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嵐星じゃなきゃダメなの!  作者: 秋月小夜
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 春兄が帰ったあとで嵐星に尋ねた。

「ねえ嵐星、春兄が出てるビデオって見た事ある?」

 彼はふるふると首を振って言った。

「いや、それはない。でも春兄が教えてくれて作品は知ってるよ」


「作品かあ、やっぱり現実なんだね。あの、エッチなの見るのは無理だけど……、サムネとかあるのかな?もし無難な感じだったらチラッとだけ見たい気がする」

「ああサムネあるよ。タイトルは煽ってるけど絵的には全く大丈夫なやつ。見てみるか?」

 軽い感じで嵐星は言って、逆に私は自分から言いだしたくせに躊躇した。


 現実って重い。でもついに決めた。

「大丈夫。見るよ」

 私がうなづくと嵐星はスマホで画像を選んで見せてくれた。


 画面に現れた相模春の出演作は何本もありシリーズ化されている。

「こんなにあるの?」

『春君と一緒1 初めては春君がいいの』『相模春 隣のお兄さんシリーズ1 私だけに教えて』などに始まり、経験値ゼロの私には刺激的過ぎるタイトルがずらりと並ぶ。

 でもドキドキしながら覗いたサムネイルは春兄が女の子の肩を抱いて見つめ合っていたり、女の子と手を取り合ってベッドに腰掛けている恋愛ドラマ風でホッとした。

 これなら女の子でも軽い気持ちで観られるのかも知れない。


「よかった。サムネは普通の恋愛ドラマのDVDみたいなんだね」

「でも中身は十八禁。お前がうっかり見ると熱出るぞ」

「私、十九だもん」

 ふん、と嵐星が一瞬鼻で笑ったので私は彼の脇腹をつついた。

「んぎゃっ!」

 くすぐったがりやの嵐星が変な声をあげたので今度はこちらが鼻で笑ってやった。


「これ全部が本当に春兄の主演なんだね」

 春兄からカミングアウトされた両親がショックを受けたのも理解できる。

「嵐星は春兄にこのこと聞いてどんな感じだったの?」

「俺は正直嫌だとは思わなかった。なんかわかるところもあるって言うか。前から春兄って女の子が寄って来るタイプだったからさ」

「モテる人だよね。フェロモン出てるのかな」

「かもな。春兄はエロいけどベタッとしたいやらしさじゃないっていうか。逆に俺はいつも女の子に怖がられてる気がするけど」

「嵐星は全然エロくは見えないよ。それに怖がられてはいないから」

「そうなの?」


 そうじゃなくて嵐星の場合はカッコ良すぎて遠巻きにされてるんだよ!と思う。

 でもそれは調子に乗りそうだから黙っておく。

「たしかに春兄って色っぽいけどいやらしくは見えない。優しくてこっちの話しをちゃんと聞いてくれる紳士って感じ」


「そうか。あっ!俺今のでなんか掴んだぞ」

「何を?」

「モテるヒント的なやつ」

「はあ?何それ」嵐星がモテに真剣さを見せるとは、春兄に刺激を受けたかな。

「春兄はコミュ力が高い、それは言える。女の子と居ても落ち着いてまったり相手の話を聴いてる」

「そうなの」

「それで女の子がニコニコして楽しそうに喋ってる。それと距離感かな。女の子との距離の取り方がうまいかも知れん」

「たとえば?」

「ええとさ、こう横並びに座って一緒に呑んでるとして、盛り上がって来るだろ。女の子が気を許してちょっとだけ寄って距離を詰める。ポン、て体に触って来たりとか。そうしたら春兄は……」

「春兄は?」

「自分からは詰めない。でも、体を少しだけその子の方に向ける」


 身振りを入れて熱心に話す嵐星。

 もしかしてこれまで自分はモテない人だと思い込んでるきたのかなぁ。

 それは全く違うんだけどやはり複雑。

 それにしても随分と春兄を観察してるんだなあ、と最初は思ったんだけど。


 ちょっと待ってよ、今の話は一体どういう状況?

 兄弟で女の子と一緒に呑んでるってことは春兄と嵐星がこで二人で暮らしてた頃の話?

 なんか、なんかすごく面白くなーい!


「ねえ嵐星」

「何?」

「それって春兄と嵐星が二人でナンパした話かなあ?」

「街で可愛い子達見かけたから一回一緒に遊んだんだよ」

「ねーえー、それがナンパでしょう!」

「何をプリプリしてんの?ずっと昔の話だよ、まだお前が地元にいる頃の。何だよもう、ボウリングして呑んでカラオケしただけだし」

「本当に?」

「本当だよ。なんで愛夏が俺に怒るの?」

「別に怒ってないし!」

「じゃあそのブッサイ怖い顔やめろよ」

 そう言って嵐星は私のほっぺたをムニーッと引っ張った。



 春兄の仕事のことはそれからも考えた。

 もしも私の友達が知ったら引くかなあ、引くだろうな。露骨に引かれて距離を置かれるかも知れない。

 でも実際知ることがあるかしら?

 みんながみんな同じ反応をするとも思えない。逆に面白がる子もいそう。

 だからってあれこれ言いふらされたくもない。


 自分の就職についても考えた。

 もしかこの事が知られて影響するって事はあるんだろうか?

 でも、このことが影響して私を受け容れないという就職先は結局、私自身を必要としていると言えるのかしら?

 自分と世間と。

 普通は常識や世間体を前面に出して考える。

 だけどもっともっと単純に私自身の価値観だけで考えてみたら?


「嵐星、春兄のことあれから考えたんだけど」

「うん?」

 嵐星はリビングでシャツにアイロンを当てていた。

 アイロン掛けが好きな彼はいつも私のブラウスにまで上手にアイロンを当ててくれる。


「春兄はね、普通に真剣に考えて仕事してきたわけだし、ちゃんと売れるようになってそれで生きてるじゃない。だから私も春兄をちゃんと認めたいと思ったの」

「へえ、愛夏がそう言ったら春兄はすごく喜ぶんじゃない?」

 アイロンを動かす手を止めずに嵐星は言う。


「嵐星はもっと前から認めてるんでしょう」

「そうだな。春兄は天性のモテ要素があってスタイルいいしエロティックな事に才能があるんだ。俺はエロに真剣な人ってのが居てもいいと春兄を見て思ったんだ」


 エロに真剣、かあ。


「よく三大欲求って言うだろ。その一つを仕事として極めてると思うし尊敬してるよ。それに春兄は俺のある友達には神と呼ばれている」

「春兄が神?」

「そいつは相模春をデビューから知ってて、春兄のAVから全てを学んだからだってさ」

「そうなの、女性向け作品なのにタメになったの?」

「タメにって愛夏、……まあそうだな」嵐星はツボに入ったらしく笑ってる。

「相模春が春兄だってその友達は知ってるの?」

「そう。それでリスペクトしてるってさ。でもそこは男と女で受け止め方が違うだろうから、もしそれで何かお前が困ったら言えよ。対処は一緒に考えるからな」


 嵐星が今とても兄らしいことを言ったよ。じゃあ頼りにするからね。

「わかったよ、ヨロシク!お兄ちゃん」

「何、神妙に。お前のその反応気持ち悪っ」

 そう言いながらも彼はアイロンを当て終えた私のブラウスとハンカチを渡してくれて、それはホンワカと優しい温もりがあった。

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