『極神』と『百式』
「この間、いいことしてきた」
「何したの」
「能力持ちのお兄さんが、うまく能力発現させられてなかったみたいで、それを発現させてあげてきた」
「え、何それすごい」
とある休み時間。当時、小学六年。
私の後ろの席にいた帆風が、あまり表情を動かさないまま、淡々と言った。
「たまにいるんだって。うまく能力が発現しきらない人」
「へえ。なんでかな」
「わかんない。陽色くんは『個体によるんじゃないか』とか言ってたけど」
陽色くん。
その人のことをよく知っているわけではないが、帆風が懐いている中学生だということは覚えている。
「奈音ちゃんも能力関係で困ったことあったら陽色くんに聞くといいよ」
「今のところ大丈夫」
幸いにも、能力が発現するような命の危機には瀕したことがない。
だから私自身は何かの能力を持っているわけじゃない。
ただ遺伝的に、血統的に、式神を操る能力があるというだけの話。
「帆風」
「何かな、奈音ちゃん」
「うまく能力発現させられてなかったって、どういう状態だったの」
「あのお兄さんの場合、能力がこの辺でくすぶってて」
そう言いながら、帆風は目の辺りを指さし、くるくると回す。
「発現しきらない能力が体のどこかでくすぶってると、一種の腫瘍みたいなことになるらしくって」
「シュヨウ?」
「体にめっちゃ悪いできものみたいな感じらしいよ」
「へえ」
帆風の説明では大したことに聞こえないが、言葉の感じだと危なそうだ。
「そういう人の中には、それが原因で亡くなる人もいるらしくて」
「え、そうなの。それ大変なやつだ」
「そう。ああでも、この間のお兄さんはほとんど発現してるに近い状態だったから、荒療治で何とかなった」
「何したの」
「屋上程度の高所から落としてみました」
「怖いわ」
そりゃ命の危機も感じるわ。
そんなことを思いながら帆風を見れば、帆風はへにゃりと笑った。
「お兄さん、ほとんど見えてなかった目が見えるようになったって、喜んでた」
やったことはただの殺人未遂みたいなものかもしれない。
けれど帆風は嬉しそうで、そのお兄さんも喜んでいたとのことで。
私にはよくわからないが、ツッコむところかそうでないかで言えば。
「よかったね」
「うん」
……まあ、ツッコまなくてもいいかなと、判断したわけで。
「やっぱり、能力が原因で目が見えてないって、もったいないからね」
「もったいないって?」
「使えるもの二つが反発しあってどっちも使えなくなってる状態って、もったいないもの」
帆風の考え方はよくわからないけれど、とりあえず。
私も何か困ったことがあったら、まず彼女を頼ろうと思った次第である。




