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マジック×ウィング ~魔法少女 対 装翼勇者~   作者: マキザキ
第二章:魔法少女 対 異次元軍ウボーム 編

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第36話:魔法少女部は諦めない




「まさか早々に貴方に会えるとは思ってもいませんでしたわ!」



 蒼の上半身を掴み、勝ち誇ったような笑い声を上げるフェル。

 再生中に無理やり引きちぎられた蒼の断裂部からは、ドクドクと血が流れ、臓器や骨が垂れ下がっている。

 白い光がバチバチと火花を散らし、肉体を再生させているが、失われた半身を埋めるには到底至らない。

 ブレイブウィングも行方不明だ。



「蒼!!」


「おっと動いては駄目よ? この人が死んでしまうわ」



 射撃の姿勢に入った香子を、蒼の体に鋭い爪を立てつつ牽制するフェル。

 香子は「くっ……」とフェルを睨みつけながら、振りかざした手を下ろした。



「フェル! どうして貴方がウボームにいるのです!?」



 ティナが叫ぶように問いかける。

 彼女の様子から見て、どうやら一朝一夕の仲ではないようだ。



「私たちの使命を忘れたのですか!!」


「あははは! 未だにそのチンケな価値観に凝り固まっていますのね! 無様すぎて涙が出ますわ! おほほほほほ!!」



 ティナの叫びをチンケと一蹴し、上品な口調で下品に笑うフェル。



「しかしまあ、随分とマナの薄い土地ですこと。この世界の戦巫女はこんな虚弱なマナと聖力でよく戦えますわね。わたくし達が必要とされるわけですわ……」



 フェルは黄緑の魔法少女の胸に爪を突き刺し、その血を舐めながら魔法少女部の面々を見下ろす。

 黄緑の魔法少女は「うっ……!!」と小さな悲鳴をあげ、ガクリとうなだれた。

「てめぇ……!!」と響が声を漏らす。他の二人も拳を握り、悔しさと歯がゆさを滲ませる。

 今すぐにでも引きずりおろしてメタメタにしてやりたいが、蒼や魔法少女達が人質にされている以上、迂闊な行動を取ることは出来ない。



「バックイドラス。リザリオス」



 フェルの声に応じ、ふわりと舞い上がるバックドラス。

 4人の上空でホバリングし、いつでも全員を狙い撃ちに出来る体勢だ。

 リザリオスも次々と現れ、詩織、香子、響の3人とティナは敵に各個包囲されてしまった。

 「ゲヘヘヘヘ……」「ゲロゲロゲロ……」と、下衆な笑い声を発して舌なめずりをするリザリオス達。

 普段なら恐るべき敵ではないが、人質を取られて抵抗不能な現状、十分すぎる脅威だ。

 今、魔法少女部に出来ることは、総攻撃を耐え抜く覚悟を決めるくらいのものだった。

 3人は背中を合わせ、一言、二言を交わし、攻撃に備える。

 詩織は二人からかけられた言葉に、泣きそうな顔になっていた。



「やっておしまい」



 フェルの一声と共に、空から白い槍が降り注ぎ、リザリオスが飛びかかって来る。



「あああああああ!!」



 ティナの全身に白い槍が突き刺さり、リザリオス達の振るう武器が彼女の固い鱗に覆われた皮膚を抉り、削る。

 少女の悲鳴と、竜の咆哮が混じった絶叫が空気を震わせ、閉ざされた空間に轟音が走る。



「詩織!」


「新里さん!」



 もう一方では詩織に響と香子が覆いかぶさり、槍とリザリオスの猛攻から庇った。



「ぐあぁ!!」


「くぅっ!」


「先輩……!」



 詩織に出来ることは、先輩二人の悲鳴と嗚咽を聞きながら、うずくまることだけだ。



「あっははははは!! 愉快愉快! 特にその赤青黄色の方々は傑作ですわ! 3人重ねて磔にし、わたくしのお部屋に一生飾り付けたいくらいですわ!!」



 ズタズタにされていく魔法少女部を眺めながら、フェルは目を赤く光らせ、興奮した様子で高笑いする。

 その様子を見つめる住民達の瞳にはさらなる絶望が宿り、高濃度のマイナスエネルギーが宙を舞い、やがて、上空の穴へと吸い込まれていく。



「ご覧くださいザルド様! わたくし、初任務にして全ての使命を全ういたしますわ!」



 光の差さないダークフィールドで、彼女の勝利の雄叫びはひときわ大きく響き渡った。




× × × × × ×




「たすけて」



 声が聞こえる。

 靄に覆われた空から黒い槍が降る。

 眼前の魔法少女がそれに貫かれ、息絶える。



「たすけて」



 魔法少女がこちらへかけてくる。

 その彼女もまた、自分の眼前で槍衾に晒され、物言わぬ肉塊になれ果てた。



「たすけ……」



 その声はやがて小さくなっていく。

 青い光が、黒い靄を蹴散らしながら、こちらへ向かってくるのが見えた。

 その光に、黒い槍が四方から伸びて……




× × × × × × 




蒼は目を開けた。

先ほど、強い衝撃を受け、腹に経験したことのない激痛が走ったところまでは覚えているが、そこから今までの記憶が全くない。

今見えた気味の悪い光景は何なのか、現実か、夢か、そんなことを考えられないような痛みが腹部を襲った。

 尋常ではない痛み、気を緩めると失神してしまいそうだ。



(敵は……みんなは……)



