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処刑寸前の侍女ですが・・・?  作者: あけはる


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第4話 

こちらで完結です!

 再調査の勅命が下ったその夜、エルシィは地下牢へ戻された。


 石壁は冷たく、湿った空気が肌を這うが、

 心の奥は静かに熱く燃えていた。


(私、すっかり感情を取り戻したわね)


 王太子の傲慢な態度に腹が煮えくり立つ。


(まったく、人の命を何だと思っているの!?)


 エルシィの命を握っていることをわざわざ言いにくる余裕。

 真実ではなく体裁を選ぶ、“決着”の仕方。

(あんなのが将来の国王だなんて、この国はお先真っ暗よ)


 エルシィは拳を握る。

(もう、言いなりになんてならない)


 指先がかすかに震えるのは武者震いと思いたい。

 震えないわけがない。命がかかっている。


 だが――ここまで来た。

 闘って、自分の命を勝ち取るのだ。



 再調査結果は“公開発表”の形が取られた。


 国王が裁定する、その名目は「混乱の収束」。


 だが実態は――王太子派とレオニス派の力比べ。

 

 王国中の貴族がそう、見ている。


 そしてここが、エルシィの戦場だ。


 王国中の貴族たちが観客として揃い、

 さざめきが天井に反響する。

 

 エルシィは当事者としてその中央に立たされた。


 背筋を伸ばす。

 足が震えないように、足裏に体重を乗せる。


 正面には国王の玉座。

 右に王太子、左にレオニス。


 そして――


 セラフィーナ・ルヴェリエ。


 今までどこにいたのだろうか。

 少し離れてはいるがエルシィの隣に座っていた。


 不自然なほど美しく装っている。

 泣き腫らしたような目も、おそらく化粧による演出だろう。

 

 ただこの様子だと、

 少なくともエルシィよりはマシな環境にいたのだけは確かだ。

 真っ赤なリップを引いたその唇の端は

 僅かに吊り上がっていた。


(おお、怖い)


 エルシィは本能で思った。

 この女は、追い詰められるほどに他人を踏みにじるのだ。


 

 国王がゆったりと登場し、

 広間を見まわして宣言した。


「再調査の結果が出た。今より裁定を行う!」


 ざわめきが止む。

 国王の言葉に皆が集中している。


「まず、宝物庫の持ち出し記録だ。印章鑑定の結果――」


 国王が重々しく読み上げる。


「押印は二つ、存在した!

 一つは王家の正規印。もう一つは精巧に複製された偽印であった」


 広間がどよめいた。


「偽印だと……!」

「まさか」

「そんな……王家の印章だぞ……」


 王太子は微笑みを崩さない。


「偽印が使われた書類は、宝玉持ち出し記録だけではなかった。

 王城において他の倉庫の出納記録にも、度々使用されていたことが判明した!」


「父上、発言のお許しください」


 レオニスが静かに一歩前へ出た。


「つまり、偽印は継続的に使用されていた。そうですね」


「うむ、そうなるな、レオニスよ」


「ならば印章を扱う権限がある者

 ――つまり王族とその側近らの関与の可能性がさらに説得力を増します」


 国王が頷く。


「そうだな。そして、王太子付き側近の動向」


 貴族たちの視線が一斉に王太子の背後に控える

 七名の側近へ向く。


「側近の一人、グレイグ・ヘイルの部屋より、

 宝物庫の鍵の写しが見つかった」


 ざわり。


(ああ、本当の事実が明らかになっていく)


 広間の静かな興奮に、

 エルシィの鼓動は早くなる。


「またグレイグ・ヘイルの部屋から、宝玉と同成分の微細な粉末が見つかった」


 さらに広間の興奮が高まった。


「そしてそのヘイルは昨夜、独房にて自白した」


 ――自白。


 その言葉に、余裕綽々だったセラフィーナの肩がびくりと震えるのが見えた。


「いわく、『宝玉の搬出は王太子の指示で行った。

 セラフィーナ嬢には全てを押し付け、必要なら侍女を共犯に仕立てるよう命じられた』と」


 広間が一瞬、無音になった。


 次の瞬間、怒号が爆発する。


「王太子殿下が……?」

「そんな馬鹿な!」

「側近の裏切りだ――!」


 頬杖をついて聞いていた王太子はようやく口を開いた。


「まあまあ、父上。我が元側近が不甲斐なくて大変申し訳ない」


「ヘイルは虚偽を述べておりますよ」


 ゆっくりと目を細めた王太子。

 その声は相変わらず柔らかい。

 だが、言葉の端に少しずつ隠し切れない苛立ちが滲んでいる。


「罪を全て私に着せれば、生き延びられるとでも思ったのでしょう。

 私はただ、混乱を収束させたいのです。これからのこの国のために」


 ――混乱の収束。


 (またその言い方・・・)


