『極神』と『英雄』
それは、昔々のこと。
私自身がそれを覚えているわけではなく、後から聞いた話ではあるが。
どうやら私は一度、心臓が止まったことがあるそうだ。
親戚たちが語るのは、ふんわりとした、所謂あらすじみたいなことだけ。
だから、私は私の身にいったい何が起きたのかを、厳密に知っているわけではない。
「あの時は大変だったのよ。救急車もなかなか来なくて」
そう語るのは、私を育ててくれた伯母。
ちなみに言うと、私の両親もその際に亡くなったそうだ。
ただし私は記憶が飛んでおり、両親の顔すらよく覚えていないのだけど。
「帆風ちゃんがまだ幼稚園生だったころでね。酷い事故だったのよ」
「酷いってどのくらい?」
「思い出したくもない有様だったわよ」
ぞわぞわっ、という感じで、伯母は身を震わせた。
「その時に、帆風ちゃんを助けてくれた子がいてね」
「子?」
「帆風ちゃんより三つ上くらいだったかしら。能力持ちの子で、すごかったのよ」
「ふうん」
「その子、その時だけじゃなくそのあとも、帆風ちゃんを助けてくれたのよ」
「そのあと?」
首を傾げれば、伯母は困ったように笑いながら肩をすくめた。
「能力の発現が中途半端だったせいで、帆風ちゃん、昏睡状態になっちゃって」
「伯母さんはずいぶんな修羅場を軽いタッチで語るなぁ」
「今だから言えることよ。その時もね、その男の子が助けてくれて」
「男の子」
私を助けてくれたのは、三つ上の男の子らしい。
つまりそれは、当時小学二年生だった私から計算すると、小学五年生。
怪我をした当時というのが今から三年前だと言うので、その男の子は当時小学二年生。
「ありえん」
「伯母さんだってビックリしたわよ。だけどその子、外科手術に特化した能力の持ち主だったみたいで」
「いや、かといって無理があるでしょ」
「素晴らしい手さばきだったわよ。将来は外科医になるんですって」
「ふうん」
「で、その男の子と今度会えることになったから、帆風ちゃん、ちゃんとお礼を言うのよ」
「あ、そういう話だったんだ」
急に昔の話をし始めたから何かと思えば、そう言うことだったらしい。
「その人の名前は?」
「真垣陽色くんよ」
「ひいろ。……ヒーロー?」
「ふふ、そうね。帆風ちゃんにとってはヒーローみたいなものよね」
伯母さんがくすくすと笑う。
ヒーロー。ヒーローか。確かに、私は二度も命を救われているのだから、そうかもしれない。
「ヒーローくん。陽色くん」
今、決めた。
私は今後一生、この陽色くんという存在を、何よりも優先して生きよう。
つまるところ、それが『極神』である私と、『英雄』である彼の、出会いの物語である。




