第二十一話 始まった二学期
なんだかんだ時は過ぎ、あっという間に二学期を迎えてしまった。司令官直々に外出禁止を命じられたので、担任の先生から送られてきた特別カリキュラム(数の暴力)や筋トレをこなす日々。
正直、息が詰まりすぎて発狂しそうになったのは言うまでもない。というか、三日に一回は発狂してた。顔を枕に埋めながら、「もう嫌だぁぁぁぁっ!!」と叫んでは、マリウス先生に笑われてた。
そりゃあ、タナカさんの尋問に比べたら遥かにマシだったわけだけど、他人から行動を制限されるのが、ここまで苦痛になるとは思わなかった。
「ん〜、やっぱり娑婆の空気は最高だなぁっ!!」
謹慎期間を終え、晴れて自由の身になった俺は上機嫌で学校へ向かっていた。舗装された道に行き交う車。等間隔に植えられた街路樹。学校に向かう生徒達が談笑しながら歩いている、ごく普通の日常風景。
当たり前の日々が嬉し過ぎて、今なら本当に涙を流せそうだと思った。
(あ〜、自由って素晴らしい! 暫くは問題を起こさずに平穏な学校生活を送りたい! 先輩達、頼むから暫くは喧嘩を売ってこないでくれ!)
心の内で切実に願っていると、隣で歩いていたマリウス先生が嬉しそうに笑いかけてきた。
「これくらいで済んで本当に良かったね。条件付きではあったけど、〝グルヴェイグ〟も中央の管轄にしなくてもよくなったみたいだし」
「お決まりの大人の事情ってやつだろ? でもさぁ、〝グルヴェイグ〟に乗っちゃいけないだなんて、あんまりだと思わない!? 俺は今すぐにでも父さんと話したいのに!」
自分の率直な気持ちを伝えると、「まぁ、仕方ないよね」と苦笑いされてしまう。
「格納庫内であれだけ暴れちゃうとね。でも、〝グルヴェイグ〟の安全性が確認できれば、また状況は変わるかもしれないよ」
「……そうだといいんだけど」
ポツリと呟くと、マリウス先生が俺の頭をポンポンと撫でてきた。
「焦らない焦らない。家に帰ったら話を聞いてあげるからさ。今日は久しぶりに学校に来たんだし、先ずはクラスメイトの子達と会ってきなよ」
学校の正門から少し離れた所にクラスメイト達が談笑しながら歩いているのが見えた。久しぶりに見る友人の後ろ姿を見て、俺は自然と笑みが溢れる。
「あ……そういえば、マリウス先生は今から校長に挨拶しに行くんだっけ? 案内しなくても大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。誰かさんのお陰で学校から呼び出されまくってたからね。職員室や校長室、生徒会室の場所まで覚えてるよ」
マリウス先生が意地悪そうな顔になったのを見て、「うん! なら、大丈夫だな!」と言い残し、サッとその場を後にした。
「イグニス君、人前で腕は捲らないようにね!」
「分かってるー!」
大きな声で返事した後、鞄を背負い直して走っていった。
あっという間にクラスメイトのガイアとリックに追い付き、「よぉ、久しぶりだな!」と背後から肩を組むと、二人は目を丸くして驚く。
「イグニス!? お前、今度は何をやらかしたんだよ!?」
「へっへーん! 聞きたいか、俺の武勇伝を!」
俺達は和気藹々と教室へ向かって歩いていった。
◇◇◇
「それで、俺は一ヶ月と少しの間、謹慎処分をくらったってわけ!」
俺は教室のど真ん中で陣取って話していると、クラスメイト達は終始、興味深々な様子で耳を傾けてくれたのだった。
「父親の機体を探しに立入禁止宙域に行ったのかよ!?」
「軍に捕まったんだろ!? 大丈夫だったのか!?」
「それで!? 肝心の機体は見つかったのかよ!?」
怒涛のように押し寄せる質問に俺は「勿論、見つけたぜ!」とピースサインを向けると、教室内は「うおおぉぉぉっ!!」と異様な盛り上がりを見せた。
「マジかマジかマジか!! すっげぇじゃん!!」
「機体だけでも見つかって良かったなぁ……」
リックが大興奮している隣で、初等部から今までクラスが一緒のハヤテが涙ぐんでいる。ガイアや他のクラスメイト達も笑顔で頷き合っているのを見て、マジで良い友達を持ったなと俺は思った。
「それで? その〝グルヴェイグ〟はどうなったんだよ? 親父さんが使ってた機体なんだから、イグニスが使っても問題ないだろ?」
「リックもそう思うよな? でも、現実は使用制限がかけられちまって、暫くは使っちゃいけないらしいんだよね」
俺の言葉を聞いたクラスメイト達が、今度は一斉に残念がった。
「なんでそうなるんだよ!? 普通は家族に譲渡されるもんじゃねぇのか!?」
「俺にもサッパリ分かんねぇよ。多分、よくある大人の事情ってやつだ」
そこまで喋ると、タイミング良くチャイムが鳴った。
すると、校内一の強面で有名な担任のクロード先生が教室に入ってきて、ピリッとした空気に変わる。
「貴様等、さっさと自席に戻れ。今日は紹介せねばならない人間が二人いる。いつも以上にキビキビ動け。リック・オルブライト、机の上に私物を広げるな」
クロード先生の指示がテキパキと飛ぶ中、俺達は文句を垂れつつも自席へ戻った。「二学期から赴任してきた先生を紹介する」という淡々とした説明の後、顔見知りのイケメンが教室の中へ入ってきた。
「マリウス・焔・イクシード先生だ。このクラスの副担任として迎えることになった。パイロット科の他にも整備科の講師として教壇に立つ予定だ」
「マリウス・焔・イクシードです。ヴァルキリーの操縦歴だけは誰よりも長いので、大抵の質問には答えられると思います。逆に皆から学校の事を教えてもらうかもしれないから、これからよろしくお願いします」
クラスメイト達が「あの人、めっちゃくちゃカッコいいな!」とか、「どれだけ上手いんだろうな?」と次々に噂している。俺はなんだか誇らしくなって、マリウス先生と目が合った瞬間、白い歯を見せて笑いかけた。
「静粛に。次は転校生の紹介だ、入ってきたまえ」
クロード先生の合図で教室に入ってきた生徒を見て、皆が騒然した。クラスメイトの中には「俺達にも春が来たーー!!」と拳を突き上げて喜ぶ奴もいたが、俺は開いた口が塞がらなかった。
その転校生とは、致命傷を負って行方が分からなくなっていたソフィアだったからだ。桃色の長い髪を頭の高い位置にまとめ上げた、目が大きくて気が強そうな女の子。あんな衝撃的な出会い方をしたのだ。見間違えるはずがない。
「ソフィア・ロズヴァイセです。よろしく」
非常に短い挨拶だというのに、クラスメイト達から割れんばかりの拍手が鳴り響いた。大歓迎ムードの中、俺だけ拍手をしなかったものだから、ある意味悪目立ちしていたのだろう。すぐにソフィアと目が合ってしまった。
(なんか……とってもヤバい気がする……)
ソフィアが意味深に笑ったのを見て、俺は引き攣った笑みを浮かべる事しかできなかった。




