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文化祭の準備をしました

「小学生になって一ヶ月が経ちました」


 俺は相変わらずモニターに話しかける。


しそ:もう十月かあ

麵つゆ:学校楽しいですか?


「なんかみんなもう小学生になったことにツッコまなくなりましたよね」


わさび:はいはい、元おっさんのひかりちゃん可愛いですね~

天かす:おっさんが小学校に通うわけないだろ


「いやー、本当なんですけどね……」


 と、まあ俺の配信ではここまでがおおよそテンプレだ。もちろん誰もまともに信じていないし、俺も本気で信じてもらおうとも思わない。

 視聴者はもうすぐ四桁になりそうなほど来ており、ありがたいことに来月には小学生のお小遣いには高すぎるくらいのお金ももらえそうだ。そりゃこんな可愛い女子小学生が可愛い洋服で配信していれば見に来ないわけはないか。

 ちなみに今日はオレンジのリボンに水色のセーラー服。某大人気SFライトノベルのメインヒロインのコスプレ衣装だ。視聴者が衣装を送ってくれるおかげで配信の衣装には一生困らなさそうだな。収納にはすぐ困りそうだが。


ロリコンじゃないよ:それで学校はどうですか? いじめられたりしてないですか?

ねぎ:ひかりちゃんをいじめるとか許せん


 なんか最近視聴者から保護者みたいな扱いを受けている節がある。


「いじめとか……ないですよ」


 ちょっと口籠ったのは思い当たる節がないでもないからだ。いじめという程ではないのだが、なんだか最近女子からの評判がやたらと悪い。

 女子になったんだから女子とキャッキャウフフできると思っていたのだが、それどころか視線は刺さるようだし話しかければ反応が妙に悪い。こちらを見ながら感じ悪くヒソヒソと話していることもあるし。

 幸いまな達は相変わらず接してくれているし孤立しているわけではない。それに男子とは話が合う。まあ女子小学生になっても男子との方が居心地がいいのは変わらないってわけだ、結局中身は変わっていないからな。


「まあよく分からないけどおっさんじゃあ馴染めない部分もあるってことですかね」


麺つゆ:小学生もいろいろ大変なんですね


「大変って程じゃないですけどね。毎日楽しいですよ」


ねぎ:楽しそうならよかった!


「そう、学校で楽しいと言えば最近文化祭の準備が始まったんです。今日はせっかくだからその話をしようかな、って思います」




 一人きりの通学路にもすっかり慣れた十月。

 境内の掃除で早起きして、それから二度寝せずに登校する生活リズムにも慣れてきた今日この頃。ここ最近はようやく涼しい風が吹くようになってきている。

 授業用のタブレットだけが入った茶色のランドセルは軽い。おかげで俺の足取りも軽い。ていうか今の小学校は全員にタブレットを支給しているらしい、すごい。ちなみに紙の教科書も結構あるのだがそれらは全部学校のロッカーの中だ。


「お、加藤君じゃーん」


 学校最寄りの駅前で加藤を見つけてポンと肩を叩く。教室で俺の前の席に座る男子だ。眼鏡でひょろいいかにもオタクって感じのやつ。


「ひ、陽ノ下!?」

「そだよー、調子はどうだい?」

「まずまずかな。別に良くも悪くもない」


 小学生のくせに煮え切らない答えだな。


「そうかそうか。ところで昨日のニチアサ見た? プイクア!」

「……見てない」

「えー、何でよ。昨日すごかったんだよ、クアサニーが大活躍で――」

「お前なあ、確かにクアサニーは凄かったけど、昨日のはクアムーンがだな……っ」


 加藤は「しまった」と言うように口を押さえて黙る。


「ま、分かるよ。そういうの恥ずかしいよね、このくらいの歳だと。でもなんだかんだ言いつつ実はみんな普通に見てるから堂々としてていいって」


 加藤の肩を極限まで優しい笑みを浮かべて叩いてやる。人生の先輩として。

 俺も小学生くらいの時には「女の子向けアニメなんて」と思っていたものだ。思っていながら見ていた。そして高校生くらいになってカラオケに行くとなぜかその時代の女の子向けアニメの歌で盛り上がるのだ。まあつまりはなんだかんだ言いつつみんな見ている。


