『極神』、語る
それは、僕が一ノ宮高校に入学した年の、秋のこと。
いわゆる学園祭の季節というやつ。
「や、架月」
「帆風」
「暇そうだね」
「まあね。……来ると思ってなかった。どうしたの」
僕と帆風はあれ以来……帆風が僕の目を治してくれた、約三年前の一件以来、会えば挨拶をするし、利害が一致すれば共闘するような仲にはなっていた。
しかしそもそも、僕は帆風がどこの中学校に通っているかも知らなければ、どこに住んでいるかも知らないのであるが。
「一高の学祭は最近毎年来てる」
「そうなの」
「命の恩人の頼みは断れまい」
「恩人?」
首をかしげて見せれば、帆風はぐるりと周囲を見回した。
「自分じゃ覚えてないんだけど。昔、二回ほど命を救ってもらったらしい」
「それは頭が上がらないね」
「でも私も架月に同程度のことはしたと思う」
「いや、僕の場合は全く命に危機がなかったから」
いわく。
僕の目がずっと悪かったのは、発現しきらなかった能力が網膜辺りでおかしなことになっていたことが原因らしい。
その後、医者をいろいろ回って話を聞いたところ、誕生時に世話になった産婦人科で、実は僕が母親の胎内で一度死にかけたらしいことを知った。
「しかし能力とは不思議なものだよね」
「うん?」
「死に直面すると発現するのに、発現しきらなかった能力が原因で死にかけることもある」
「そうだね」
「発現しきらなかった能力は、もう一度死にかけることで発現するのに、発現しきらなかった能力が原因で死にかけた時には、それが起きない」
「んー」
能力については、まだわかっていないことの方が多い。
確かなのは『死に直面すると発現すること』だけ。
「知り合いに、医者志望の人がいるんだ」
ふと、帆風が僕の方を見て口を開く。
「その人は、能力は一種の自己防衛機能だと思う、って言ってた」
「帆風が珍しく難しいこと言い出した」
「で、命の危機に瀕した時に、リミッターみたいなものが外れて、能力が発現するんじゃないかと」
「へえ」
「その時に、リミッターが外れ切る前に命の危機を脱すると、能力が発現しきらないんではないかと」
「難しいね」
「そのあと、その発現しきらなかった能力のせいで死にかけた場合、他の自己治癒機能とか自己防衛機能が頑張るんだけど、能力には勝てないんじゃないかと」
「そこまで考えてる人がいるんだね」
「私も聞いた話そのまま喋ってるだけだからよくわからんけど」
「まあ、だろうね」
今は、多くの人が当たり前に使っている能力。
その実態が、今なおこうして明らかになっていないというのは、なかなかの不安要素である。
「わけのわからないものに頼りたくない、って能力を否定する人もいるけど」
「うん」
「せっかくもらったものなら活かしていきたいよね」
そう言って、帆風に向かって笑って見せる。
帆風は、へらり、脱力するような笑顔でうなずいた。
「そうだね」




