14話 駆除機
『LUBAN』の出入り口の扉が叩きつけられるように勢いよく開かれ、ドアベルの音と共に転がるようにシャオが帰ってきた。
「ただいまー!」
「ん? 早いね。一時間もたっちゃいないよ? 怪我もなさそうだね。何かあったのかい?」
想定していたよりも早い帰還に、ユゥインは片眉を上げる。
「ブーンって飛んで来たらヴィーが叩いて落としたけど、ワワワワ~って、お願い、助けて!」
「……本当に何があったんだい?」
挨拶もそこそこに必死な形相で助けを求めるシャオに怪訝な表情をするユゥイン。一旦作業を止めて話を聞くことにした。
「それで。何があったん――」
「カブトムシがシュイーン、バーンって! ハエがバシーン! ブワーって!」
「……?]
シャオのあまりにも拙すぎる説明に、ユゥインも困った顔がだんだんと隠せなくなってくる。そこに一人、遅れて帰宅したアンドロイドがいた。
「メタルバエが群れになっていた。迂回路を選べるほど道が整っていないからな。一旦戻ったわけだ」
「ああ、メタルシリーズのことかい。確かにあのあたりは廃棄物も多いし、エサ目当てにうろつくからね。慌てて来たって事は、駆除機が目当てってとこだね」
ヴィハーンの説明にようやく訴えを理解したユゥインは、二人のお目当てである道具をカウンター下から取り出す。
見た目はランタンそのもので、日中なのにも関わらず明かりが点いていた。
「これが駆除機ってやつなの? イン、お願い〜! これを貸して欲しいの!」
「そりゃ無理だね。これがなくなったら大量のメタルシリーズに押し寄せられちまうよ」
ユゥインが見せてくれたこの駆除機は周辺のメタル除けとしても使っており、店を守るためにはなくてはならない物だと理解した。
だがシャオとしては駆除機がないと危なくて先に進めないのだ。
「うう~、じゃあどうしよう」
「そういえば言っておけばよかったね。指輪で出来るよ。避けたいヤツは持ってるかい?」
ユゥインの説明の元、指輪で設定をする。特に難しい操作はなかった。
捕まえたメタルシリーズを図鑑に登録。
登録した生物の項目にある忌避信号をオンにする。
それだけでよかった。
「へえ! この指輪ってそんなにすごい物だったんだね!」
「これからもバラす前に登録しときな」
そう話が進んだ時点で疑問を持ったのがヴィハーンだった。
「何を言っている? 通信機だろう、なぜ忌避機の役割が可能なんだ」
「……言っただろう。これは古い物で、人間専用なんだ」
『人間専用』
ユゥインが話すのは、肉体という脆い体で生きる人間が安全に生活を送るために、必須の機能が搭載されているもの。
アンドロイドには不要な機能ばかりで、今は生産どころか中古ショップでも売られていない物だという。
これもその一つだという事だった。
「あんた、面倒だから理由を付けてシャオをそのまま突っ込ませようと思ったんじゃないだろうね。店から駆除機を出せないのは知っていただろう? あえてあたしに断らせようとしたね?」
「問題は解決した。行くぞ」
「テメエ! 行くなら反論ぐらいしろってんだ!」
ヴィハーンは一瞬、微かに顔を背ける。だが特に言うことも無くそのまま出ていった。
「私も行ってくる!」
「シャオ。ちょっといいかい?」
後を追いかけるために続いて出ようとしたシャオをユゥインが引き留める。
「あいつはある程度の年月を稼働しているアンドロイドだ。上辺だけは人間の事を知っているから、頼りに見えるだろう。でもそれは見えるだけなんだ。不器用で抜けているくせに、それをカバーしていた高性能な機体は、今は見る影もない。……だからね、どうかあいつのことを頼んだよ」
ユゥインの葛藤をよそに、シャオは誇らしげに笑って承諾する。
「うん、任せてよ! 私とヴィーはお互いに足りないところを補い合う、いわば相棒ってやつなんだから! それぐらい当たり前だよ! ちゃんとヴィーと一緒に帰ってくるから、安心してお土産楽しみにしててね!」
そう言い残して、笑顔のままシャオも去っていった。
場所は変わり、先ほど撤退した地点。相変わらず黒い煙のようにメタルバエの群れが立ち込めていて、全く先が見えない。
だがユゥインの言った通り、図鑑登録されたメタルシリーズには忌避信号を出すことが可能だった。
あの撤退の原因となった煙のようなメタルバエの群れも、シャオが飛び込んでいくと近づくだけでどんどん遠ざかっていく。
一部の個体は嫌がるようにどこかへと飛んでいってしまった。
「わあ……。凄すぎるよ。もう圧倒的だね」
「あくまでも登録した種類だけだ。見知らぬメタルシリーズは一度は必ず相対しなければならない。あまり気を抜くな」
そしてメタルバエの脅威が去った先には一見、だだっ広い通りが続いている。町の続きだろう道のりではあるが、一目見ただけでここには境界線があるのがわかった。
なぜならば、今シャオ達がいる街とは見えない境目があるように、くっきりと差が生まれていたからだ。
全ての建物やアンドロイド達が荒らされているこちらとは違い、向こう側の街はただ崩れているだけだった。
「ねえ、もしかしてだけど、ここが……」
「そうだ。これだけ街の荒れ具合に差があれば、お前でも解るか」
また、向こう側で倒れている人型の機械は、今まで見た者たちとは違ってどれもが五体満足で、今にも起き上がりそうなほど傷がない。
静かな町の中を歩くヴィハーンは境目の中に立つように立ち止まった。
「肉眼では見えない規制線、ここがデッドラインだ」