「うっせ」

「ひかりはただ加藤君とプイクアの話で盛り上がりたかっただけなんだけどなあ……」


 大人になるとそういうので盛り上がれる友達ってネットにくらいしかいなくなる。だからこうして語り合える仲間がいるというのはとても嬉しいのだ。

 加藤の歩調が少し上がったので俺も追いかけるように歩調を上げる。


「ところで加藤君ってムーン推しなの?」

「そういう陽ノ下はどうせサニー推しだろ」


 やはり相容れぬな。クアムーンといえばいわゆる追加戦士で元敵の幹部。ちょっと大人な雰囲気のお姉さんキャラだ。ネットでは話題に上がるたびに必ずエッチだなどと言われている。


「そりゃ、サニーが一番可愛いし」

「陽ノ下は分かってないなあ、相変わらず」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますね」


 なんて話をしながら歩いていると、気付けばもう間もなく学校だ。そんなところで加藤が少しつんのめる。後ろから肩を叩かれたらしい。


「おっす、加藤。陽ノ下さんも」

「お、おはよう」


 目を見開いた加藤が胸を押さえてほっと息をついている。急に肩を叩かれて相当驚いたらしい。


「おう、山田君。それとみんなも」


 振り返ると山田とクラスメイト、全部で四人がそこにいた。仲良さそうに歩いている。


「最近いつも二人で登校してんな」


 まだ名前を憶えられていないクラスメイトAがにやにや顔を加藤に向けている。


「駅で会うんだよ、たまたま」

「確かによく会うね。まあ時間が同じだからそんなにおかしなことでもないか」


 言われてみれば二日に二回くらいは登校中に会っている。まあ俺は毎日同じ時間に登校しているし、きっと加藤もそうなのだろう。日が経つにつれて遭遇率が上がっている気がしないでもないが。


「なんだかんだ俺らもここでいつも会うしな」


 愉快になった集団で賑やかに教室へ入る。

 席に着こうとしたところで、


「ひかりさんおはよう」


 と先に登校してきていたらしいまなが俺の腕に抱きついてきた。ぎゅっと。慣れてきたというのもあるのかもしれないが、なんだか学校にいる間はまなの距離感が一段と近い。


「ひかちん今日もモテモテだねえ」


 葉子と今日香も一緒にこちらへ来てくれた。


「モテモテって。たしかにひかりは可愛いけどなかなか恋愛対象には見られないでしょ」


 取り繕ったって中身はおっさんだ。友達としては仲良くなれても恋愛対象になんてされるはずはない。もしそんな感情を本当に向けられたらかなり困る。

 もちろん応えてはあげられないし、小学生の頃好きだった子が実はおっさんだったとかこの上ないトラウマだろう。ネタばらしすることはないだろうけれど。


「あなたね、本当に気をつけた方がいいわ。いつか刺されるわよ……」


 今日香は呆れたようにそう言ってくる。


「そ、そうだよ。ただでさえ最近のひかりさんあんまり女の子からよく思われてないし、男の子と遊ぶの控えた方がいいよ!」

「うーん、そうなのかなあ……?」


 ていうか女子からの評判が悪いのって俺が男子に好意を寄せられると思われてるからなの? もし本当にそうなら杞憂もいいとこだろ。


「まなはひかちんをとられて寂しいって」

「そ、そんなことは、ないけど……」

「うーん、でも別に女子を避けてるとかそういうわけでもないんだけど……」


 まなたちとはこうしてよく話しているし、話しかけられれば男女関係なく普通に感じ良く同じように対応している。当たり前だが男子に色目を使っているようなこともない。なのになぜ良く思われていないのか全然理解できんな。