 真実ではなく体裁、他人の命より自分の面目。

 エルシィの心がふつふつと煮えくり返っていく。 


「兄上はセラフィーナ嬢を唆したと言ってエルシィ・ノーヴェン嬢を罰すると言ったな」


「ああ、そうだとも」


「それならば、側近が罪を認めた兄上も同様ではないのか」


 鋭く問い詰めるレオニスに対し


「だから、その自白が虚偽なんだよ。何度も言わせないでくれ弟よ」


いまだゆったりした口調を崩さない王太子。


「それに今はもう彼は、()側近だからね」


 のれんに腕押しな王太子の態度に

 レオニスは眉をしかめながら、用意した紙束を掲げた。


「これは、偽印を作らせた工房の帳簿だ。

 偽印の支払いについて、王太子府の会計から支出されたことが明記されている」


 状況を見守っていた国王がレオニスの言葉を引き継いだ。


「加えて、宝物庫の鍵の貸し出し記録の筆跡だが。

 王太子府に所属する書記官リューキン・バーグのものと一致した。

 つまり、こちらも偽造であったのだ」


 その瞬間、


「国王陛下、発言をお許しください!」


 今まで不気味なほど静かに

 成り行きを見守っていたセラフィーナが突然甲高い声を上げた。


「私は、だまされたのです!」


 大げさに泣き崩れる。

 その姿は弱弱しく、儚い。

 貴族たちの厳しい視線が少し揺らぐ。

 

「宝玉のことなんて知らなかったのよ、私は嵌められたのですわ!」


(来る・・・!)


 セラフィーナの視線が、まっすぐエルシィへ刺さった。


「王太子殿下がおっしゃるように、

 全部、あの侍女の仕業なのです!」


(これだけコケにされても、この女は王太子をかばうのね)


 怒りが沸点を通り越し、呆れにまで達したエルシィには

 もはやセラフィーナがたいそう可哀想な女にみえてきた。


(これほどまで自分自身をかばうように仕向けた王太子も怖いけど)


(これだけ献身しても王太子にあっさり切り捨てられるのには、

 ちょっとだけ、同情しちゃうわ)


 自分でも驚くほど、気持ちが凪いでいく。

 エルシィは思い切って一歩前へ出た。


「セラフィーナ様」


「宝玉についてですが、まず私は一切触れておりません。

 見てもおりません。

 ですが――

 あなたが鍵束を持っていたのは、この目でしっかり見ました。

 これは、事実なのです」


「そんなの――!」


「嘘、ではありません」


 エルシィは、淡々と続けた。


「セラフィーナ様が鍵の束を持っていたのは、夜会の三日前のことでした。

 あなたは戻るなり私に書類を投げつけ、即刻届けてこい、と命じましたね」


 セラフィーナの形の良い唇がわなわなと震える。


「私は何かがおかしいと思いながらも、

 あなたを諫められませんでした。

 でも、命じられたことを拒否できる立場でもないのです」


 責めるのではなく、この世界の階級構造を言葉にしていく。


 利にさとい貴族たちの顔色、ささやきが変化していく。

 侍女の立場を知っている、特に下級貴族出身の者ほど、

 身に染みて実感があるのだろう。


 国王が問う。


「セラフィーナ嬢。君が鍵を持っていた理由をきこう」


「わ、わたくしは……っ」


「君には、宝物庫の鍵を持ち出す権限はないだろう。

 誰からもらった」


 まるで父親が幼い娘を諭すかのような言葉。

 

 責め立てないその態度に気が緩んだのか、

 セラフィーナが視線を泳がせ、一瞬、王太子を見た。


 すがりつくような視線を振り切るように、

 王太子は静かに立ち上がる。


(――切り捨てるのね)


 エルシィは直感した。

 自分がされたように、今度はセラフィーナが切られるのだ。


 王太子は優しい声で言った。


「セラフィーナ。君は混乱しているね」


 その一言で、彼女の顔が青ざめた。


「殿下、何を……!」


低く大きな声が響き渡った。


「――静粛に」


「我が長男よ。

 そなたはそなた自身のためだけに、罪のない者を処刑しようとした」


 王太子が口を開こうとするが、国王は話を続けた。


「さらに偽印の作成、記録改竄、側近を用いた宝玉の不正搬出」

 

いったん言葉を切った国王は立ち上がり、

大広間に集まった多くの貴族たちをゆっくりと見まわした。


「王位継承者としての資格を欠く」


 王太子の顔から、ついに表情が消えた。


「ち、父上―――」


 慌てて駆け寄ろうとする王太子を

 鋭い視線で制した国王。


「よって――王太子の位を剥奪する!

