第六話 「俺、機械生命体に襲われる」
ハッチを手動で閉めて操縦席に腰かけた後、俺はシステムを操作していた。動かす分には問題ないらしいが、武器などは全て使い果たされた状態だった。
「よし、これくらいの損傷なら俺でも動かせそうだ。でも、操縦桿は握るなって言われちゃったし、今は大人しく待機しとこうかな」
俺は一息吐き、緊張の面持ちでモニターを見つめる。
すると、暫くして敵の接近を知らせるアラートがコクピットに鳴り響いた。
反射的に身構えると、サブモニターに大きな反応が一つ映った。その反応のすぐ後ろに連なるように無数の点がいくつも感知されたので、嫌な汗が流れ始める。
「なんなんだよ、この大群は……」
見た事がない数の敵が押し寄せていた。たまに宇宙船に飛来してくる敵は一匹か二匹くらいだ。それに対して敵の数は約千体。恐れ慄くのも無理はなかった。
「マリウス先生は!?」
全天周囲モニターが起動できないので、〝ヒルディスビー〟の姿をサブモニターに映すように設定をする。どうやら、マリウス先生は〝グルヴェイグ〟よりも高い位置で身を潜めているようだった。
今度は敵の姿を確認する為にシステムを操作した。
すると、白騎士をモチーフにしたようなヴァルキリーが、無数の敵―ダニのような短い足に平たい形状の機械―を相手に戦っている姿が映った。
白騎士は手に握っていた長剣で振り抜き、敵を纏めて一刀両断している。しかし、敵の数が圧倒的に多くて捌き切れていない。次々と白騎士の背中に取り付いていくのが見える。
「敵に襲われてるのか? マリウス先生の話だと、〝ナンバーズ〟っていう強敵だったはずだけど……」
俺は助けに行くべきか迷い、操縦桿をチラッと見やる。
「マリウス先生には操縦桿は握るなって言われてるけど、あのままじゃ危ない気がする。どうする、俺……」
助けに行くべきか、否か――。
迷った末に操縦桿に手を伸ばそうとした。
そのタイミングでアラートが鳴る。どうやら〝ヒルディスビー〟が先に動いたようだ。
〝ヒルディスビー〟の腰に装着しているビットを全てバラし、敵に向かって集中照射した。白騎士に群がっていた敵が全て真っ二つになり、ブシャッ! と血飛沫が上がる。
血の滴が浮かぶ中、白騎士が〝ヒルディスビー〟がいる方向を見据えていた。どうやら、お互いの位置が分かったらしい。けど、剣を交える事なく静かなのを見る限り、白騎士には話の分かる人間が乗っているような気がした。
「マリウス先生が無事で良かった……ん?」
一息吐いたのも束の間、カリカリカリ……と何かが引っ掻くような音が聞こえてきた。俺は緊張の面持ちに変わる。嫌な予感がした俺は拾った銃を握り締め、操縦席から立ち上がる。
ハッチの方から聞こえてきた。足音を立てずにゆっくりと音がする方へ向かう。デバイスのライトを使って、ハッチを全体的に照らしてみた。
「マジかよ……」
先程、モニターで確認した敵がハッチの隙間から侵入しようと試みていた。どうやら、施錠部分を焼き切った事が仇となったらしい。細い足を器用に使い、グイグイと身体を捩じ込ませようとしている。
この時、俺は怖いというより、気持ち悪さの方が勝っていた。機械に肉付けをした生々しい生き物。細い足を波打たせている様はまさに害虫の動きそのものだった。
「コクピットの中で銃なんか撃ちたくねぇけど、こればっかりは仕方ないよな! 命は一つしかねぇからな!」
俺は両手で構えて引き金を引いた。撃った時の反動と音に驚いてしまったが、なんとか敵の足に命中する。その際に『ギュッ!?』という声が聞こえてきた。『ギュピッ! ギュピッ!』と騒ぎ立てる様を見て、俺は背筋がゾッとしてしまう。
「まさか、機械のくせに痛みを感じてるのかよ……」
なんだか恐ろしくなってきて、俺は後退りした。
敵は赤い液体を垂れ流しながら、傷付いた足を無茶苦茶に動かしている。そのせいで血飛沫が床に飛び散って、殺人現場のようになっていた。
仲間の悲鳴を聞いた奴等も〝グルヴェイグ〟に体当たりし始めた。ドンッ、ドンッ! という鈍器で殴ったような連打音が絶え間なく聞こえてくる。怪我した仲間を巻き込むような体当たりを繰り返しているせいで、ハッチには絶え間なく赤い液体が滴り落ちていた。
このままじゃ、ヤバい! ハッチを壊される!
そう思った俺はハッチに向かって銃弾を打ち込んでいった。手首の痛みや跳弾なんて気にしてられない。自分の身を守る事が先決だ。
そもそも、あんな得体の知れない奴等と一緒の空間にはいられない。例えるならアレだ。害虫を駆除しない限り眠れないという、あの現象に似ている。
「クソッ! こっちに入ってくんな、バカッ!」
暴言を吐いてしまう程に余裕がなくなっていた。
暫くして、カチカチと乾いた音が響く。どうやら、銃弾を全て撃ち尽くしてしまったらしい。
俺は銃を捨てて慌てて操縦席に戻った。どうやったら、この状況を打開できるか必死になって思考を巡らせる。
「通信機能は!? 駄目だ、エネルギーが足りてない! そもそも、起動キーすら見当たらない! 〝グルヴェイグ〟は特別な機体だって、マリウス先生が言ってたのはこういう事かよ!?」
サブモニターに拳を叩き付けた。恐らく、マリウス先生は白騎士と一緒に敵を掃討しているに違いない。という事は、俺を気にかける余裕もない。
俺はコントロールパネルに突っ伏した。
まさに絶体絶命である。こんな状況でどう切り抜ければいいのだろうか。
「…………助かる方法はあれしかない」
視線の先にあるのは〝グルヴェイグ〟の操縦桿だった。
父さんもマリウス先生も『危険だから』と頑なに触らせてくれなかった。
勘でしかないが、操縦桿を握れば何かが起こる。
エネルギー残存量が少ない機体でも、機体に群がる敵を薙ぎ払うくらいは動かせるのではないだろうか。
「へへっ、マリウス先生との約束を破るのは何年振りだろうな……」
悪い事をしている自覚があるせいか自然と口角が上がる。
多分、怒られるだけじゃ済まないかも。けど、今は〝グルヴェイグ〟を動かさねば生き残る道は残されていないのだ。
「頼むぜ……。動いてくれよ、〝グルヴェイグ〟!」
俺は意を決して操縦桿を握った。
その瞬間、俺の意識はブツンと途切れてしまった。




