『炎帝』とあの子
腐れ縁というものが憎い。
私の前の席で、その子、烏丸青羽は、忌々しいとでも言いたげに溜息をついた。
「なんで私って毎回毎回千里くんの隣になるのかしら、解せないわ」
「腐れ縁って怖いね」
現在、高校三年。ある昼休みの出来事。
私の後ろの席で深く溜息をつきながら、青羽は言った。
「十二年よ、十二年」
「長いね」
「小学校六年間、中学三年間、最終的に高校三年間も、何で毎年! 私の隣は千里くんなの!」
私が思っていた以上に、彼女の恨みは根深いようだ。
「別にいいじゃん」
「よくないわよ! 全然よくないわよ、汐里!」
「うぉぉ……」
がしっ、私の肩をつかんだ青羽は、ぎらついた目をしている。
怖い。なんかちょっと怖い。
「腐れ縁にもほどがあるでしょう!? 何よ、十二年って! 長いわよ!」
「落ち着こう、落ち着こう青羽」
ポンポンと肩を叩いてやったら、青羽は何度か呼吸を整えて、椅子に座りなおした。
「何、青羽ってそんなに浦谷のこと嫌いだったの」
「……別に嫌いじゃないわよ」
「だろうね。そうじゃなきゃ千里くんとか呼ばないよね」
なんだかんだと、この烏丸青羽は浦谷千里を嫌ってはいないのだ。
それはこのクラス中、誰の目から見ても明らかである。
「嫌いじゃないならいいじゃん、卒業しちゃえば関わりなくなるよ」
「いや……たぶんこのまま行くと大学も被るわ。そして講義も被るわ」
「何その恐ろしい予言」
「本当もう……選択授業も被るんだから恐ろしい話よ」
ここまで来たらもう運命なんじゃないの。結婚しちゃえよ。
無責任にそんなことを言ってしまいたくもなったが、耐えた。
そんなことを言ったら、どんな反応をされるかわかったものじゃない、怖い。
「徹底的に嫌ってしまえるなら、その方がマシなのよ、たぶん」
「ああ」
「でもどうしたって嫌いになれないから、逆に忌々しいのよ」
「複雑だなぁ」
ちらり、青羽の隣の机を見る。
ご察しの通り、その席は浦谷千里の席だ。
ちょこんと置かれた筆箱が、それとなく存在を主張しているような感じだ。
「ああもう、本当、忌々しい」
頭を抱えて机に突っ伏す我が親友の頭頂部を見てから、小さくため息をつく。
気が付いていないのは当人たちだけなのである。
烏丸青羽がどうやら、浦谷千里という存在を好いているらしいことも。
浦谷千里がどうやら、烏丸青羽という存在を好いているらしいことも。
腐れ縁というだけでは説明しきれない信頼関係のようなものが、確かにそこに構築されていることも。
「本当、忌々しいねぇ」
気付けよ、リア充。
君ら今、ものすごくじれったいことになってるぞ。




