第三章 ④
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返す言葉もない。気が立っていることは否定のしようもなくて、ここ最近の不出来は自覚しているつもり。こういう時は気分転換をするに限る。高等部に進んでから初めての休日。 そんなわけで、エイリスは一人街へと繰り出していた。
雲が薄く広がった空は澄んでいて、気温は春が終わり夏へ移る準備をし始めたくらい。
これくらいの時期が色々な着こなしを試せてちょうどいい。エイリスの今日のコーディネートは明るい色をメインにしたカジュアルルック。
手早く気持ちを切り替えるには来ている服を変えるのが一番と言うのがエイリスの持論だ。現に、世の中には仕事やプライベート、場面場面で決まった服装をすることによってスイッチを変えている人も多い。
高くそびえたつビル群に、液晶に映し出された新商品のCM。
行き交う人や車は絶え間なく。特に耳を傾けなくても常に何らかの音が聞こえてくる土地。
初めて来たときには驚いて――今となっては見慣れた景色。
フォーリティナで過ごしているとつい忘れそうになってしまうけれど、この世界の人みんなが魔力を持って生まれてくるのではない。
魔道騎士はたしかに世間からも人気で、それに見合う活躍をしている。子どもの夢となることも多い存在だ。でもそれが――騎士が全てかと問われればそうではなくて。
今こうしてエイリスが身につけているデバイスも、服も。作っているのは魔力を持たない人で、そういう人がいなかったきっとこんな生活は送れていない。
――だから、その人たちを護るために私は騎士になるんだから。
あんな口だけのヤツに足を引っ張られるなんて御免こうむる。
「……って、いけないいけない」
今日はそういうのを忘れるために来たんだから。
気を取り直して道路脇に並ぶ店の数々を物色しながら歩いていると、ファーストフードの店の中。窓際に座って談笑している同い年くらいの集団が目に入って、少しだけ彼女の速度が落ちた。
誰もに慕われる学年首席の目下最大の悩み。それは、友達がいないことだった。
遠巻きな好感は持たれても個人的に仲良くなるということが滅多になくて、こうして出かける時はいつも一人。
――他の人と何が違うかしら。
話し方? それとも仕草?
たしかに学園にいる時の自分は周囲の目を意識した『ティーニエ』としての振る舞いをしているけれど、似たような人はたくさんいるはずだ。
「そういえば……」
久しぶりにそういうのを意識しないで話したのはあいつだったかしら、なんて。頭に浮かんだ顔に知らず知らずの内に上気した頬には気づかずに。
「……あっ」
ふと目に飛び込んできたのは一軒のセレクトショップだった。店頭に飾られた、まさしく好みど真ん中の春物のカーディガン。店に駆け込んだエイリスはそれを手に取って近くに居た店員に声を掛けた。
「すいません、これ、試着しても構いせんか?」
「はい。こちらでどうぞ」
店の隅にある試着室に案内される。さっきまで考えていたことも、ルーミックへの不満も忘れて自分の服に手をかけた、その刹那。
カーテンが勢いよく開け放たれた!
驚愕に見開かれた彼女の瞳に映っているのは全身を黒で覆った大きな人影で、それを認識した瞬間にはもう、エイリスは壁に叩き付けられていた。
「っ……!」
背中から走る痛みに声を上げる余裕もなく。首にかかる圧力は強まる一方。
何よこいつ――!
頸動脈が絞まる。相手の腕を掴むエイリスの力は弱々しく、引きはがすことは叶わない。霞む視界、薄れゆく意識。集中は乱れて魔装の展開さえ上手くいかない。冷たい感触が首筋に押し付けられる。
たった数秒。突然の襲撃に為す術もなく、エイリスの視界は黒く染まった――。




