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34話 新しい出発、ひき逃げを添えて


 青空が広がる集落の中を、荷台を引いた一台の赤い大型バイクが走行していた。機体は捕食型の残骸を用いて作られており、ところどころにその面影を感じさせていた。

 

 ちなみにこのバイクだが、先代店主の遺した数々の作りかけのガラクタに、ユゥインが手を加えたものだ。

 

 運転席には偏光ゴーグルを装着したシャオが座っており、手を精一杯に伸ばして危なっかしい運転をしている。

 その後ろに座るのはヴィハーンだ。バイクと同じで、彼の機体も所々、外殻が赤い物へと変わっていた。

 

 本来はヴィハーンが運転をするのだが、もし彼が何かあった時のために、安全地帯では練習も兼ねてシャオが運転をしている。

 そのためパネルを操作して、今の速度は一定以上でないモードに切り替えられていた。

 

「やっぱりさ、足を動かしてないのに動くなんて凄いよ」


 だが少女にとってはそれでも十分に早く感じる速度で、楽しそうに目を輝かせていた。ハンドルから手を放さず、ロングスクリーン越しに前方を見ている。

 荷台を引くその巨体からは排気音ひとつ聞こえず、地面を踏みつけて進み続けていた。


「馬は楽園にはいなかったのか? 移動手段だけでなく、荷役や食肉にも使えるだろう。必須だと思うが」


 彼は予想と違う楽園の事情の一つに、不思議そうに尋ねる。

 

「オドゲレル先生が一頭飼育していたよ。あとは郵便の人が一緒に連れてきたりしてたかな。馬車は街から村の人が帰ってくる時にみんなを乗せて来るらしいけど、私は見たことが無いや」


 そこで横道から他のアンドロイドがのっそりと飛び出してきた。しかもこちらに気が付くと路上で大の字に寝転び始めた。いわゆる当たり屋である。

 

 とはいっても、のたのた走る二輪車だ。そう広くはない道幅と、おぼつかない操作では避けるのは難しい。だがブレーキは十分に間に合う距離だった。


「丁度いい。ブレーキを掛けてみろ」


 そういわれ指を必死で伸ばすが、もともとが腕を限界まで伸ばしていたこともあり指がブレーキバーに届くことはなかった。

 その様子を見るとヴィハーンは言葉だけは仕方がなさそうに呟いた。


「仕方がない、そのまま進め」


 それに従って二輪車は進み、ついには当たり屋のアンドロイドの上をそのまま乗り越えた。とても苦しそうなうめき声が下から響いたが、それも次第に後ろへと流れていく。


「あれっていいの?」

「問題ない。あれに痛覚はない」

 

 その言葉通り、背後からはヴィハーンへの罵倒が大声で飛んでくる。それだけ相手は健在であることが伺えた。

 バックミラーで確認すると彼の足が逆向きに曲がっているように見えるが、遠いので見間違いだろう。

 ヴィハーンは鏡ばかり見るシャオに前を見るよう注意する。彼は先ほどの事はやむを得ないことと考えていた。

 

 本来であれば避けたほうが良いが、シャオはまだ初心者であり、無理に避けたほうが転倒の危険性が高い。

 また、先ほどのように何かを要求することが目的で止めようとする存在はどこにでもいる。

 まあ色々あるが、それらすべてをひっくるめて彼なりの助言をした。

 

「避けられない場合はそのまま轢けばいい」

「うん、わかった!」

 

 ユゥインが聞けば訂正が入るような教えも、彼女がいない今、シャオは素直に飲み込んでいく。

 

 言い訳するならば、ヴィハーンはシャオが暴走運転するとは思っておらず、もしもの時の緊急時の対応として伝えているつもりだ。

 とはいえ、シャオがどう受け取っているのかは誰も知らないが。


「あ、ミウだー!やっほー!」


 道の向こうのほうから手を振って近づいてくる白い毛玉がいる。ミウナインだ。

 手を振り返すシャオの代わりにヴィハーンがブレーキをかけて、ミウナインの傍へゆっくりと止まっていった。


「ミウ、珍しいね。お昼近くなのにここにいるの」

「あら。そんなシャオちゃんこそお昼近くなのに出発するのは珍しいんじゃない?ま、アンタの事だし寝坊したんでしょうけど」

「うぐ……」


 まさに図星の指摘をされて、顔を皺くちゃにして怯む少女を見てフフンと笑う猫頭。

 ミウナインの口調は以前とは違って滑らかで、つっかえの様な、したっ足らずの様な印象はきれいさっぱり消えていた。


 「ミウナイン、不調が治ったのか」


 ヴィハーンがそのことについて指摘をする。何を思っているのかわからない、あるいはただの事実確認のような平坦な声だった。

 ミウナインの特徴ともいえるあの舌ったらずの口調は機体の不調によるもの。だが、いくら検査しても原因不明のものだ。


 ……だったのだが


「ヴィハーンさん。ええ、綺麗さっぱりね。指輪が無くてももう大丈夫よ」

「……そうか」


 シャオは知らないことだが、ミウナインの指輪への執着はかなりの物だった。

 バーチャルアクセサリーが主流の時代において、物理的なアクセサリーはコストのかかる趣味であり、主にヒューマノイドの物だ。

 それに加えてどれも繊細で美しい物ばかりで、それらで指を埋め尽くすほどそろえるのは並大抵の努力ではできない。

 

