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村娘が世界を変えてもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰


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エピローグ~旅の終わり人生の始まり

雪割り谷。


 誓約の勇者と旅に出たフィオナが行方不明であったリアムを連れ戻し、さらにその二人は魔精霊を倒した功績により、共に本来の雪割り谷領主の姓であるエイドスを名乗る権利を得た。


 500年前の大戦で本家であるエイドス家とその分家のライアン家の当主が死に、ライアン家の分家であった当時のグレン家の当主が、ライアンの名を次いで以降、久しく名乗られていなかった家名だが、グレンとライアン双方の家名を残すために元の名を復活させることとなった。


 雪割り谷の村人は元をただせば全員が、初代温泉代官であり皇帝ヘルメスの側近であったエイドスの末裔であり、村人の間では、若い二人が帝国成立以来続くこの村の誇りを取り戻した話題で持ちきりだった。


 二人の婚礼には共に死地へと赴いたヘリオスとその紋章官であるメディアも来ている。

もっともメディアはというと、儀礼のある時以外は内弟子としてフィオナの家で学んでいるので、もう既にこの村の村人のようなものなのだが……。


 そして、儀礼服を着て現れたデメトリオスは驚きを持って迎えられていた。

無頼の放浪騎士だと思われていた彼は、テッサリアにおいては一番槍を任される騎士隊長。

公女ディアネイラの守り役であることが判明していたのだ。


 皇帝戦車を牽くというのは比喩でも何でも無く、帝都勤めになった公女に仕えるために国許から五年間の遊学許可を得て武者修行に励んでいたのだという。


 他にも翼人のアンジェロや、仲間の翼人。

ハンナの故郷であるミケーネの隊商や、ミダス商会の者達も招かれていた。


 これまでは表に出られなかったゾエだが、腕の良い傀儡族ピグマリオンに瞳の色が変わって見える眼鏡を仕立てもらったらしく、最近は普通に出歩いているのだという。


『男爵様になられるのでしたら、わたくしがリアム様の側室でもよろしいのではないですか?』


 と、本気とも冗談ともつかぬ話をして、そのたびにリアムの背には冷や汗が伝うのだった。


「ハニエルも婚礼まで残っておれば良いものを。ここは奴の家でもあるんだぞ!」


「まぁまぁ、あなた。あのものぐさな人がわざわざ勅使を引き受けてまで祝いに来てくれたんですから、それはいいっこ無しですよ」


 フィオナの叔父であり彼の弟弟子でもあるハニエル・グレンは皇帝からの祝いの品を届けると、養父の墓参りだけすませて帰ってしまったのだ。


「あの子達が無事に帰ってきてくれたんだから、それでいいじゃないですか。私達の自慢の子供達ですよ」


「ああ。殿下より魔精霊の話を聞いたときは、どうなるかと思ったが……二人とも元気で帰ってきてくれただけでも嬉しいものだ」


あの日の朝、今生の別れかもしれぬとフィオナの旅立ちを見送った二人は見事に凱旋を果たした子供達に最大限の祝福を与えようと決意していた。


 翌日、二人の婚礼は盛大に執り行われた。


 昼の間から延々と大騒ぎが村の中央の広場で繰り広げられ、身分の上下の区別無く祝いの言葉が述べられる。肩を組み歌を歌い思い思いに踊る。

 

 そして日が暮れる頃、手に手に松明を持った参列者達が沿道に列を作る。

昼のうちは挨拶や儀式を済ませていた新郎新婦が登場するのである。

 リアムはトーガでは無く短い上着にぴったりとした革のズボン。長手袋とブーツという狩人のような服でフィオナをエスコートする。

 この村にハンナが嫁に来た時に持ってきた浅葱色のドレスを仕立て直した花嫁衣装に身を包み、ヴェールを被ったフィオナが前に進むと人々からは感嘆の息が漏れる。


 普段と違い、婚礼用の化粧を施されたフィオナの美しさに皆が呆気にとられていたのだ。

それでも、その小脇にはいつものように世界辞典を抱えているのは相変わらずだった。


「見てください。ヘリオス様! 先生ってすっごいお綺麗ですよ!」


「ああ。ちょっと驚いた」


 珍しく驚いた様子のヘリオス。


「もしかしてやっぱり無理にでも結婚したかったとか思ってます?」


 やや心配そうなメディア。


「いや……俺はリアムほど几帳面ではないからな。きっとあの外見に騙されて恐ろしい苦労をしていたにちがいない」


 いつになく神妙そうな顔のヘリオスにメディアがクスリと笑う。


「大丈夫です。ヘリオス・ジェイソンは誰がなんと言おうと世界一の騎士です。それはわたしが保証します」


「そうか……それではメディには世界一の紋章官になってもらわないとな」


「それとこれとは話が別です!」


 意外な切り返しにメディアが慌てて言い返す。ヘリオスはただ嬉しそうに、メディアとフィオナ達を交互に見つめていた。


 彼が守った平和がここにあるのだ。それだけで十分だった。


 そして夜は更けていく。

痛飲して大いに酔った二人のケンタウロスが早掛け勝負を始めたり、うっかり仮面を落とした翼人の美しさに村中の女性が凍り付く事案もあったが、宴は深夜遅くまで続いていた。


 翌朝、丘の上にある墓地。全ての始まりの場所にフィオナはやってきた。

墓石は綺麗に磨かれていて、おそらく叔父が置いていった花が手向けられていた。


「お爺ちゃん。無事にリアムも帰ってきてくれたわ。これからも私達のことを見守ってください」


 世界辞典に記された多くの知識があったからこそ、フィオナも目的を果たすことができた。

紋章を継いだ以上は制約はあるとはいえ、元の村娘に戻れるはずである。


「フィオナ! やっぱりここにいたのか!」


「リアム。来ると思っていたわ」


 隣で寝ているフィオナの姿が見えなければ、すぐにでも来てくれると思っていた。


「そうか。長い旅だったもんな」


 リアムにとっては三年ぶりの故郷。

ここに至るまではとてもとても長い旅路だった。


「何言ってるの。私達二人の人生はここからはじまるのよ」


 全てを取り戻し、もう一度ここから始まる。


「旅の終わり。人生の始まりか……」


「そうよ。私と貴方の人生の始まり」


「長い道のりになりそうだ。フィオナ、これからも僕と一緒に旅をしてくれるかい?」


 そういうと、やや強引にフィオナを抱き寄せる。


 フィオナは何も答えず、きつくリアムを抱きしめる。

二人の間にはもはや返事など不要だった。


 二人が見つめる雪割り谷の空は、どこまでも澄み切っていて、二人の門出を祝福しているようだった。  

ようやく書き終わりました。

見返してみても、まだまだ納得できないところも多いのですが、それでもようやく最期までたどり着きました。

二人の物語はここでいったん終わりますが、元々自作TRPG用に作った世界設定はまだまだ語り足りないので、そのうち帰ってくると思います。

おつきあいいただきました皆様。ありがとうございました。

また何かの物語でおあいしましょう。

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