『審判』と『幻影』
ある日の二階堂高校・生徒会室。
「暇だ。大いに暇だよ浅宮さん」
窓の方を見ながら、我らが生徒会長である東條飛鳥殿は、そう言ってのけた。
「だから俺は何か楽しいことをしたい。何かないかな」
「仕事っぽいことなら意外とありますよ」
「俺は楽しいことがしたい」
「おいコラ会長」
この東條飛鳥という生徒会長は、元来不真面目な人間であるようだ。
しかし人柄がよいのかなんなのか、無駄に生徒からの人望が厚い。
本当に無駄だ。
「浅宮さーん、何か失礼な発言と発想しなかったー?」
「してませーん、気のせいです会長ー」
会長の背中から視線をずらして、手元の日誌に視線を落とす。
目元の辺りに手をやって、そういえば眼鏡はこの間でやめたのだと思い出す。
「じゃあ何か楽しい話でもしよう」
「私に西崎先輩レベルのトーク術を期待しないでくださいよ?」
「皇牙程度でトーク術とか言っちゃダメだよ浅宮さん」
それは西崎先輩に対して失礼だ。
「あ、そう言えば気になってたんだけどさ」
「会長って非常にマイペースですよねぇ」
「浅宮さんってなんで眼鏡やめたの?」
「……」
はて、その話は果たして楽しいのだろうか、どうだろうか。
しばらく考えている間に、会長は窓の外を見ていた視線を、私の方へ移した。
「この間、ちょっとした喧嘩に巻き込まれたんですよね」
「それは大変だったね」
「その結果、ちょっとした事故で眼鏡を破損しまして……あ、見ます?」
「持ってるんだ? 破損した眼鏡、持ってるんだ?」
鞄からごそごそと取り出した眼鏡ケース。
それをぱかりと開けて、会長の方に差し出した。
「どうです、この破損具合」
「それは破損って言わないよね? 破壊だよね? いっそ粉砕だよね?」
そうです、会長の言うとおり。
眼鏡ケースの中の眼鏡は、すでに眼鏡という様相を呈しておらず、傾けるとサラサラと音を立てて流れる状態になっている。
そう、粉々だ。粒々どころじゃない、粉々だ。
「逆によく集めたね、それ」
「あー、違うんです。しまった落ちた、拾わなきゃーって拾って眼鏡ケースに入れようとした途端、時間差でサラァって」
「何それ怖い」
「どうやらその相手の能力って言うのが、いわゆる分解系のものだったらしく……」
ぱたん、眼鏡ケースを閉じて、また鞄にしまう。
「災難だったね」
「そうなんですよー。だから今、裸眼なんです。だからちょっと見づらいんです」
元々ものすごく目が悪いわけではないので、生活に支障が出るレベルではないのが救いだ。
「三高に、もしかしたらそういうの直せる人がいるかも」
「えっ、そうなんですか!」
「今度、聞いてみるね」
「助かりますー、お願いしますー!」
東條様、会長様。
思わず崇める気持ちで手を合わせたら、会長は楽しそうにくすくすと笑った。
「楽しい話のお礼だよ」
果たして、楽しかったのだろうか。
私にはよくわからないが、会長が楽しかったのならまぁいいか。




