写経:5(「うさぎ穴」いろいろ)
ということで「うさぎ穴」がわかりやすい作品をいくつか写経(書き写し&文字数確認)……
何が「うさぎ穴」か、解釈次第のところもありますし、複数の条件が組み合わさっているケースなどもあるでしょうから、「こまけえこと」を言いだしたらきりがないかもですが……とりあえず、以下三作はわりと見やすい事例かな、と。
好きな童話をざっと思いだしただけなんですが……
それだけでも、コト・モノ・トコロ、と、それぞれさまざまな「くふう」が見つかりました。
物語にはパターンがある、と、よくいわれますし、当方も「行って・やって・帰ってくる」などとはよく口走りますが。
一方で、いわゆるひとつの「美は細部に宿る」。
パターンは同じでもヴァリエーションは無限なわけで、実作者的にはそれこそが問題かとも思うわけです。
なので先行事例のストックは(自分自身の無意識さんのなかに)蓄積しておきたいかなー、というところかと。
・佐藤さとる「魔法の町の裏通り」
文字数 6893 文字
改行除く 6724 文字
改行・空白除く 6609 文字
原稿用紙 21 枚
これも「うさぎ穴」がおもしろい一本。
「表通りと裏通りをつなぐ道を、片っぱしから、一つ一つ通りぬけて、すこしずつ駅のほうへ近づいて」いくという「行為」がひきがね。
えろいむえっさいむ、ではないですが、儀式的行為というのも、それこそ「あちら」とこちらをつなぐものですね。
(余談ですが、そのむかし、朝のジョギングコースが偶然アクマを呼びだす図形になっていたというギャグマンガがあったのを思いだします……っちゃ)
白線の上をふんで歩いたり、一段高いところだけを歩いたり……もともと子どもというのは、そういうルール遊びの名人でもあり、下校途中とかにやった記憶がある人もいようかと思いますが。
本作の場合、たんに子どもの習性というそれだけの話ではなく、主人公がそんな行動をとった理由(姉弟喧嘩。さらにその原因≒父親による約束キャンセル)も、ちゃんと作ってあって、なかなかリアリティがあります。
たんなる荒唐無稽の何でもありではなく、ありえないことをほんとうにあったかのように話すという、佐藤さんのファンタジー観からすると、このリアリティのつくりこみもうなずけるところ。
その結果起きるフシギ現象自体も、かなり印象的なヴィジュアルですね。
ここまではワクワクします。傑作の予感がします。
ただ、せっかくここまでは魅力的なのに、そのあとの展開はいまひとつあっけないというか、拍子抜け感もあったりなかったり……短編ですから紙数のつごうというか、掘り下げる余裕もなかったのかもしれませんが。
あえてというなら現世に戻ったあと、女の子とやりとりがあって、あくまで萌芽的なものですが、先日ちらっと言及したようにわりとボーイ・ミーツ・ガール好きかもしれない佐藤さんらしいまとめかたではあったかもしれません?
――――(引用ここから)――――
そのあとからカズヤもついていきました。だって、その路地は、ほんとにせまくて、二人ならんで走るわけにはいきませんでしたからね。
――――(引用ここまで)――――
さらにつけくわれると、このお相手の女の子。作品冒頭では、フシギ現象の予兆として、狭い路地なのにぶつかりもしないですれ違うという場面があって……これなどは今回いっしょに写経した同著者の『角ン童子』を思い出させたりもします。
ので、(作者が意図していたのか無意識だったのかわかりませんが、その点ふくめて)、作品相互の発展とか関連とか、マニアックな興味も、そそるところかもしれません?
