『審判』、手抜き
この世界において、『強い』に位置する能力持ちは、大体が生まれたばかりから物心がつくころ、幼いうちに能力を発現させているようだ。
かくいう俺は、そういった中では発現が遅い方だったと思う。
「『審判』ってのは、お前のことか」
「?……ああ、そう呼ばれるようになったんだった」
当時、中学三年。
能力が発現してから、その時点ではまだ一年足らず。
「最近、ここら一帯ででけえ面してるみてえじゃねーか」
「え、いや自分では小顔な方だと思ってるけど」
「サイズ感の話じゃねーよ! つうか何アピールだてめえ、イケメン鼻にかけてんじゃねーぞ!」
「イケメンだなんてそんな、照れるなぁ」
「じゃねーよ! そういう話じゃねーんだよ!」
ある日の放課後、帰り道。
何やら顔の大きい不良らしき人に絡まれてしまった。
初めてではない。ここ最近、何故か同じ謳い文句で絡まれる。
解せない。
「それで、何の用かな? 俺、早く帰ってアニメ見たいんだけど」
「勉強しろよ受験生!」
「え、学年まで知ってるの? うわー……お疲れ様」
「どういう意味だその目! ストーカーとか思ってんのか!? やめろ!」
この不良はなかなかにノリがいい人のようだ。
「じゃあ帰ってもいい?」
「いいわけねーだろ! 俺と勝負しろ、『審判』・東條飛鳥!!」
「名前まで知られている……! ……お疲れ様」
「だからぁあ!」
なんだかおちょくるのが楽しくなってきたが、このままでは夕方のアニメに間に合わない。
仕方がない、さっさと片付けることにしよう。
「空間展開」
ため息交じりに、言葉を紡ぐ。
ヴン、空間が歪む音に、目の前の不良がうろたえだした。
「おい、ちょっと待て!」
「何」
「まだ始めてねーだろ!?」
「そんなの知らないよ」
不意打ち? 卑怯? ……それで結構。
生憎と、それ以外の勝ち方をよく知らない。
「この空間において」
「ちょ、待て」
慌てたように武器を取り出す『そいつ』を横目で見てから、目を閉じる。
ああ、もっと時間がある時に来てくれれば、こんなことしなくて済んだのに。
「――『主』以外の『存在』は無効」
口に出した瞬間に、斬撃が飛ぶ。
断末魔のような叫び声が止んでから、空間を戻して歩き出す。
その途中に携帯を取り出して、119番。
「ああ、すみません。怪我人です。場所は坂凪3丁目の――」
数歩進んで、振り返る。
その場に倒れ伏したまま、不良は動く様子もない。
「じゃあ、よろしくお願いします」
通話を切って、携帯をポケットにしまう。
「救急車は呼んでおいたから、あとは頑張って。ああ、あと、もっと暇な時に来てくれたら、もっとゆるい縛りで勝負してあげるよ」
じゃあね。
手を振って、もう一度前を向く。
彼に聞こえたかどうかは、わからないけれど。




