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ヴァルキリー戦記【父親が人型戦闘兵器になったので、人喰い機械を全てぶっ壊します】  作者: 尾松成也
episode1 Ghost Rebellion

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第一話 「俺、先輩を返り討ちにする」

 父親譲りの燃えるような赤い髪と赤い瞳。身長は一七〇センチくらいの程よく引き締まった普通体型。グラズヘイム高等専門学校のパイロット科に通う一年生でもあり、宇宙船・ブラズニルを救った英雄の息子――それが俺、シンラ・イグニスの肩書きだった。


 俺は今、〝ヴァルキリー〟と呼ばれる人型戦闘兵器のコクピットの中にいる。全長十二メートル、重さ四十トンくらいの型落ち機――つまり、お古だ。


 グラズヘイム高等専門学校は軍直轄の軍人養成機関だから、軍のお下がりを学校でありがたーく使えるってわけ。まったく軍には頭が上がらないね。ありがたや、ありがたや。


 でも、父親譲りのキツい目付きのお陰で上級生から絡まれる事が多くてさ。高等部に進級して早々、二年生に絡まれてるんだよね。


 あ、ちなみに俺は何もしてないぜ? 中等部の顔馴染みにカツアゲしようとしてたから、止めに入ろうとしたら暴力を振るわれそうになったんだよね。返り討ちにしてやったら、決闘を申し込まれて今に至るってわけ。


 まぁ、考え事はこれくらいにして、さっさと決闘申請を済ませるとしますか!


 ――決闘を始める前に貴方の所属と名前を登録して下さい。

「グラズヘイム高等専門学校パイロット科、S1Aクラス所属のシンラ・イグニス……っと」


 ――決闘に勝利したら相手に何を求めますか?

「えっ、なんでも良いの? 先輩をサンドバッグにさせて下さいとかでも良いわけ?」


 ――暴力行為は一週間の停学処分扱いになります。保護者と担任による三者面談後、指定のカリキュラムをこなす必要がありますが、その要望で申請を通しますか?

「撤回しますっ、撤回させて下さいっ!」


 俺は慌ててNOを選択した。それを分かってて誰が申請なんかするか、バーカッ!!


 AI相手に憤慨しながらも、俺はここである事を思い付く。生身での殴り合いは駄目なら、機体同士の殴り合いならどうかと思ったのだ。


「ねぇ、AIさん。決闘中に機体が大破しても問題はないの?」

 ――多少の損傷は認められてます。


「機体との同調率はどこまで上げていい?」

 ――三十パーセントが限度になっています。それ以上の同調率は命の危険を伴う為、原則認められていません。


 AIの返事を聞いて俺は口角が上がった。

多少の損傷は認められる、か……。要するに壊さなきゃセーフってことね。それに同調率も三十パーセントもあれば、機体が受けたダメージがパイロットにも伝わる。身体に電気が走る程度の痛みを感じるくらいだし、遠慮なくボコボコにできるってわけだ。


「俄然、やる気が出てきたぜ! 決闘なんだからそうこなくっちゃな!」

 ――もう一度、問います。貴方は決闘に勝利したら相手に何を求めますか?


「先輩が今までカツアゲした物を元の持ち主に返してもらう! それが俺の望みだ!」

 ――シンラ・イグニスの要望受諾。ブラズニル高等専門学校・生徒会兼決闘委員会へ承認申請中……。可決されました。


 要望が可決された事で全天周囲モニターが起動した。

視界が良好になったものの、軍のお下がり機体だからか、モニターの一部に変な色線が所々に入っている。万が一、この決闘で壊れてしまってもメンテナンス科に回るだけだから、むしろ今よりも綺麗になって良いかもしれない。


「よぉ、新入生。高等部へ進学早々、決闘を受ける事になるとは運が悪い奴だな!」


 モニターに対戦相手である先輩の顔が映し出された。止めに入った時から思っていたが、見るからに頭の悪そうな印象の人間だ。素直に注意された時に謝罪していれば穏便に済んでいたのに、とんだ馬鹿な奴がいるもんだなぁ……。


 俺は無意識のうちに憐れみの目を向けていたらしく、先輩は眉間に皺を寄せて舌打ちをした。


「さっきからなんなんだ、その反抗的な目はよぉ!?」

「あー、目つきが悪いのは生まれつきなんで。文句があるなら父親に言ってください。まぁ、戦闘中行方不明になってるんで無理でしょうけど」

「英雄の息子だからって、あんまり調子に乗るんじゃねぇ! てめぇなんか、この俺が直々にぶっ殺してやる!」


 プライドだけは立派な先輩の顔がトマトみたいに真っ赤になった。


 先輩はブースターを起動させて空高く飛び上がった。しかし、宣誓する前に戦闘行動を開始したせいで、AIに警告されてしまう。


 ――警告。決闘は必ず宣誓後に行動を開始してください。

「チッ、相変わらず細かいAIだな! 我々は信念の名の下にヴァルキリーを操縦し!」

「己の正しさを証明せん……だっけ?」


 AIが決闘を受諾した事で訓練用バーチャル空間内に高層ビル群が構築された。都会をイメージしているのか、アスファルトの上には横断歩道や路駐している車まで再現されてある。相変わらず、凄い技術力だと俺は他人事のように関心してしまった。