・安房直子「ふしぎなシャベル」
文字数 5711 文字
改行除く 5565 文字
改行・空白除く 5468 文字
原稿用紙 17 枚
佐藤さんの定義からすると、安房直子さんの作品が、「ファンタジー」なのか「メルヘン」なのか、迷うところ。なかには「象徴童話」なんてカテゴライズをしているものの本などもあった気がして、わかったようなわからんような話でしたが……
もちろん、安房さんの作品にも、「うさぎ穴」がはっきりわかりやすい場合も、しばしばあって、本作などは、そのひとつかな?と。
タイトルそのまま「シャベル」というアイテムがそれでしょうか。
偶然ひろったブツが実は魔法のアイテムで~、それをつかうとフシギの扉が~という……以前写経した佐藤さんの『龍宮の水がめ』なども、このタイプでしょうか。
佐藤さんの『宇宙からきた缶詰』なんかは、入手したアイテムそのものが、フシギ存在そのものだったりもしましたし、童話ではないですが、栗本薫の初期短編『時の石』なんてものも、個人的には思いだします。
さがせばわりと多く見つかるパターンかもしれませんし……子どものころ、自分の手にしたアイテムが実は~なんて空想(妄想?)にふけった経験なんかがある人も、いたりいなかったりするかもでしょうか?
ところで、シャベルが「アリスのうさぎ穴」なら、その「穴」をくぐった先で、おばあさんが出会う猫はアリスにとっての「うさぎ」でもあるでしょうか。
というか、
――――(引用ここから)――――
「魚を売るのを、手伝っておくれ」
「ほう、これを売りにゆくのかね。するとあんたは、猫の魚屋かね」
「ま、そんなもんだ」
「そうかね、そんならひとつ、手伝ってみよう」
――――(引用ここまで)――――
行った先で「あれやって」と依頼される、という……これっていわゆる異世界召喚なのかしら?
そういえば、ナーロッパの扉をひらくうさぎ穴も、しばしば「トラックくん」なる「アイテム」(?)でしたっけねえ。
やっぱり本作については、「メルヘン」ではなく、「ファンタジー」カテゴリーでいいのかもしれません(笑
あとは、余談ですが……本作に登場する「猫の村」「猫の国」は、同著者の『猫の結婚式』にも、(同じ場所なのかどうか不明ですが)登場というか、言及がありましたね。
ここにもやはり、作品相互の発展とか関連とか、マニアックな興味が、ありうるかもしれません?
・佐藤さとる「角ン童子」
文字数 5592 文字
改行除く 5441 文字
改行・空白除く 5361 文字
原稿用紙 17 枚
上でもチラとふれておいた童話。
架空の妖怪(?)、架空のフォークロアを展開する作品。
このフォークロア自体、なかなか面白いですね。
地域によるかもしれませんが、当地などでは、町なかに、なぜか突然、しめ縄をはられた樹が一本だけ……なんて、たまに見かける光景だったりもします。
うさぎ穴というのは双方向で、こちらからあちらへ行くだけでなく、他界の住人がとつぜん目の前に現れるという(わりと安直な)パターンもよくありますが、本作の場合は、童子が特定の場所を守る存在。人間側がそのテリトリーに侵入したことこそが、フシギの扉をひらくという段取り。
なので、突然、ことわりもなく、あちらがわの謎生物が押しかけてくるというのより、登場の理由が明確で、説得力も出しやすいかもですね。
この場合の「うさぎ穴」は、この「まがり角」という場所・縄張り――衒学趣味的になら「トポス」とでもいうところでしょうか。
また、狭い道で男女のすれ違いという展開は、上で述べたように『魔法の町の裏通り』と通底。そういう意味でも作者の発想のひみつが……垣間見えるというほどではないかもしれませんが、なにかつながっているのかもしれません?
というか、やっぱり佐藤さん、ボーイ・ミーツ・ガール好きなのかな、と(笑
本作の場合、後日の再会や、ひみつの共有。さらにまた後々の再会への期待、など、心理的な予感も増量されているので、なおさらです。
そして、そういうことなら……
特定の「場所」がうさぎ穴になっていて、しかもその秘密を男女が共有するという意味では、前に写経した『水のトンネル』とも近いのかも、しれません?
いずれも続編なしの短編一本きりに終わった作品ですが……
もとより長編志向を公言されていた佐藤さん、その気になれば「その後」を書くこともできたかも……なんて、妄想もはかどるかもしれませんねえ。




