『炎帝』、困惑
「千里くんは放っておいても目立つことが分かった」
そう言ったのは、相変わらず俺の隣の席にいるあの子。
烏丸青羽。
「え、何で」
「うん、うまく説明できないけれど、今までと違う目立ち方をしているわよ、ということは言っておくわ」
呆れたように頭を抱えて、その子は溜息をつく。
「私、すっかり失念していたのよ」
「何を?」
「千里くんは素行がアレだったから『素行不良』と言うことで目立っていたけれど」
「はっきり言うね」
この子の言葉には、いつも大概裏表がない。
だから俺は、この子の言葉が嫌いではないのだ。
「素行がまともになったところで、目立つ要素がなくなったわけではないのよ」
「どういうこと、それ」
「自分じゃ知らないようだけど、あなたモテるのよ」
「っぶ」
決して嫌いなわけではないこの子の言葉に、思わず吹き出してしまった。
だが俺は悪くない、きっと悪くない。
「唐突に何言いだすの」
「私だって言いたくないわよ。でもね、実際問題そうなのよ。ねえ」
「いや、急に話を振られても困る」
ねえ、と言いながらその子が向いた先は、後ろの席。
大人しく本を読んでいたらしい眼鏡のその子、嵐山汐里は、呆れたように言った。
「確かに、何故かたまに浦谷宛てのラブレターが私の下駄箱に入っていて困るという話はしたが」
「え、そんな事件が起きてんの」
「汐里の下駄箱、千里くんの上だから」
「ああ、そういう……なんかすみません」
いや、そう言えば確かに下駄箱に手紙が入っていることがちょくちょくあるなぁとは思っていたけれど。
まさかそんな目立ち方を俺がするようになるなどとは思ったこともなく。
「知らなかったなぁ」
「だから私、反省したのよ。目立たないようにしてみたら、なんて千里くんには無理だったのだとわかったから」
「それはそれで複雑な気分なんだけど」
高校入学以来、当初の予定通り、この学校で一番強いと言われる『英雄』・真垣陽色の陰に隠れてひっそりと生きてきたつもりだ。
しかしながら思わぬ目立ち方をしてしまったとなると……俺の平穏はどこだろう。
「まあでも、素行不良で目立つよりはいくらかマシなんじゃない」
後ろから聞こえた声に振り返れば、嵐山さんは無表情のまま俺を見て続けた。
「たぶんモテ期だよ。三年になる頃には終わるよ」
「何その怖い予言、俺のモテ期そんなに短いの」
「モテ期が終われば目立たなくなるよ」
「ああ、そう……」
思わずため息をついて、二人の顔を見た。
二人とも呆れたような顔で俺を見ていた。
モテ期が訪れているはずだというのに、何故俺の周りの女子は俺に冷たいんだ。
つらい。
ちなみに言えば、その後は嵐山さんの言うとおり。
俺のモテ期は三年になる頃にすっかり終わってしまったようだった。
……女子の考えることはさっぱりわからない。