 しかし、それらの一切が無くなった彼女の手はすっきりと、白く美しい毛並みに覆われていた。


「ミウ!今日の私の服ミウとお揃いだよ!」


 無言でそれを見つめている彼をよそに、シャオは今着ている服をミウナインに見せた。微妙に色合いは違えどほぼお揃いのウェスタン風になっている。

 それを見てミウナインは耳をピンと立てた。


「アンタもユゥインさんに作ってもらったのね!」

「“も”って事は、ミウの服も?」

「そうよ。ユゥインさんはなんでも出来てすごい人なんだから! ……って、その手袋はフィッシュボウルさんのじゃない。まだ返してなかったの?」


 シャオのつけている黒い手袋に気がつく。捕食型と対峙した時に、見られないように話しかけても反応のなかったフィッシュボウルの手から抜き取った物だ。


 シャオなりの指輪が見られないようにするための苦肉の策であった。

 もちろんその後返そうとしたのだが……。


『要らないよ。タンパク質汚れがついて汚いからね。まぁ、ユゥインへの貸し一とでも思っておくさ』

『本当? ありがとう! 大事に使うね、えっと……。ミートボールさん!』

『あー、そういう子なのね、君。それと、もうフィッシュでいいよ……』


 そのような経緯があって、この手袋は正式にシャオのものとなった。

 薄手で柔らかい皮なのに伸縮性があり丈夫なこの手袋は、外での活動に必須のものとなっている。


「フィッシュさんから貰ったんだ。あげるって」

「そうだったのね。でもあの人は物を大事にする人だから、貰ったからって雑に扱っちゃダメよ」

「もちろん!」


 そう二人でおしゃべりをしていると頃合いを見てヴィハーンが話しかけた。

「シャオ、そろそろ行くぞ。ミウナインも今から仕事だろう」


 その言葉に、あっ!と口を開く二人。お喋りに夢中ですっかり忘れていた。

 ミウナインは集落の中の仕事。シャオの仕事は……。


「じゃあ行ってくる!ミウも欲しい部品あったら言ってね!」

「ええ、その時は遠慮なくお願いするわ」


 セキュリティエリアへの素材、部品集めである。アンドロイド達が立ち入れない区域に入り、必要な物を集めるのが仕事だ。


 だがシャオだけではメタルシリーズに立ち向かうことが出来ない。

 そのための護衛としてのヴィハーンだった。


 もちろん、二人はただ部品を集めているのではない。

 本来の目的は彼の完全復活だ。


 シャオからしたら以前の状態でも十分すぎるほどに強かったが、本来はそんなものじゃないらしい。(集落のアンドロイドの発言。曰く自信が無いだけとのこと。シャオ調べ。本人は否定)


 ヴィハーンの本来の部品は都市部にある。

 だが都市部に行くほどメタルシリーズは手強くなり、並のアンドロイドでは抵抗さえも出来なくなるものが出てくるという。


 だからヴィハーンの機体を治す。それは初めて会った時に助けてくれた彼への恩返し、というだけではない。


 彼をかつての最盛期に近づけるほど、シャオも世界を知ることができるのだ。


 初めての探索で知った数々の存在と、まだ見知らぬ多くの世界。

 その全てを知るためにも、シャオは協力を惜しまない。

 

 それに、ユゥインが作ってくれたこのバイクがあれば、ずっと遠くに行くことができる。

 いつまでできるかわからない旅なのだから、進めるうちは進めるだけ。全力で突き進みたいのだ。


「アクセルぜんかーい!」


 集落の外に出たことで運転がヴィハーンに変わる。

 シャオの操作とは違って安定感があり、先ほどまでは重そうに引っ張っていた荷台も、バイクと一体になって走っていく。


 シャオはまだ今日の行き道の途中だというのに、もう別のことを考えていた。


(――明日はどこにいくのかな)


 バイクはずっとずっと風を切りながら先へと突き進んでいく。



まだ続きがありますが、一旦ここで完結とします。

投稿用の話がある程度書き溜められたら、また再開する予定です。

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