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番外編 婚約破棄、喜んで!!

エレーヌの娘ヘレンとマルスのお話です。

 18歳になったヘレン・アスターは、薬の産地や療養地として有名なアスター侯爵家の令嬢であり、エレーヌ・アスターの娘である。


 本当は、アスター侯爵家は、エレーヌの年の離れたエレーヌの弟エリックが継ぐ予定であったが、そのエリックは隣国の肉食系王女に見初められて、隣国に婿入りすることになってしまった。

 急遽、エレーヌの夫で、ヘレンの父親ヘドリックが、前アスター侯爵の娘であったエレーヌの元に婿に入った。

 そのため、父親のウィルダーから母親のアスターに家名の変わったヘレン。


 ちなみに、ヘレンの父方の従兄であるマルスは、この国の若き王で、この国を更に豊かにする賢王と讃えられており、その賢王を支える理想的な王妃と讃えられているマルスの妻ニコールもヘレンの従姉である。

 そんな親戚をもつヘレンは、この国でも重要な存在であり、しかも、侯爵令嬢になったため、当然、ヘレンには家柄としても釣り合う立派な婚約者が決められていた。


 ロベール・ルワーナ侯爵子息


 彼は、ヘレンより2歳上で、堅実で真面目な性格をしており、将来はルワーナ侯爵家の跡継ぎになる予定の男性であった。

 そして、アスター侯爵家には、跡継ぎとなるエレーヌの息子でヘレンの弟ヘンリーがいるため、ヘレンはルワーナ侯爵家へ18歳になったら、お嫁に行く予定であった。

 しかし……。


「ヘレン、あなたは少しも悪くない。

 けれど、私は運命の相手を見つけてしまったのです。

 悪いのは全て私です。

 あなたを傷つけて大変心苦しいが、私と婚約破棄をしていただきたい」とロベールは、わざわざアスター侯爵家まで訪れて、ヘレンの両親が並ぶその席で、ヘレンとの婚約破棄を全面謝罪の姿勢で言ってきた。


「……ええ、わかりました。

 あなたの婚約破棄を受け入れます」とヘレンはすぐに真摯な態度で受け入れた。


 ヘレンの母親であるエレーヌは、それを聞き、自分に続いて娘までも、初めての婚約者に婚約破棄されるとは何てこと!と青褪めた。

 ヘレンの父親であるヘドリックも一見、冷静にみえるが、心の中でとても動揺していた。

 ルワーナ侯爵家からの謝罪と、婚約破棄にあたっての慰謝料等の話し合いを今度することになった。

 そんなロベールの話を、寂し気に聞いているヘレンであったが、心の中では……。


 婚約破棄、喜んで!!


 とシャウトしていた。

 

 当然ながら、ヘレンは、ロベールの前ではもちろん、ヘレンの両親の前でも、そんな様子は微塵も見せなかった。

 母親のエレーヌは、この婚約破棄で娘が傷ついたと思い、ヘレンを一生懸命慰めようとしていた。

 しかし、父親のヘドリックは、ロベールから婚約破棄の原因であるロベールの運命の相手とやらの名前を聞いて、今回のことに至った黒幕や、事情も何もかもわかってしまった。


 そのロベールの運命の相手は、野心家の男爵令嬢であり、ヘレンがつい最近、友人になった相手であった。

 

 後日、ヘドリックは、一応、黒幕ヘレンの裏をきちんととった後、ヘレンを叱ることにした。


「へ・レ・ン~。

 今回の婚約破棄の件は、どういうことかな?

 っていうか、本当は君が仕組んだことなんだろう?」とヘレンに怒るヘドリック。


「まあ、お父様ったら、ひどい!

 婚約破棄されて、傷心な娘にあんまりですわ!!」


「いや~、もう、とぼけても駄目!

 ヘレンは、見た目はエレーヌに似て、可憐で愛らしいが、中身がな……。

 大変残念ながら、私に中身は似ているからね。

 これくらいのことしでかすと思ったよ。

 婚約破棄された後、マルスのところに嫁へ行くつもりだろう?」


「ええ?

