『機巧』、跳ぶ
スコップを地面に突き立てたまま、詠時は動かない。
しかしその足元で、ぼこぼこ、大地が動く。
「目敏いんすねェ。まだそんなに目立つことは」
そう言いながら、ゆっくりとスコップを持ち上げる詠時。
ぴくり、威空と明良が反応を示す。
にやり、笑みを浮かべた詠時は、もう一度口を開いた。
「何もしてなかったのに」
詠時が、スコップを持っていた手を広げる。
重力に従って地面に落下したスコップの先が、ざくり、地面をえぐる。
同時に、詠時の周囲の地面が、爆発的に隆起した。
「うおっ」
「やっべ、これ」
威空と明良は、同時に校門の上へ退避する。
隆起した地面が、大地が、形を変える。
大蛇、あるいは龍。
その様子を見た『機巧』二人は、同時に引きつった笑みを浮かべた。
「おいおい『職人』、何だそりゃあ」
「ペットか何かか、それともそれは、うちの学校の地面か?」
「両方正解っすかね」
土から生まれた龍が、懐くように詠時に顔を寄せる。
その顎を撫でながら、詠時は少しだけ、困ったように笑って見せた。
「今、三高の敷地にある『大地』は、俺が飼いました」
『大地』を飼い馴らす。
意のままに操り、整地も成形もお手の物。
土から様々な形を作り出す様を見た周囲の人間が「まるで『職人』だ」などと言ったことが、彼の通り名の由来となっている。しかし本人はそれを知らない。
「ああ、一般生徒には迷惑かけないようにするんでご心配なく」
「その心配はしていない」
「どっちかと言うと、自分の心配しかできないぞ、この状況」
スパナを構えた威空が、ちらり、明良の方を見る。
ハンマーを担いだ明良が、ちらり、威空の方を見る。
「こりゃあ、一筋縄ではいくまい」
「油断大敵、初心忘るべからず」
「全くだよな、相棒」
「しまっていこうぜ、相棒」
笑みを浮かべる『機巧』二人。
跳び上がったのは、同時。




