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健太は額に軽い重みを感じた。

彼の体から熱っぽさは消えていて、逆に、額のそれがほのかに熱かった。


健太は目を開ける。

すると、すぐ間近に迫った赤い目とぶつかった。

ライノがベッドに仰向けの健太の上に小さい体ごとのり、彼の額に自分の額を当てていたのであった。


ライノは額を離す。にぃっと口を歪めた。


「熱、下がったみてえだな、人間」

「あっ――」

「あぁあん?なんだよ」

「お前……ライノは俺のことを看病してくれたんだよな?礼を言ってなかった。ありがとう」

「フン、なんだそんなことかよ。俺はてっきり、また『母さん』なんて言われるかと思ったぜ。もし、言いやがったら、もう一発、オレのとびきりの弾丸をぶち込んでいたところだ」


ライノはそのまま転がって健太の腹の上に頭をのせた。


「いや、まあ、オレの方こそ、あんがとな。オレに殺されず、死なねえでいてくれて。はっ!お前、すげーよ。オレの弾丸を一発でも受けきるなんてよ。……なあ、人間、オレらウイルスの一番の目的って何か知ってるか?」

「……人を殺すことか?」


健太はみぞおちに肘鉄を食らう。


「ばーか。そいつは下の下のヤロウがすることだ。究極は、お前えら人間とオレらウイルスも変わらねえよ。つまりな、種を増やすことだ」

「種を増やす……」

「ああ。お前らがせっせと子作りするみてえに、オレらはせっせと分裂して、オレと同じ種で地球を埋め尽くして支配するってのが一番の目的だ。そのためには人間を始めとする生き物に感染するってのが最低ラインだ。なんたって、オレらウイルスは自力で分裂できねえ。生き物の体を借りて、ようやく、分裂できる。種を増やすことができる。その点でいや、オレが属するライノウイルスってのは優秀でよお、人間に感染しても滅多に人を殺さねえから、人間の体の中でごまんと分裂できる。咳、鼻水、くしゃみで他の人間に感染すれば、そいつの中でもごまんと分裂する。感染、分裂、感染、分裂――そんな無限ループで、ライノウイルスはこの地球で着々と勢力を伸ばしてきた……」


「だがよ、ライノウイルスって言っても、一つじゃねえぜ。お前ら人間でいや、日本人だとか、アメリカ人みてえに、違った種族の集まりだ。そして、お前ら人間と違って、次から次に、ひっきりなしに、新しい種族が生まれるんだ。オレもその一つだ。オレはオレが生まれたその日に、野望を抱いたぜ。いつか、ぜってーに、オレの種で地球を埋め尽くしてやるって――。だがな、オレはとびっきりヤベー殺人ウイルスだった。ライノウイルスとしては規格外にな。おまけに、感染力はほぼ〇ときてる。どこの誰かに感染した時点で、即、終了。そいつは死んで、オレはまともに分裂もできねえ。そんなオレに他のライノウイルス共は劣等種の烙印を押しやがったッ!」


「人間、お前らの社会にもあるだろ?そういうヤツをぶち込むところがよ。オレも檻にぶち込まれた。あってはならない、存在自体、なかったことにされた。オレは吼えたぜ。だってそうだろ?じゃあ、一体、何のためにオレは生まれたんだよ……。そうやって、オレは、もう何年か分からねえぐれえ長いこと、そこでくすぶってた。だが、ちょっと前にごたごたがあってよ、運良く逃げ出して、オレは人間の中にさまよい込んだ。オレとつり合うヤツを必死になって探したが、全然、見つからねえ。諦めかけた時、人間、お前を見つけたんだ。ぴーんときたぜ。そして、ばーんととびきりの弾丸を一発ぶち込んだ」


「なあ、人間、オレをその体に受け入れろ。もっともっと分裂させろ。心配すんな。オレには感染力はねえ。お前以外のやつには危害を加えねえ。それに、お前はすでにオレに対して免疫がついている。お前にも今日以上の苦しみはあたえねえ。だから、もう一度言うぜ。人間、オレをその体に受け入れろ。もっともっと分裂させろ。そして、オレは、いつか、ぜってー、オレの種で地球を埋め尽くして、支配して、劣等種ってレッテルを貼った奴らを見返してやるぜ」


健太があくびしながら、言う。


「だけど……いくら分裂したところで殺人ウイルスのままじゃ……意味ないだろ」

「お前、やっぱり、ジョーシキねえなー。オレらウイルスは分裂し続けていると、時たま、種の再構築がされんだよ。専門用語では「変異」っつんだけどな。なんで変異するかっていうと――まあ、今はいっか。お前はゆっくり休め。これからよろしく頼むぜ、相棒」


健太の視界に赤髪が這い上ってきた。

彼のまぶたは、ほのかに熱い手のひらでゆっくり閉じられた。

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