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『英雄』、告白

 竜崎帆風という人物について。


 彼女は基本的に、自分が『自分』であるということに対して、自信を持っていない。

 それは彼女が、幼い頃に命を落としかけた事故以前のことを、何一つ覚えていないからだ。


 竜崎帆風、という名前が、本当に自分の名前であるという自信が、彼女にはない。

 自分を育ててくれた伯母が、本当に自分の伯母であるという自信が、彼女にはない。


 そして、彼女を助けたのが俺であるという自信も、彼女にはないはずなのだ。


「帆風」

「ん、何かな陽色くん」


 現在地、駅そばの喫茶店。

 このたびの全面戦争について聞き終えた後のこと。


「前々から聞こうと思ってたんだが」

「うん」

「帆風はいつも、俺の頼みを二つ返事で引き受けるな」

「そうだね」

「それは何故か、理由を聞いてもいいか」


 帆風はきょとんと不思議そうな顔をして、すぐに口を開いた。


「決めてるからね」

「何をだ」

「何においても陽色くんを最優先するって」


 それは、初耳だ。


「何故だ」

「陽色くんが、私の命を二度救ってくれたと聞いた」

「ああ、それは確かだ」


 帆風が覚えていなくとも、俺がちゃんと覚えている。


「だから少なくとも、陽色くんと私には確かな縁がある」

「縁、か」

「陽色くんが、空っぽになった私に、最初に繋いでくれた縁だ」


 そう言いながら、帆風は小さく笑う。


「だから私は、その縁を何より最優先する。初めて、私が確立した縁だ」


 その言葉に、思い出す。


『彼女にとって、自分が確立していく事象は全て喜びだ』


 それは確か、俺自身が、後輩たちに対して言ったこと。

 その『自分が確立していく事象』の中に俺自身が含まれているとは、思ったこともなかったが。


「例えばだ、帆風」

「うん」

「俺はいずれ、この町を出る。この国すら出るかもしれない」

「うん」

「その時、俺が『来い』と言ったら、お前はどこであろうと来るのか」

「行くさ」


 即答だった。


「例えその日、試験だろうが、お見合いだろうが、親族の結婚式や葬式だろうが、必ず行くさ」

「……なら例えば、俺が死んだあとで、早くあの世に来いと言ったら、来るのか」

「もちろん。その声が聞こえればの話だけれど」


 思った以上に、俺は竜崎帆風という人物にとって、重要視されているらしい。

 内心、結構驚いている。


「……結婚でもするか」


 するりと、自分でも言うつもりなどなかった言葉が、口を突いて出てきた。

 帆風はさすがにぽかんと口を開け、ぱちくりと目を瞬いた。

 けれどその表情のままで、きっと帆風自身も思っていなかっただろう言葉が、帆風の口から飛び出した。


「……陽色くんが家族になるっていうのも、いいな」


 天国にいる帆風のお父さん、お母さん、聞いていますか。

 俺はどうやら将来、娘さんを嫁にいただくことになりそうです。


 今のところ、予想の域を出ませんが。



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