『最強』と情報網
情報屋、と呼ばれている奴がいるらしい。
誰が誰に負けただの、誰が誰に勝っただの、誰が誰くらい強いだの。
そういった、俺にはあまり興味のない情報を、取り扱っている奴らしい。
という話を、そういえば陽色さんから聞いたような気はしていた。
「おう、永峰!」
「ん」
ある放課後のこと。当時、高校一年。
かけられた声に振り返ってみれば、そいつは満開の笑顔で片手を挙げた。
「久しぶり!」
「ああ、居上?」
「疑問形かよ!? なんだよなんだよー、卒業式以来の再会なのになんだよー」
「三カ月くらいしか経ってねーじゃん……」
馴れ馴れしく肩を組んでくるその男、居上正哉というのは、俺の中学の頃の同級生である。
正直、そこまで仲が良かったと言うつもりはない。
ただ、気づけば近くにいたなと、それだけだ。
「久しぶりに会ったんだし、どっか入ってなんか食おうぜ! 俺、ドーナツがいい」
「ほぼ指定じゃねーか」
「ストレートティーな」
「おごらねーぞ」
そういう経緯で、この居上と二人でドーナツを食べるなどという、かくも不思議な現象が起きてしまったわけだが。
「そういや永峰、お前知ってる?」
「何だよ」
「一高に進学したやつでさ、すげー強いやついんの」
「いや、知らねーっていうかそもそも興味ねーし」
「かーっ! お前はそういうとこおじいちゃんだよな!」
「どういう意味だそれ」
もぐもぐとドーナツを食べながら、そいつは笑顔満開のまま話す、話す。
「もっと感覚を若く持って行こうぜ! ミーハーになろうぜ!」
「なりたくねーわ」
「そう言わず! ここで俺が得た強いやつ情報を永峰にプレゼントだ!」
「いらねーわ」
「まず何と言っても欠かせないのは」
「聞けよ。人の話を聞けよ」
その時点で俺の方を見た居上は、にっぱりと笑顔満開のまま、もう一度口を開いた。
「ああ、心配すんなって! 永峰は友達割引にしとくから!」
「は? 何の話だよ」
俺の混乱をよそに、そいつはぴーちくぱーちくと喋る喋る。
一高には中学時代名をはせた悪童が進学しているはずだとか。
二高には優男そうな顔をしておいて残虐なことをするやつがいるとか。
三高には強いやつがあんまりいないとか、何とか、かんとか。
「って感じかなー」
「聞くだけで疲れるわ」
「つう感じで、永峰も頑張れよ!」
「何をだよ」
「俺、お前に関するこういう情報入ってくんのすげー楽しみなんだよ!」
最後までにぱにぱと笑いながら、そいつは鞄から何か取り出すと、チョコチョコと何か書き、俺の前にそれを置いて席を立った。
「おい、立て替えたドーナツ代」
「それで!」
笑顔満開のまま、そいつはひらひらと手を振って去っていく。
そいつが置いていったそれに目を通したところで、ついつい溜息が出た。
「悪質な訪問販売じゃねーか」
領収証。
情報料として、ドーナツ三個。
――情報屋、居上正哉。
「友達割引ってそう言うことかよ」
あくどいやり口に、何故か顔が緩む。
あいつらしくて、笑えてくるわ。




