勇者と盗賊の王子退治1
「さて、皆さん、必要なものは持ちましたかー?」
「「「「「はーい」」」」」
人里からちょっと離れた、自称盗賊団の洞窟利用型のアジトの前で、これから“仕事”に行く男たちが、引率に従って整列していた。
おっさんばかりである。背には大きな荷物入れを背負っている。当然、盗賊のお仕事なので、今からいくお仕事とは、盗賊の仕事である。
しかし、それを引率しているのは、もちろん未来の勇者こと、まだ現在は美少女にしか見えない悲しき被害者、灰芽であった。
「えー。では、今から我々【王子金爛の被害者の会】一同は、王子の屋敷に殴り込みをかけまーす」
「「「「「はーい」」」」」
協力を取り付けた後の灰芽と、これから初仕事の盗賊たちは、計画を詰めまくっているうちに一種のハイ状態になっているようで、みなさんふっきれたいい笑顔でいらっしゃった。
「覆面はかぶりましたかー?」
「「「「「はーい」」」」」
「自分の役割、わかってますかー?」
「「「「「はーい」」」」」
「はーい。じゃあ行きましょう。えーと、《魔術:転移》っと」
灰芽の軽いその一言で、その場にいた大勢の男たちは、一瞬にして不思議な光に包まれた。光自体はまぼろしでも見たかのように一瞬で消えたが、その時には、その場にいるはずの男たちも、すべて消えていた。
そして、彼らの一世一代のお仕事が始まる。
※ ※ ※ ※
その時、王子は自分の屋敷で片手間に書類仕事を片づけつつ、のんびりとお茶を飲んでいた。母親から行って来いと言われた盗賊退治は、不意打ちの連続攻撃の行使で見事灰芽に押し付けることができた。
王子は全く灰芽に悪いとは思っていなかった。適材適所である。それを見極めて適した人物に仕事を回すことこそ、自分のするべきことだと信じて疑っていない。母もそのつもりでいるのだろうと思っているのだった。
もちろん、完全な彼の思い込みであり、彼の母親であるところの王妃の言葉はそのまま、王子に自分で盗賊退治して来いという意味である。
「…ん?なんだこれは?年貢の徴収が遅れているのか?全く、催促させないとな」
「殿下、誰か官吏を派遣いたしますか?」
「いらんだろう。大方、どこかの金持ちが出し渋っているか、役人が忘れていたのだろう。催促状だけ送っておけ」
「かしこまりました」
付き合いの長い従者にそう言い付け、彼は仕事を切り上げ少し昼寝することにした。なにしろ、灰芽をフルコンボで盗賊退治に送り出すためだけに、早朝ともいえない夜中から起き出していたのである。間違いなく、努力の方向性が非常に残念なことになっている。
主の疲れを見てとった従者は、音も立てずに傍を離れた。そして、これが、この時の王子の最大の誤算になるのである。
王子がそれを知るのは、この五分後のことであった。