『時刻』と『機巧』
さて、先日は大変なことだった。
俺こと時宮仁時は、戦争中の大乱闘において意外と重傷を負い、三日間の安静を命ぜられてしばらく休んでいたわけだが。
「……ひでーな」
「これはひどい」
「ああ、ひどい」
思わずつぶやいた独り言に、返事が二つ。
振り向けば、隣のクラスの扇屋威空と笹川明良、いわゆる『機巧』の二人が、俺と同じように校門前でたたずんでいたわけで。
「まさしく戦場跡」
「兵どもが夢の跡」
「何かオシャレじゃねーか」
その状況とは。
無残にひしゃげた設備時計、へし折られた木。
ぼこぼこになったグラウンド。傷だらけの校門。
「大変なことになってるな」
「そうだな。大変だな」
「本当にな。大変だな」
そんなことを言いながら、校門を通って校舎ヘ向かう。
グラウンドや校門はかなりひどい被害を受けてはいるが、意外なことに校舎は無傷だ。
「校舎は無事だったんだな」
「うちの校舎は無駄に強いんだ」
「多少の攻撃じゃ傷はつくまい」
初めて聞いた話だ。
『機巧』二人は俺を振り向くと、面白そうに笑って見せた。
「耐震強度は三校で最強」
「そう言うふうに改造済みだ」
「お前らがかい」
さすがは『機巧』というべきなのか。
いつの間に、そして誰の許しを得て校舎を改造したのだ。
「校長の許可は得ている」
「理事長も了承している」
「経営陣も本気かよ」
溜息をつけば、二人は同時に、楽しそうにからからと笑った。
「しかし今回は残念だった!」
「ああ、もっと戦いたかった!」
「そういやお前ら、詠時にやられて倒れてたんだっけ」
「まさかあそこで地面についてしまうとは」
「完全にぬかった」
「ドジっ子じゃねーか」
呆れつつ、グラウンドを抜けて玄関。
その途中に、『機巧』の二人が俺の方を向いて、言った。
「そう言えば、『時刻』」
「ん」
「聞きたいことがあるんだ、『時刻』」
「何だよ」
この二人は、他人のくせにまるで双子のようなこの二人は。
両側から俺の肩を叩き、笑顔をたたえ、言った。
「お前は『職人』と仲がいいと聞く」
「どうすれば『職人』と再戦できる?」
『職人』、伊田詠時。
俺の幼馴染で、戦えることを他人にはあまり知られないようにしていた男。
今回の戦争参加により、その強さが明るみに出たという話。
本人としてはよくないことに決まっているから、あえてこの表現をさせていただく。
「再戦なんてねーよ」
そもそも、基本的に戦いを好かない男だ。
基本的に、勝てるかどうかわからない戦いはしない男だ。
俺以外とは。
「あいつと戦っていいのは、本来俺だけだ」
そう言ってべーっと舌を出してやったら、『機巧』二人はきょとんと目を瞬かせ、それから目を見合わせた。
「そう言うなよ、『時刻』」
「なあ頼むよ、『時刻』」
「うるせー」
能力を使ったあいつがどれくらい強いのかは、俺ですら知らないけれど。
これから先だって、あいつが喧嘩を売る対象は俺だけでいいんだよ。




