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佐々木健太はベッドから起きた。

窓に近づく。カーテンを開ける。外は夕暮れとなっていた。

赤く染まる景色を見て、ぼんやりと赤髪を思い出す。


「変な夢を見たなあ。これも風邪ひいたからなのか……」


健太は喉の渇きを感じて台所に行こうとした。

足が何かを蹴る――水が張った洗面器だった。

台所に来てみると、食材のパックや缶詰や鍋なんかで汚く散らかっていた。


「ハチノコ……?それに、こっちは、スッポン汁……?」


健太は首をひねって頭をぽりぽりと掻いた。


その時、ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!という連打と、玄関ドアをドン!ドン!と叩く音、それから、「佐々木くーん!いますかー!いたら、返事をしてください!」という声。


健太はドアを開ける。

すると、そこには白泉雫がいた。彼の姿を見て、胸をなで下ろしたようだった。


「あれ?白泉?」

「もう!佐々木くんっ!私、心配したんですからっ!佐々木くんから、お昼過ぎても、全然、メールが来なくて、携帯に電話しても、全然、繋がらなくて!」

「ああ、悪い。もしかして、今って日曜の――」

「夕方ですっ!今まで何をしてたんですか!ほんとうに、私、心配で心配で……」


雫は急に黙り込んだ。


「白泉?」

「佐々木くん、臭い……」

「マジで?ああ、確かに。昨日、ちょっと風呂に入ってなくて――」

「そうじゃなくて、ウイルス臭い……」

「ウイルス?あっ、そう、白泉。俺がメールできなかったのは、昨日から風邪引いてたからで、それで今までずっと寝てたんだ。何て言ったっけ、えっと、ライノウイルスだっけ?」

「ライノウイルス……」

「そのウイルスのせいで、熱は出るは、吐き気はあるは、もう大変でさ」


「ふーん。で、佐々木くん。一つ質問してもいいですか?」

「ん?何?」

「佐々木くんは今からお風呂に入ろうとしていたんですか?浴室から水の音が聞こえてきますが」


健太は後ろを振り返った。

確かに、浴室で水の音がしていた。


「でも、変ですね。これ、シャワーの音ではないですか?佐々木くんはシャワーで湯船にお湯を張るごく稀な人ですか?それとも――」


健太はドアを一気に閉めて鍵をかけた。

そして、浴室の扉を開けて中に入った。


湯気でもうもうとする中に、濡れた赤髪――裸のライノがそこにいた。

赤い目がこちらを向き、そして、唇をにぃっと歪める。


「おっ、人間、もういいのか?風呂、勝手に使わせてもらってるぜ」

「おまっ、おまっ、夢に出てきた――」

「夢?まだ寝ぼけてんのか、人間。お、そうだ、ちょうどいい、ここで済ませちまうか。おい、人間、ちょっと体を貸しやがれ」


そう言うとライノは健太の体に小さい体を密着させた。

次の瞬間、彼の足は刈られ、宙に浮き、そして、背中からタイルの上に落っこちた。

うめく健太の上にライノは馬乗りになる。


あっと思う間に、健太の唇はライノの唇で塞がっていた。


健太はチクッと痛みを感じる。


ライノは唇を離した。

健太が唇をぬぐうと、手のひらに血がついた。


ライノが口をもごもごとさせて、べえと舌を出した。

舌の上には一個の紅い弾丸がのっかっていた。

彼女はそれを指で挟んで目の前まで持っていく。


「うーん、変異はなし。まあ、最初からそう上手くはいかねえか。まだまだ象でもクジラでも一発で殺れそうだぜ」

「ライノ、何をした……」

「別に、ちょっとばかり血をもらっただけじゃねえか。そう目くじらを立てるな。それからよ、そのライノってのはオレの正式な名前じゃねえ。オレが属している、言ってみれば、ファミリーネームってやつだ。そこでだ、人間。光栄にもお前にオレの名前をつけさせてやるぜ。ほら、かっけー名前を言ってみろって」


「スッポン……」

「あぁ?」

「お前なんかスッポニア・スッポンで十分だ!このスッポン女!」

「上等だッ!ごらァッ、人間!」


ライノはカッと赤い目を見開いた。

片手を上げて、小指から中指までを折り曲げた。


「来い――ッ!火腐死怒カプシド――ッ!」

「来なさい!獲流凍棄低涙エルゴステロール!」


凍てつく風が一閃。

ライノは片手を上げたままの姿勢で、かちんこちんに凍りついた。

浴室の扉の向こうには、氷の弓を構えた雫が立っていた。


雫は健太の上のライノを湯船に投げ捨てる。お湯は張ってないわけだから、当然、ゴトリと鈍い音が響いた。


雫はハンカチを取り出すと、健太の唇にあてた。


「白泉、どうやって部屋に――」

「佐々木くんの命が危ないと思って、迷いましたが、管理者権限を行使させてもらいました」


そう言って、鍵の束を見せる。


ぷしゃーっと蒸気が弾ける音。

湯船の中に立ち上がった、ライノは、赤い目と赤い髪を燃え上がらせていた。


「不意打ちとはやってくれるじゃねえか。さすがは下等バクテリアだぜ」

「バクテリア?何を言って……」


健太はライノの視線を追ってぽかんと雫の顔を見た。

雫はいつもの彼女からは想像できない鋭い目でライノを睨んでいた。


ライノが雫を指差して言う。


「人間、お前は知らねえみてえだから教えてやる。そいつはな、下等バクテリアの中でも人間の大の嫌われ者――白癬菌だ。それとも、水虫菌っつった方が分かり易いか――?」

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