「まあ私たちもいるし、そのうちそれなりに溶け込めるわよ」

「だといいけどね……」


 思わず苦笑が漏れる。俺も一ヶ月そう思って過ごしてきたんだけど、結果はご覧の通りだ。


「ところでひかりさん、今日の午後の授業は教室戻ってくるんでしょ?」

「ああ、うん。文化祭の準備とかするんだよね?」


 俺は朝の会が終わり次第保健室へ行き、授業時間は基本的に教室には戻らないのだが行事などの時は特別だそうだ。もっともいつでも抜けられるようにはしておかなければならないのだが。


「文化祭かあ、楽しみだな」

「もう今週だものね」


 三人とも楽しそうだ。俺も小学生の頃は学校行事とか好きだったし気持ちはとてもよく分かる。中学以降も体育祭以外はそれなりに好きだったしな。


 ――キーンコーンカーンコーン


 話を遮るように始業のチャイムが鳴って、ほとんど同時に「おはよう、君たち」と安藤が教室へ入ってくる。葉子と今日香、それから教室のあちこちで立ち話をしていた面々は小走りで各々の席へと戻っていき、登校から話しっぱなしだった俺もようやく一息ついた。


「午後、楽しみだね」


 幸せそうな、天使のような表情を浮かべたまなが通路越しにそう言ってくれて確信する。今日はいい日になる。




「今日のお前ニヤニヤしてて気持ち悪いな」


 そう飯田に言われて始まった午前中はあっという間に過ぎ去る。

 今日は飯田とひたすら対戦ゲームをやり、給食前に体育の授業(?)をしてもらった。もしかして保険医って俺が思っている以上に暇なのか?

 いや、そんなわけないと思うんだけど……。




 そしてお待ちかねの午後だ。先に言っておこう。今日は歪物も出ない本当にただの良い一日だったと。


「ひかりさん意外と不器用だよね」


 まなは俺の手元を覗きこんできて言った。母性的な何かに満ち溢れた空気、これはママ。


「そ、そうかな……?」


 これでも上手くできているつもりでいたのだ。以前より指が細くなって細かい作業もやりやすいな、なんて思ってもいた。

 折り紙の飾りだ。花やら折り鶴やらなんでもいいから華やかなものを作ればいいということで、タブレットで調べながらせっせといろんなものを作っていたのだがこう言われてしまった。


「でも一生懸命折ってるのが伝わってきてすごい良いと思う」

「あ、ありがとう……」

「まあでもよれよれには変わりないけどな」


 横やりを入れてきたのは加藤だ。先ほど折り方について少し尋ねてから一緒に作業している。悔しいことに俺はそんな彼に反論できない。こいつがとてつもなく折り紙が上手いのだ。手先が器用すぎる。なんか今はカッターとか使って幾何学模様みたいなの作ってるし。


「ひかりはまだ本気出してないだけだし」


 折り紙における本気の出し方なんて知らないけど。



 がやがやと喧騒に包まれる教室。いつもならそれぞれの席について黒板の方を向いて授業を受けているのだが今日のこの時間は違っている。みんながそれぞれの作業をする場所に集まって楽しく手を動かしている。

 俺たち三人は折り紙担当で、もともと席が近かったのであまり動かず机だけくっつけて雑談しながら進めている。折り紙担当は他にもたくさんいるが全員で集まる必要はないのでみんな思い思いの場所で作業をしている。

 そんな文化祭の作業だが、俺たちが何をするかと言うと教室および渡り廊下の飾りつけだ。普段生徒は原則通れない中高校舎と小学校舎を繋ぐ渡り廊下を文化祭仕様にするのが我々三年生の使命だ。

 文化祭といえばお化け屋敷とかメイド喫茶とかそういったものをやるのだと思っていたのだが、小中高一貫校の我が校で小学生はそういうのはやらないらしい。高学年は何やら劇をやるそうだが、その他は校内の飾りつけと授業などでの創作物の教室展示のみだ。


「ひかりさんは文化祭当日どうするの?」

「あー、当日は出席しなくていいんだっけ。考えてなかったなあ」

「や、やっぱりいつもみたくおうちでごろごろ……?」

「ご、ごろごろって……」


 俺ってそんなイメージなの?


