『極神』と級友
何とも大変な現場を目撃してしまった。
先に名前を名乗っておこう。市川凛那という名の私は、一ノ宮高校において、あるいはこの坂凪町において、まったく目立つことのない人物である。
そんな私が何故こうして物語を語るかについては、語りたくなったから、とでも説明しておくこととする。
「凛那、あれって竜崎さんじゃない?」
「あ、本当だ」
ある放課後のこと。
クラスメートであり親友の市瀬遥耶と二人、何気なくプリクラを撮りに来た日の出来事である。
「何だろう、何してるのかな」
「竜崎さんだし……もしかしたら何かしらの喧嘩のようなことを……」
遥耶と二人、そんな予想をしながらそちらの方向へ近づいて、絶句。
ゲームセンターの表で仁王立ちする彼女、竜崎帆風の足元には、どうやら二高の生徒らしき女子が二人、折り重なるように倒れ込んでいたわけで。
「私の勝ちですので、嫁はいただいていきますね」
そう言うと、竜崎さんは店員が持っていたフィギュアを手に取り、つかつかとゲームセンターを出て行った。
「て、店長! 救急車!」
「おおお、おおう、今呼ぶ今呼ぶ!」
にわかに騒がしくなる店内。店長さんが慌てて電話をかけているのが見える。
そしてどうやら様子を伺っていたらしい野次馬たちが、次々に解散していく。
「やべー、『極神』のバトル、生で見ちゃったよ!」
「いくらか攻撃くらった時はどうなるかと思ったけどな!」
野次馬たちの会話を聞いてから遥耶と目を見合わせた。
アイコンタクト。すぐにゲームセンターを出て、竜崎さんの背中を追った。
「竜崎さーん!」
「ん」
前方を歩いていた竜崎さんは、私たちの声に気付くと、振り向いて歩みを止めた。
「えーっと……あ、市川さんと市瀬さん。いっちーコンビ」
「いっちーコンビ!?」
初めて言われた。今まで誰からも言われたことない、そんなこと。
まさかクラスメートたちに陰でそういうふうに呼ばれていたんだろうか……。
でも『いっちーコンビ』ってなんか可愛いから許そう。
「怪我とかしてない? 大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。ご迷惑かけたかな、ごめん」
心配そうな遥耶の言葉に、お礼どころか謝罪を返してくる竜崎さん。
あまりしゃべったことがなかったから勘違いしていたけれど、彼女は決して人間に興味がないわけではないようだ。
「いやいや、大丈夫! プリ撮って出てきたらもうバトル終わってたし!」
「ああ、ならよかった」
再び歩き出す竜崎さんの隣について、並んで歩く。
すると、竜崎さんはきょとんと首をかしげ、不思議そうに私たちを見た。
「ん、二人ともこっち?」
「うん、バス乗るからこっち」
「じゃあバス停までご一緒しようか。私はそのあと、左へ曲がって帰宅です」
「そうしよう!」
その日、バス停までの短い帰路の間で。
私たち『いっちーコンビ』は、彼女を『帆風』と呼ぶまでに親しくなった。
何が言いたいかというと、つまり。
一般人の私が『極神』と仲良くなっちゃったよ!っていう、ただの自慢だ。