 何のことですか?」


「ふっ、ヘレン。

 確かに君の思考は私と似ているけど、私と違って詰めが甘いな。

 これからは、協力者には口の堅い者か、致命的な弱みを握っている者を選びなさい」と言ってくるヘドリックは、ヘレンの後ろの壁の陰で、ヘドリックとのやり取りを涙目で覗いていたヘレンの弟ヘンリーを指さす。


「ヘンリー?」とヘンリーがヘドリックについたかどうか冷静に聞くヘレン。


「へ、ヘレン姉様、 ごめんなさい!!

 父様にはどうしても勝てなくて……。

 でも、姉様があの魔王マルスのところに嫁ぐことは、僕は反対です!

 だから、全部お話して、父様と手を組みました!!」と半泣きで白状するヘンリー。

 まだ12歳の少年であるヘンリーは、ヘドリックの息子でありながら、まだ甘いところがあり、ヘレンが大好きなシスコンであった。


「まあ、ヘンリー。

 裏切ったのね……。

 私の幸せを邪魔するなんて、私のことを嫌いになったの?」


「僕は今でもヘレン姉様が大好きです!

 だから、あんな男のところに嫁に行かないで済んでよかったし、あの魔王はもっとお勧めしません!!

 僕と一緒にこのアスター侯爵領にいてください!

 僕が姉様を幸せにします!!」


「まあ、ヘンリーったら」と天使のように可憐に微笑むヘレンは、小さな声で「後で、お仕置きね、ヘンリー。お父様の言うところの致命的な弱みをばらされたくないでしょう?」とヘンリーの耳元で黒く囁くのであった。


 それを聞いて青褪めるヘンリーと黒く微笑むヘレンとのやり取りを眺めるヘドリックは、深くため息をつくのであった。


 その後、ヘンリーやヘドリックに止められたにも関わらず、マルスのいる王宮を訪れるヘレン。


「……というわけで、傷物になった私は、このままだと修道院送りになってしまいます。

 だから、そうならないために、この憐れな従妹をマルス陛下の第1側妃にしてくださいませ」とせつな気にマルスに訴えるヘレン。


 ちなみに、現在、マルスはニコール(ヘレンの従姉)しか妻がおらず、マルスの正妃としてニコールがおり、第1側妃とはニコールの次の妻、つまりマルス国王陛下の2人目の妻となる。


「何が『というわけ』なのかな、ヘレン?」と冷静なマルス。


「ですから、私は先日、婚約破棄をされまして、もう母に続き、娘の私まで婚約破棄したということで、我が家に縁談が持ち込まれる可能性は非常に低くなりました。

 おまけに母の時と違って、私はアスター侯爵家の跡継ぎでもないので、地位目当ての男性にも相手にされません。

 もうここは陛下に嫁にもらっていただくしかない状況です」


「ヘレンなら、その可憐な容姿と家柄の良さで、いくらでも有力貴族が結婚を申し込んでくると思うよ。

 今回の婚約破棄も、明らかに相手側の非でされたものだしね。

 あと、アスター侯爵領を訪れた貴族達の間で、エレーヌにも負けない位、君のファンが沢山いるのはよく知っているよ。

 だから、そんな嫁にいけないなんて、心配しなくていいよ。

 私からも口添えしてあげるから、大丈夫!

 私以外の好きな貴族を選びなさいね~」


「いえ。

 もうマルス陛下しかおりませんから。

 どうか嫁にもらってください」


「嫌だよ。

 私の娘になるならいいけど、嫁は無理だね。

 義理でもエレーヌの息子になるなんて、今でも耐えられない」


「……私って母に似ておりませんか?」


「ヘレンはエレーヌにそっくりだよ!

 見た目だけはね。

 でも、中身が残念ながら、あのヘドリック伯父上に似ているから無理」


「つまり、見た目はマルス陛下の好みど真ん中ってことですよね?」


「食い下がるな~。

 確かにヘレンの今の姿は、私が夢中だったころのエレーヌの姿に似ているよ。

 髪型から服装の趣味まで、本当にそっくり!

 さっき、部屋を訪れた時、一瞬、エレーヌが来たのかと錯覚するくらいだけど、どうせ狙っているんだろう?