「でもまあ、せっかくだし来てみようとは思ってるかな。加藤君はどうするの?」

「クラスの男子で回る約束してる。陽ノ下も来るか?」


 こんなに普通に誘ってくる辺り、やっぱり俺はそういう風には見られてないんだろうなあ。安心安心。今日も昼休みにドッヂボールしていた仲だしな。


「ひかりさんはわたし達と回るから!」

「そ、そうだったの……?」


 と、思わず訊き返してしまったのは他でもない俺自身だ。今朝話していたように俺への女子からの評判を気にしてくれているのかもな。


「そっか、なら仕方ないな」

「まあでも校内にいれば会うこともあるさ」


 ――パシャリ


 ふとそんな音が俺のすぐ横から聞こえた。

 音の方向を見るとカメラマンのおじさんが大きなカメラを構えていた。


「おっと邪魔してごめんね。準備頑張ってね」

「いえ、お疲れ様です」


 おじさんは返事の代わりに小さく手を挙げると、身を翻して別の集団の方へ移動していった。先ほどから忙しなく動いていて本当にご苦労な事だ。


「折り紙溜まってきたからそろそろ届けに行くね」


 俺はビニール袋に三人分の成果物を詰めて立ち上がる。この折り紙で飾り付けるのは教室ではなく渡り廊下なので、そちらに持って行ってあげる必要があるのだ。


「わたしも行くよ」

「助かる。俺はもっと作っとく」


 まなは立ち上がったが、加藤は顔を上げすらしない。折り紙に夢中らしい。


「了解。じゃあ行ってくる」


 教室を出ると廊下の方も賑やかだ。今日のこの時間は小学生全体が文化祭準備をしているからだろう。


「……まなさん、わたしと文化祭行くの嫌じゃなかった?」

「え、なんで?」


 楽しそうな小学生を和やかな気持ちで見ていた俺に、横を歩くまなが弱弱しい声で尋ねてきた。最近はべったりだったまなとの距離がわずかに空いているのは気のせいじゃないだろう。


「だって、つい無理に決めちゃったから。本当は加藤さん達と行きたかったかなって」

「全然嫌じゃないよ」


 むしろ小学生の女の子と文化祭回るとか夢も夢だ。


「そ、そう。それなら良かった、かな」


 飾り付けが進んでいる廊下を鼻歌交じりに歩く。学校という厳かなのが日常な空間に、お祭り前の浮ついた空気が流れているのは非日常感があってなんだかそれだけで楽しい気持ちになってくる。

 もっと非日常的な存在のくせに何言ってんだ!!

 なんて心の中でハイテンションセルフツッコミを入れてしまうくらいには楽しい。

 まなはそんな俺の半歩後ろくらいからついてきている。いつもなら真横に並んで手とか繋いできそうなものだが今はそれだけだ。

 それだけならともかく、はあとため息までついたので振り返らざるを得ない。


「どうかした? やっぱりひかりを無理に誘ったのを気にしてるとか?」

「そ、そうじゃないんだ。ほんとだよ」


 とっさに作られた笑顔。別の原因があるってことか?


「違ったかあ。でもまあ少しでもその事気にしてるならそんな必要ないからね。ひかりはむしろまなさんと文化祭回るのが一番理想的っていうか楽しみだからさ」

「う、うん。ひかりさんは優しいよね」


 まなの笑顔に自然さが少し戻ってきたように見える。今の会話で何も解決してないと思うんだけど、なんで?

 まあいい方向に傾いたのならいいか、と考えることをやめたのは渡り廊下がもう目の前に見えてきているからである。

 ガラス張りで太陽が出ていれば暑くて仕方なさそうな構造だが、幸いと言うべきか現在の空には分厚いねずみ色の雲が浮かんでいる。

 そんな空をカラフルに彩るように折り紙や花紙で飾り付けられた渡り廊下には数名の児童と安藤がいた。


「気をつけろよ」

「もう、安藤先生さっきから心配しすぎだぞ。大丈夫だって!」


 安藤が心配そうな目を向けているのは葉子だ。上の方に折り紙の輪飾り貼り付けており、脚立の上に立って作業しているようだ。

 たしかに葉子は落ち着きがないところがあるし、教師という立場からすれば気が気じゃないだろうな。脚立は一メートルもないとはいえ打ちどころが悪けりゃ重症になりかねないし軽傷でも昨今なら大問題になりかねなさそうだしな。