 

 俺はビル群の間を低空飛行のまま前進する。どうやら、先輩は近くにはいないようだ。


「さて、どこから攻撃を仕掛けてくるかな……」


 とりあえず、俺はどこから来ても対応できるようにライフルを手に取った。しばらく警戒していると、頭上からミサイルが放たれた事を知らせるアラートが鳴った。


 俺は低空飛行のまま身を翻し、標準装備のライフルで全弾撃ち落とす。視界一面に白煙が広がった。どうやら、スモーク弾も紛れ込んでいたらしい。一度、後退しようと思ったが止めた。今出て行ったら蜂の巣にされてしまうと思ったからだ。


 銃を構えたまま身構えていると、白煙の中から量産機特有の黄色い眼光が薄らと光っているのが見えた。ブレードを装着している事にも気付いた俺はフェーズシフト・バリアを展開する。


 ブレードの先端がバリアに当たった瞬間、バチッ! と稲光が走った。出力具合を見るに、俺を一撃で仕留めようと考えていたらしい。


「ヘッ、意外と肝が座ってるじゃねぇの! 経験が少ない奴は煙幕を張られた瞬間、その場から逃れようとするのにな!」

「こう見えて小さい頃から鍛えられてるんで。多分、友達と過ごしてるよりヴァルキリーに乗ってる時間の方が長いと思いますから。ぶっちゃけ、先輩よりも場数は踏んでます」


 事実、物心つく前からヴァルキリーに乗せられていたし、父親が戦闘中行方不明になってからも周りの大人達が俺を放っておかなかった。


 俺もヴァルキリーを操縦するのは嫌じゃなかったし、むしろ楽しかったから毎日続けて来たけど。英雄の息子っていう厳つい肩書きもあるし、親の七光りなんて言われたくないしな。


 先輩は少し頭が冷えてきたのか、面白いというように笑った。


「確かに今までの奴とは違うみたいだが、減らず口もここまでだ。ここからは本気(マジ)でいくぜ!」


 このままでは気持ちよく勝てないと思ったのか、出力を上げてきた。再び、AIから警告がなされる。


 ――警告。現在の同調率、四十パーセント。同調率は三十パーセント以下に設定して下さい。

「ハッ、嫌なこった! こんな狩りがいのある後輩はそうそうお目に掛かれねぇからな! 俺が全力で叩き潰す!」


 ブレードの先端がフェーズシフト・バリアを貫いた。バリアが砕け散り、持っていたライフルも真っ二つになった。手の甲にビリッとした痛みを感じ、俺は少し顔を歪める。


「おいおい、ビビっちまったのか!? 動きが鈍いぜ、ルーキー!」


 ブレードを振り下ろしたり、薙ぎ払ってきたりと読めない攻撃が続いた。その間も同調率が上がり続けているのだろう。自分の手足みたいに動きが滑らかになってきている。体感的には同調率五十パーセント以上ってところだろうか。


「あーあ、どうなっても知らねぇぞ……」


 俺は呆れた顔で独り言を呟く。同調率五十パーセント以上になると感じる痛みの度合いが違ってくる。俺がさっき感じたような痛みではなく、本当に切られたような痛みに襲われるのだ。これが同調率を上げる最大のデメリット。


 しかし、だからといって手加減するつもりはない。

被害に遭った人達の分だけ拳を叩き込むと決めたからには、最後までやり遂げたいからな。よし、決めた。遠慮なく先輩を全力でぶん殴ろう。そんで暫く、病院で過ごしてもらおう。そしたら、中等部や初等部の学生も安心して学校生活が送れるもんな。


 三秒間で先輩を病院送りにすると決めた俺は攻撃を躱すのを止め、反動を抑える時に使用するアイゼンを右足だけ起動させた。アスファルトに突き刺して急ストップした後、ブースターを最大出力。相打ち覚悟で拳を顔面に叩き込んでやる。


「ぐぉっ……」


 先輩の機体が仰向けに倒れ込んだ。

俺はチャンスといわんばかりに先輩の機体の上を跨いだ。抵抗できないように両膝で機体の両腕を押さえ付け、右手を高々と振り翳す。


「せーんぱいっ♡ 今から先輩がカツアゲした人数分だけ殴らせていただきますので、歯を食いしばって耐えてくださいね♡」

「ま、待てっ! 早まるなっ、アッ――」


 ガツンッッ! という聞き慣れない音がバーチャル空間内に何度も響き渡った。舗装されているように見えるアスファルトにも、機体がめり込んで大きくヒビ割れている。その間も先輩の野太い悲鳴が続く。それでも、俺は止まらなかった。


「こ、こうさんです……。おれの……まけをみとめます……」


 先輩が降参し、俺は初勝利を果たした。いつも通りであれば、その日の内に望みが叶えられるらしいが、先輩が気絶して起きそうになかったので、後日改めてという事になった。

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