていた。羊小屋の前では、父が羊を追い出している。時折、怪しい羊を捉えて転がして、体調を確認していたりする。この時期、一部のメスには腹に子羊がいるかもしれないので、調べているのだ。寒い時期毛刈りをしていなかったので、みんな全身モコモコだ。

 羊を眺めてしばらくすると、父がミカに声をかけてきた。


「おーい、ミカ。代わってやるから、朝飯を食べてきなさいよ。昨日は夕飯も食べ損なっただろ、お腹空いてるだろう?」

「うん、父さん」


 ミカは父に、羊の数をチェックしたボードを渡し、立ち上がった。すると、ミカによく懐いた子羊が名残惜しそうに、ミカの足へ擦り寄ってくる。


「あはは、メイジー、俺、ご飯食べてくるから。メイジーもそこにご飯あるだろ? ちょっとー、俺腹ペコになっちゃうよ」


 それでも、子羊・メイジーはミカから離れようとしない。ミカは少し意地悪したくなって、メイジーに向かって爪を立てるポーズをとった。


「どかないとメイジーを食っちゃうぞ!」


 すると、途端にミカの目の前からメイジーの姿が消えた。だが、メイジー自身がミカから逃げたわけではない。メイジーの母羊が走ってきて、我が子を引っ掴んでいったのだ。メイジーの母親には、まるで危機的な緊張感があり、ミカは自分で羊を脅しておきながら少し寂しくなる。


「なんだよ、冗談だろ?」


 ミカの背後から、ミカの頭をポンポンと撫でる手があった。大きな父の手だ。もう、ミカも父とあまり背丈が変わらなくなってきたが、それでも、父の手は大きいと感じる。それは、父への安心感が感じさせる大きさだ。

 父はミカに微笑みかける。


「ミカは羊とも仲良しだなー」

「メイジーが特別仲良くしてくれるんだ。他の奴らは知らないよ」

「そうか? 父さんは、ミカが他の子とも仲良くしているのを見たことがあるぞ」

「みんな子羊だろ。子供は警戒心がないから遊んでくれる」

「ミカ、羊に遊んでもらってるつもりなのか。ミカの方がお兄さんのはずだけどな」

「うるせぇ」


 ミカは今度こそ牧場を出て、朝食を取りに家へ戻った。その道中、姉のソフィアについて思い至る。羊と仲がいいといえば、ソフィアの方だ。ソフィアは、羊を集めるのに苦労したことがない。ソフィアの周りには自然と羊たちが寄ってきて、みんな母親に甘えるようにソフィアに接する。ミカだって、誰かに甘えたい時は母親よりもソフィアに会いに行く。ミカは、羊にだって好かれてしまうソフィアのことが大好きだった。

 ソフィアのことを考えていると、つい会いたくなってしまった。ミカは、午後からソフィアが引きこもっている小屋に行ってみようと考えた。ソフィアが小屋にいる間は会ってはいけない約束だが、どうしても甘えたい時に忍び込むのは許してくれる。何せ、治療から帰ってきてから、一度も会っていないのだ。情状酌量の余地があるはずだ。

 ソフィアに会ったら、メイジーが俺に甘えてきて仕方がないんだよ、と、呆れたふりをして自慢してみたい。

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