「あ、今日香さん。調子はどう?」


 打って変わってしゃがみこんで低所の作業をしている今日香に声をかける。


「あら、まなさんにひかりさん。作業自体は順調だわ。ただ葉子さんがさっきからあの感じで付きっきり安藤先生は大変ね」


 今日香の苦笑に俺もまなも苦笑でしか返せない。


「よし、ちょっとズレるぞ!」


 とそんな俺達のことなんて眼中にない葉子は下りた脚立を片手で持って少し横に移動している。安藤先生の腕をルンルンで引きながら。


「はいはい。廊下ではしゃぎすぎるなよ」


 なんて注意している安藤も大変そうだ。


「さっきからずっとべったりなのよ」

「葉子ちゃんは安藤先生のこと本当に好きだね……」

「まるで親子だな」


 安藤も満更でもなさそうだし微笑ましい――ピカッ


「ひぇっ」


 呑気なことを考えていると空が光った。まなが息が止まったような声を出すのも無理はないだろう。ただの雷だがあまりに唐突だったから。

 もっとも唐突でない雷なんて聞いたことはないが、それは今は本当にどうでもいいことだった。


「危ないっ!」


 俺が叫んで駆け出そうとしたのは葉子の方。彼女も雷に驚いたのだろう。脚立の上で後ずさろうとして足を踏み外した。


「おっ!?」


 このまま落ちれば頭を打ちかねない。

 なんて思っていたのだが俺の心配は無用に終わった。

 そう、すぐ近くに安藤がいたからである。

 安藤はすぐに反応し葉子の小さな身体をキャッチする。

 おお、お姫様だっこだ。

 なんて気の抜けたことを考えられるほどには安心感のある余裕なキャッチ。

 ほえー、教師って本当に児童のことしっかり見てんだな。素直に感心してしまう。


「大丈夫か? 怪我とかしてないか?」

「あ、安藤先生のおかげで怪我とかはしてないぞ。どこも打ってないし……」


 葉子は安藤の腕の中ですっかり小さくなってしまっている。さすがの葉子でも今のは相当肝が冷えたのだろう。

 だがそれ以上に顔が赤い。目も泳いでいる。いつになく大人しい――というかしおらしいと表現した方がしっくりくる気がする。


「葉子さんがあんな表情するなんて珍しいわね」


 様子をニヤニヤ見ている今日香。


「何もなくて本当に良かったよ……」


 と胸をなでおろすまな。


 ――パシャリ


 とカメラマン。

 いつの間にか俺の横に立っていた彼の一眼が捉えているのはもちろん葉子と安藤だ。


「いい写真が撮れました」


 そしてサムズアップ。このいい笑顔は何事もなかった証だな。と一瞬緊張が走り抜けた廊下の空気が再び楽しげに戻っていった。




「と、まあそんなことがあって今週末文化祭なわけですよ。楽しみすぎて今から寝られないまである」


てんぷら:文化祭楽しそうですね

大根おろし:ていうか文化祭云々というよりひかりちゃんがそんな距離感だと俺とか小学生男子みたいな童貞は勘違いするわ……


「いやいや、勘違いって俺おっさんじゃないですか。勘違いとかないない」


わさび:おっさんだと思い込んでるの自分だけなんだよなあ。ただでさえ可愛い見た目してるのに

ロリコンじゃないよ:正直小学生とかだと一緒によく遊んでる子とか好きになりがちですよね


 ……確かに言われてみれば小学生男子は足が速ければモテるイメージだが、女子は接しやすい子がモテていた記憶がある。少し違うが男子の中に平気で混ざるオタサーの姫的な。そういう意味で言うなら今の俺はまさにそれだ。

 しかしどうだろうなあ……。


「って、もうこんな時間ですか。そろそろ終わりますね。お疲れさまでした~」


 ぶつっと配信を切る。そろそろ桃花が「ご飯ですよ~」と声を掛けてくる時間だ。

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