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『最強』と『炎帝』

 能力は、先天的にすべての人間がその素養を持っているものである。

 しかし普通の生活をしていれば、その能力が発現することはほとんどない。

 発現する条件はひとつ。

 『死に直面すること』


「そこまでして、能力なんてほしいものかねぇ」

「確かにそれ。能力欲しいからって屋上から飛び降りようとした人見たことあるよ」

「ガチじゃん。おっそろしいよねぇ」


 教室の片隅で繰り広げられるそんな会話を聞きながら、欠伸を一つ。

 そんな俺の隣で、俺の顔を見ていたそいつが、口を開いた。


「一斗はさ」

「ん?」

「いつ、能力が発現したの」


 へらへら、楽しそうに笑いながら言うそいつ、……千里から目を逸らす。

 ガシガシと頭を掻いて。


「生まれてすぐ」


 現在。学年は高校三年。

 『英雄』だった陽色さんが卒業してしばらくが経ち、いつの間にか俺の隣には、当たり前のように千里がいるようになっていた。


「生まれた時点で未熟児で、その時点で命の危機でさ」

「あー、そういう感じなんだ」 

「そう。そこで能力なんぞ発現しちまったもんで、産院で大変だったらしい」


 例えば。

 夜泣きついでに重力を発生させて、他の赤ん坊が泣きわめくみたいな。

 例えば。

 哺乳瓶でミルクを飲ませようとしたら、急に哺乳瓶が重くなるみたいな。


「そう言うお前は?」

「俺?」

「お前だって発現してんだろ、能力」

「あー、まあねぇ」


 苦笑を漏らしながら、千里は俺から視線を逸らす。


「親戚の子をさ」

「ん?」

「いや、親戚の子をかばってさ。大火傷」

「うーわ……そういう感じなのか」

「そう、そういう感じ」


 なんだか、臨死体験の話をしているようで何とも複雑な気分になってきた。

 千里から視線をずらして、時計を見る。

 休み時間は、まだしばらく終わりそうにない。


「いろいろあったんだな」

「そう、いろいろあったんだよ」


 そんなことを言い合って、沈黙。

 まだ、教室の片隅からはざわざわと会話が聞こえてくる。

 聞く気にもなれなくなって、目を閉じた。


「能力持ってる人らがさ」

「ん?」


 ふいに千里が口を開いたので、閉じた目をまた開けた。

 千里はこちらを向くと、へらへらと笑みを浮かべたまま、つぶやくように言った。


「全員、死に直面したことがあるなら」

「おう」

「能力持ちが意外と多いこの世の中は、意外と物騒だね」

「……あー、まあ……確かにな」


 能力持ちがみんな、あまりにも当たり前のように能力を使うので忘れがちだが。

 よく考えれば、ああやって戦っている奴らは全員、一度死の恐怖を味わっているわけだ。

 それは千里のように事故かもしれないし、俺のように病気かもしれないし、原因はいろいろあるだろうけれど。


「何でこの世界、能力とかあるのかな」


 残念ながら俺は、その質問に対する答えを持ち合わせていない。



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