『時刻』と『発端』
「なぁ」
初めて話しかけた時、そいつは気だるそうな顔で俺を振り向いた。
高校一年、同じクラスになってすぐのこと。
「パンとご飯、どっちが好き?」
自分でも意味が分からないほど、くだらない質問。
いくら話題に困ったところで、そんな質問は出てきまい。
何を言っているんだろうと、すぐに取り消そうとしたのだが、その前にそいつが口を開いた。
「パスタかな」
気だるそうなまま返されたその言葉。
それを聞いた瞬間に、自然と顔が緩んだ。
あ、俺こいつ好き。
一瞬で、そう判断した。
「洋楽と邦楽どっちが好き?」
「ゲームのサントラ」
「漫画と小説だったら?」
「ラノベ」
ことごとく。
二択で出された質問に、ことごとく別の回答を持ってくる。
「じゃあ」
ここでもし、俺が思ったのと同じ答えが出てきたら、俺はこいつを親友認定したいと思う。
「ギターとベースどっちが好き?」
そいつはその質問に対して、少しだけ逡巡してから、俺の方を見て答えた。
「……バイオリン?」
「おおお……ぜひ俺の親友になってください」
「は?」
かくして、高校に入学して間もない俺に、親友ができました。
「ああ、まだ名乗ってなかったよな、悪い。俺は桧山颯太」
「あー……時宮仁時」
「仁時!」
「いきなり名前呼びかよ」
「仁時! 帰りにアイス食いに行こう!」
「何なの、何いきなり懐いてんの、さっきの質問群は何なの」
意味が分からないという顔をしている仁時の肩を、バシバシと叩いた。
「今、完全にツボに入った! 気に入った!」
「今のやり取りのどこに気に入る要素があるんだよ」
「いいじゃん、いいじゃん! あっはっは!」
「つうか痛いんだけど」
迷惑そうな顔をしながら、仁時が俺の手を振り払う。
これしきでめげる俺だと思うなよ、親友!
「じゃあとりあえず連絡先交換しよう! 連絡先!」
「グイグイ来るなお前!?」
「そしてうちに遊びに来い! 一緒にカードゲームしようぜ!」
「小学生かよ!?」
「カードゲームじゃなくてもほら、格ゲーとかもあるから!」
「そこじゃねーよ!」
「何だよー、遊ぼうぜ! あ、お前ん家の方が近い!?」
「何で初対面でいきなりお宅訪問なんだよ、わきまえろ!いろいろ!」
ひとしきりそんなやり取りをした後で、仁時は深く溜息をついた。
「おかしくね? いきなり距離詰めて来過ぎじゃね?」
「そうだろうか!」
「いや、どう考えてもそうだろ!」
「仕方ねーなぁ……じゃあ今日のところは放課後アイスで手を打とう」
「気まずいわ! 初対面でいきなりアイス食いに行くとか気まずいわ!」
そう言っていた割に、仁時はその後すぐに俺に慣れてくれたようだった。
ちなみに、初めてのお宅訪問は一カ月程度で実現したということを言い添えておく。