 そういうところが、私がいまだに最も苦手とするヘドリック伯父上に似すぎていて、嫁にするのは本当に無理だよ~」


「ええ~、そんな~。

 私はマルス陛下を本当にお慕いしておりますぅ~」と口調もエレーヌが仕事モードでない時のまねをするヘレン。


「うわ~、声の優しい感じまでそっくり!」


「このように、マルス陛下のご要望通りにいたしますよ!」


「もう!

 そういうところが駄目だ。

 それって逆効果だよ。

 ヘレンと結婚なんてありえない」


「まあ、そう無碍に拒否しないでください。

 私は本気なのですから、さすがに傷つきますよ。

 あと、ニコールお姉様の許可はとっております」


「うわ~、その外堀を埋めるところも、今度はヘドリック伯父上にそっくり!

 嫌だ~!

 ニコールの意見はこの際、却下だから」


「ひ、ひどいです、マルス陛下。

 そんなに私のことがお嫌いで?」とまるでエレーヌが悲しんでいるような感じで寂し気にするヘレンにぐっとなるマルス。


「い、いや、嫌いじゃないよ。

 でも、従妹として君を好きであって、妻としては君を迎え入れないよ、絶対に!」


「……絶対?」


「絶対!」


「ふっ、マルス陛下ったら。

 この移り変わりの早い世の中で、人の意思による『絶対』なんてことは、ありえないのですよ?」と可憐に微笑むヘレンに、またもやぐっとくるマルス。


 正直、マルスは、ヘレンのことをかなり気に入っており、エレーヌやヘドリックに似ているようで、ヘレンの独特の魅力に、やや魅かれてはいる。

 しかし、ヘレンがエレーヌの娘で、わざとエレーヌに似るように狙ってくるせいで、エレーヌへの失恋の痛みが再現されて、受け入れがたくなってもいる。


「まあ、今日のところは、引きあげましょう。

 ごきげんよう、マルス陛下」とあっさり帰っていくヘレン。

 

 そんなヘレンに対して、深いため息をついたマルスは、このまま負けてはいけないと思い、早速、ヘレンに新しい婚約をさせようと動くのであった。


 ところが、ヘレンの方が上手であった。


「マルス陛下ぁ~!

 また婚約破棄されましたわ~。

 もうマルス陛下しかおりません!!」


「いや、あのね、ヘレン……。

 自作自演って知っている?」


 そう、ヘレンはマルス以外の相手と婚約するたびに、相手からロベールの時のように「運命の相手が見つかったから」と婚約破棄され続けていた。


 そして、その度に、マルスに逆プロポーズをするヘレン。


 とうとう、ヘレンと婚約すると、ヘレン以外の運命の相手に出会えるという噂までたち、ヘレンが目的というよりも、たとえヘレンに慰謝料を払っても、運命の相手に出会いたい貴族達から婚約を申し込まれる始末。

 もちろん、自分の婚約者と穏便に婚約破棄するために、その運命の相手と引き合わせているのはヘレンであったが、それがあまりにも的確過ぎた。


「ねえ、ヘレン。

 第1側妃じゃなくて、王宮での人事を決める役職につかない?

 君の人を見抜く能力は確かだと実感したね~」とマルスに勧誘されるヘレン。


「いや~!

 マルス陛下の奥様がいい~!!」と嘆くヘレン。


 果たして、ヘレンの初恋は実るのであろうか。

 

 二人の攻防はまだしばらく続く模様である。

登場人物確認

マルス:ヘレンの父方の従兄。この国の王で、妻はニコール1人のみ。原則、一夫一妻制の国であるが、国王のため、特別に複数の妻を娶ることができる。 現在、30歳。

ヘレン・アスター(前の姓はウィルダー):ヘドリックとエレーヌの娘。マルスが初恋。 現在、18歳

ヘンリー・アスター(前の姓はウィルダー):ヘドリックとエレーヌの息子で跡継ぎ。ヘレンが大好きなシスコン。現在、12歳。


エリック・アスター:エレーヌと両親が同じのエレーヌの弟で、ヘレンより数ヶ月後に生まれたヘレンの叔父。アスター侯爵家の跡取りであったが、療養にきていた肉食系王女に見初められ、攫われるように隣国へ婿入りすることになった。現在、18歳。この話では名前だけの登場。


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