 激痛に歪む視界、ブレイブウィングのそれとは異なる浮遊感、やけに高い視点、キリキリとした痛みと圧迫感のある首元……。

 どうやら、自分は何かに首を掴まれ、上半身だけの状態で宙に浮いているらしいと蒼は判断した。

 彼は自分の背後にいるであろう敵を刺激しないように、ゆっくりと眼下を見下ろす。



(!!)



 リザリオスに取り囲まれ、いいように痛めつけられる響と香子。その下で伏せている詩織。同じくリザリオスに嬲られるティナの姿が目に入った。

 バスタークロスとガンスプリンターは、敵のキメラゼルロイドの攻撃をシールドで必死に防いでいる。

 サポートバード達にもリザリオスが群がっているが、こちらはあまりの固さに手を焼いているようだ。



(なんで……って……俺のせいか……!)



 いや、正確には俺と後ろの魔法少女たちのせいで攻撃できないんだなと、蒼は思考を修正した。

 痛みで鈍る脳を必死で回し、逆転の一手を探る。



「あっはっはっは! さあ! その赤の方と青の方から捕えて差し上げなさい!」



 背後から聞こえてきた少女の声に、蒼は一瞬耳を疑った。

 同時に、眼下では、リザリオスの槍に両の掌を貫かれた響が悲鳴を上げている。

 腕を無理やり広げられ、宙に掲げられる響。

 香子は叫ぶ力も無いほどに衰弱し、敵の為すがまま手足を槍に貫かれた。



(響!! 香子!!)



 蒼は叫び、暴れたい心を、必死に押しとどめ、2人が必死に守り抜いた逆転のカギを見据えた。

 詩織は響と香子の有様に言葉を失い、固まっている。

 そこへ迫るリザリオス達。



(背後にいる奴は怪獣の類じゃない……。女の子か……。やるしなかい!!)



 蒼は最早迷わなかった。



「新里!! 今だ! こっちだ! 行けえええ!!」


「なっ!? ぎゃああああああ!!」



 叫び声と共に、蒼は自分の首を掴む腕に掴みかかり、白い小爆発を繰り出した。

「パァン!!」という快音と、フェルの絶叫がダークフィールド中に響き渡り、その場全ての視線が蒼とフェルに集中する。

 詩織はその声を聞くと同時に、超高速で空中へ飛び出していった。

 蒼の叫びが、指示が一体何を指すのかなど分からない。だが、今自分がすべきことは、とにかく前に出ることだと直感で動いたのだ。


 ひしゃげ、捥げたフェルの腕と共に落下していく蒼。

 腕の激痛に怯み、注意も動作も鈍ったフェル。



「新里!」


「はい!!」



 落ちていく蒼から放たれた白い光、それが詩織の胸の宝玉と繋がり、ダークフィールドによってダウンさせられていた詩織の能力が蘇る。

 蒼を救うか、憎き敵を討つか、二者択一……ではない。



「ライトニング・スラッシュ!!」


「ぎゃああああああ!!」



 詩織は迷わずフェルを一文字に切り結んだ。

 ズルリ。と、斜めに断裂しながら落下していくフェル。

 残心もそこそこに、詩織は華麗なバック中を決め、急降下を始めた。



「せんぱあああああい!!」



 本来の速さを取り戻した詩織ならば、二つをこなすこと等造作もないのだ。

 落下していくフェルの肉片を追い越し、詩織は蒼を空中で見事にキャッチした。



■ ■ ■ ■ ■



「よくも散々やってくれやがったな!!」



 地上では自力で槍の拘束から逃れた響が、リザリオスをちぎっては投げ、ちぎっては投げしていた。

 パワードディアトリマも加わり、魔法少女残虐リンチの場は一変。リザリオス虐殺ショーの様相を呈していた。

 レイズイーグルは香子にエナジーシャワーを浴びせ、回復に当たっている。




 ティナも雄叫びと共に立ち上がり、その巨体で群がるリザリオス達を次々に粉砕。

 エネルギーブレスの連射で、バックイドラスへ猛攻を加える。


 形勢不利と見たか、主の危機を悟ったか、バックイドラスは二つに分離したフェルを口に加え、上空へ逃げ去っていった。

 詩織とティナが追いかけようとしたが、濃密なマイナスエネルギーの靄が追撃を阻んだ。


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