『怪力』と『咲乱』
小さい頃に一度、事故に遭ったらしい。
私はそのことを全く覚えていなくて、気付いたら少し力が強くなっていた。
少しだよ。本当に、少しだけ。
「そう思ってるのは和樹ちゃんだけですー」
「えー、そんなことないよー、少ししか変わってないよー」
「いやいや、話聞いただけの僕にもわかります、少しじゃない」
当時、中学一年。場所は教室。
給食の時間、すぐそばの席の信楽深花ちゃんと、くだらない話をしていた時。
「だって和樹ちゃん?」
「何ー、深花ちゃん」
「ある日を境に鉄筋を持ち上げられるようになったというのは、明らかにものすごいパワーアップです」
「えー、わかんないよー? もしかしたらその前から持ち上げられたかもしれないよー」
「いやいやそんなわけない」
「重いから持っちゃダメよ!とか言われて持ったことないから分かんないだけでー」
「いやいやいやいや」
深花ちゃんはわざとらしく顔の前で手を振りながら、否定の言葉を重ねる。
「和樹ちゃんは立派に能力持ちです。怪力の」
「やだ、私はもっと可愛い能力がいいのー、だから怪力は能力じゃないんですー」
認めたくない。
怪力なんてそんな可愛くない能力が、私の能力であるはずがない。
断じて認めたくない。
「深花ちゃんみたいな可愛い能力ならよかったのにぃー」
「いやいや可愛くないですよ? たまに棘とか指に刺さって痛い痛い!ってなりますよー」
「それはただ単純に深花ちゃんがドジ」
「ひどい」
深花ちゃんの能力は、名前とも合う『花』。
いや、羨ましい。可愛くて羨ましい。
惜しい点を挙げるとしたら、彼女の一人称が『僕』であることだけだ。
「あーあ、花じゃなくても植物っぽいのとか、魔法少女っぽい何かがよかったなぁー」
「僕にはドンマイとしか言えません」
「つらい」
溜息をついてから、牛乳を飲む。
ああ、でもこんな怪力で身長が高くなったら余計に可愛さが減る。
そんなことを思ったら顔に出ていたのか、深花ちゃんが私の肩を叩いた。
「大丈夫。和樹ちゃんはきっと大人になってもちまっこいままだと思いますー」
「ちまっこいって言うなー」
「だから身長が伸びる心配はしなくていいと思いますー」
「ねえ、泣いていい? 泣いていい?」
確かに身長が伸びるのは嫌だけれども、それを人から言われるのはもっと嫌だ。
「深花ちゃんめー」
「だがしかし残念、可愛いものが好きな和樹ちゃんは僕を嫌うことができないのです」
「……」
「あれ、今のツッコむとこですよ」
きょとんと首をかしげる深花ちゃんに、思わず溜息。
今さらながら、私はどうやらこの子が苦手だ。




