『炎帝』、志望
当時、中学三年。
「進路、どうするの」
ぼんやりと窓の外を眺めていた時に、そんなふうに声をかけられた。
「千里くん、そのあたりってちゃんと考えてる?」
「失礼な。それなりに考えてるって」
「またまた。……ちゃんと考えてる人は、こんな時期に喧嘩でそんな怪我をしません」
隣の席のその子は。
小さいころから、気づけば隣の席にいたその子は。
いつまでも喧嘩ばかり続ける俺に、そんなことを言った。
「別に、殴られた怪我じゃないけどね」
「余計にでしょう。自分の能力でそんなふうに怪我してるんじゃ世話ないわ」
そう言いながらその子が指差す俺の手には、包帯。
自分が出した火で火傷を負ったという、何とも不名誉な傷。
「『やらかし』すぎなのよ、千里くんは」
「そう言うけどさ、青羽」
窓から視線を逸らして、振り返る。
その子は。
俺の隣にいつもいる烏丸青羽は、驚いたように目を瞬いた。
「俺はじゃあ、どういうふうに生きればいいと思う」
「……他人の私にそれを聞くの」
「もう幼馴染みたいなものでしょ。気づいたら隣の席になってるんだから」
小学校六年間、そして中学校三年間。
だいたいいつも同じクラスで、そうでなければ同じ選択授業を受けていて。
いつもそう言えば、隣を見ればこの子がいた。
「だからって千里くんの人生の選択にまで責任持てないわ」
呆れたように溜息をついた後、その子は頬杖をついて、じっと俺の顔を見た。
「……まあ、でも」
「ん?」
「とりあえず、高校ではあまり目立たないようにしてみたら?」
じっとこちらを見るその子の目を、俺もじっと見返した。
……どうやら、真面目に答えてくれたらしい。
「……じゃあ、そうしようか」
「え。……いや、必ずしもそうしなさいと言う意味で言ったわけじゃないのよ?」
「それでも、その方がいいと思ったんでしょ」
「……まあ」
「それなら、そうしてみようかなと」
まず、喧嘩を買わないようにする。
それから、そうだな、髪型とかも変えてみるか。
後は強そうなやつの後ろについて歩いてみようかな。
「ありがと」
「……別に。人様のことだから適当言っただけよ」
ぷいっと顔を逸らして、その子は廊下の方を向く。
俺は机から進路希望の用紙を取り出し、筆箱からシャーペンを取り出した。
進学するなら、強いやつが多いところにしよう。
そうすれば、俺も目立たずにいられる気がする。
『第一志望:一ノ宮高校』
あそこには『英雄』なんて呼ばれている人がいたはずだ。
入学したら、その人の陰に隠れて、目立たないように生きていこう。
そう言ったわけで一ノ宮高校へ入学した俺だったのだが。
……まさか、そこであんな大乱闘やあんな全面戦争に参加することになろうとは、当時は思いもしなかったものである。