 もちろん王位継承権も停止だ。

 そして、一定期間、我が監視下に置こう」


 広間にいる大勢の貴族が息を呑み、固まっている。


 間を開けず、国王はセラフィーナへ告げた。


「セラフィーナ・ルヴェリエ。

 君は宝玉搬出に関与し、非のない侍女へその罪を擦り付けた。

 そして公爵家の権威を悪用し、暴力と強要を常習的に行っていた!

 その所業は罪に値する」


「ちがっ……わ、私は……!」


 セラフィーナは今度こそ泣き喚きながら

 崩れ落ちた。


「爵位は没収し、辺境の修道院へ向かえ。

 以後、許しがあるまで、王都への立ち入りを禁ずる!」


 悲鳴が上がる。

 見覚えのある取り巻きの令嬢たちが

 泣き崩れ震えているのが見えた。


 そして、最後。

 国王の視線は、ゆっくりとエルシィへ。


「エルシィ・ノーヴェン。

 そなたの罪状は、全て取り消す。我が息子とその婚約者が迷惑をかけた。

 そなたの無罪を、ここに宣言しよう!」


 (あ・・・)

 胸の奥で張り詰めていた糸が、ぷっつりと、切れた。

 

 目の奥が熱くなり、

 ―――きらりと一筋、頬を涙が伝った。


(生きて、いいんだ)


 やっと、息をすることができた気がした。



 裁定が終わり、集まった人々が散っていく。


 廊下の窓から差し込む光。

 窓際の繊細なガラス花瓶に反射し。ゆらゆらときらめく。

 


「ノーヴェン嬢」


 背後から、レオニスの声。


 振り返ると、柔らかい表情をした彼がいた。


「……ありがとうございました」


 レオニスは首を振る。


「礼を言う相手が違う」


「……え?」


「君だ」


 心が痛い、熱い。


「君はずっと、誰にも守られずに耐えていた。

 それを“美徳”にすり替えて、皆が見て見ぬふりをしていた」


 レオニスの黄金の瞳が、まっすぐエルシィを捉える。


「この王城でそのようなことが起こっていると知らなかった私も、

 加担していたようなものだ。本当に、すまなかった」


 この国の王族として立つもののまっすぐな誠意。

 心が震える。


「殿下は……私は、これからどうしたらいいのでしょうか」


 心も声も震えながら、湧き上がる感情。


 レオニスは、少しだけ困ったように笑った。


「君はどうしたいんだ」


 エルシィは、熱い頬に力を籠め、

 ゆっくり息を吐いた。


(……欲しいなら、戦って手に入れるしかない)


 エルシィは小さく拳を握った。


「殿下のもとで、働かせてください。

 私は、私の生活を自分で作りたいのです。

 誰かの機嫌で生きるのではなく、私の足で人生を歩みたいのです」



「もちろんだ」

 

 そう答えたレオニスの笑顔は、春の風のように柔らかであたたかだった。



 数日後。


 エルシィは王宮の外にいた。


 意気揚々と歩く王都の大通りには、甘い匂い。

 人気のパーラーはすぐそこ。

 噂では、新作のフルーツパフェが出たそうな。


 エルシィの頬は上がる。


 あんなに遠かった、小さな幸せ。


 今は手を伸ばせば届く。


 嬉しさに胸を高鳴らせ

 パーラーの前に駆け寄ったエルシィ、

 

 ――――その後ろからゆっくりと近づいて来る足音。


「殿下、もういらしたのですか」


「ああ、行くか」


 レオニスが、少し照れたようにそっぽを向く。

 その不器用さが少しおかしい。


「ええ」


 エルシィは頷き、

 ファンシーなライトグリーンのドアノブへ手をかけた。


(私は、ようやく――私として生きる)


 これから先も理不尽はあるだろう。

 でも、そのたびに自分を畳む必要はもうない。


 パステルカラーの内装に少したじろいでいる、

 やさしくて強い、隣のお方とともに。

 

 たくましく、生きていこう。

完結できました・・・(ほっ)


最後までお読みくださりありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです!


もしよろしければご評価やブクマなど応援いただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします!

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