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哀れな決闘者  作者: MAPELS_MOTTS


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最終話 永遠の愛

フラフラと歩き続ける。


もうボロボロだった。

衣服も左側が派手に破れて、女である部分が丸出しになっている。


この夜中にこんな格好では、歩いている姿を見られただけで即、女だとバレて私だと考え付くだろう。


早く隠れないと。


「......」


つらい。


誰か...助けて...


どうしてこうなっちゃったんだろう。


どうして、ユウスケさんが殺されなければならなかったんだろう。


それさえなければ...幸せになれていたのに...

いや、わかってる...私が、あの事をユウスケさんに喋ってしまったから...!


「うっ...うぅ...! ひぐっ...! 

結婚...したかったよぉ...!」


そうして幸せになって、剣術なんて捨てて、お嫁さんとして平穏に生きて...


それでよかったのに...


なんで...なんで...!



私は、この町しか知らない。


遠くに行って生き延びれるかわからなかったから。


でももう、この町で安心できる場所はない。


あまり目立たない五郎の道場にすら、時々人が見に来て、床下に隠れていた。


安心したかった。


逃走していると、無意識の内に、自分の一番安心する場所に近付いていた。


それは、かつてのユウスケさんの家だった。




あの部屋に行こう。


――――――――――――


ユウスケさんの家が見えた。

しかしそこで、私を呼ぶ声がした。


ユウスケさんではない。


「やっぱりここに来たか...ユウ...」


コイツは...


なんの脅威でもなかった、道場の門下生だ。

道場の中でも下の方の雑魚。


「なんでお前がここに...!」


「調べたんだ。師範を殺したのも、与太郎を殺したのも、お前だと知って、お前の情報を調べた...!」


「邪魔をするなら...殺す...!」


「っ...! 怖くなんかない...!

俺には...清く強い心が...あるんだっ...!」


明らかにビビっている。

邪魔だ、すぐに、殺してやる。


「死ねっ...!」


切りかかった時、酷い目眩が私を襲った。


「うぐっ...!」


「ユウ!覚悟っ!」


キィン!


「や、やめろっ...殺すぞ...!」


殺気を放つ。

しかし、門下生は怯まない。


「強き...心...! 俺は下がらない!

師範と与太郎の仇を、討つためにっ!」


ガン!


「うわぁっ!」


切られてバランスを崩す。


「ぐぇっ...おぇぇぇ...!」


胃液が込み上げ、視界がぶれる。


「うぉぉぉ!」


「や、やめて......!」


具合が悪い...苦しい...!


「ん...くっ...やぁっ!」


刀を振るも、もうふらふらだった。

それでも門下生は容赦なく攻め続けてくる。


「こ、この...!」


なんとか両手に力を込め、反撃をしようとした。

しかしその動きはあまりに遅かった。


ブシャッ!


次の瞬間、私の左腕が飛んでいった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


焼けるように熱い。

骨の髄から来るような激痛。


「いだい...いだいよぉ...! ひ、ひぃっ! こ、殺さないで! たすけてっ!」


彼は少し、同情するような顔をしたが、私に刀を向けた。


「だれかっ...たすけてっ...!

生きたい...生きたいっ...死にたくない...!」


完全に戦意を喪失し、腰を抜かして立つこともできずに這いずって逃げる。


だが、見逃してはもらえなかった。


ズシュッ


背中に激痛を感じた。

刀で刺されたと、すぐに理解した。


「ぎっ...あぁぁぁぁっ...!」


声にならない悲鳴が漏れる。


門下生は刀を引き抜き、もう一度刺そうとした。


「まっ...て...」


その声で、動きが止まった。


「彼の...ところ...に...行き...たい...」


同情か、関わりたくもないのか、門下生は目を閉じ、静かにその場を離れていった。


あの家が見える。


残った片手で這いずって、あの場所へ向かった。


「ユウスケ...さん...」


脳裏には、彼と愛し合った幸せな思い出が浮かぶ。

抱き合った時の体温。

急にくすぐられて、笑い合ったあの夜。


「たす...けて...」


力が入らず、立つことができない。

身体が地面と擦れる度に、痛みが走る。


でも、私はあそこへ向かった。

ひたすら、力を振り絞った。


家に付いた。

もうすぐだ。

彼と、愛し合った、あの寝室。


「ユウスケ...さん...なで...て...」


あと、ほんの少し。

彼との、思い出の場所が、あと


ほんの少し...


「死に...たく...な...い......」


なのに、届かない。

もう動けない。


視界が白く染まっていく。

痛みさえ、遠のいていく。



――――――――――――――――



何処かの居酒屋、隣の席にはユウスケさんがいる。


「ほら、ユウ。」


彼が鰻の蒲焼きを近付けてくれた。


「あーん...あむっ...んん~! んふふっ!」


「フフッ...ほんと子犬ちゃんって感じだなユウは。」


「子犬ちゃん」という、なんだか小馬鹿にしたような言い方。


でも、そう言われるのが好きだった。

ちゃんと可愛がってくれてるって感じがするんだ。


「あっ!ユウスケさん! 見て!今、私のお腹の子が動いた!」


「あははっ。どれ...

うーん、なにも感じないなぁ。」


「ユウスケさんが触るまでは動いてたんだってー!」


「まぁまぁ、落ち着こうよ。触れあうのは産まれてからでも遅くない。」


「うん! ねぇユウスケさん! 私ね...」


だんだん、視界に映る光景が薄くなって行く。


「ユウスケさん!? ユウスケさん!

待ってよ!」


なにも、なくなってしまった。


真っ暗の暗闇の中、私だけが取り残されてしまった。


「ユウスケさん!? ユウスケさんー!

どこぉ...! うわぁぁぁぁぁん...!!」


――――――――――――


彼女は最後に、夢を見た。



そして、彼女の灯火は、静かに消えていった。


最愛の彼と共に宿した、お腹の中の命と共に。




――――――――――――――――



数時間後、彼女の亡き骸の場所へ、男がやってきた。


「あぁ...ごめん...ユウ...

俺がもっと早く来てれば...会えたのに...!」


引きずるように残った血の後と、剥がれかけた爪を見て悟った。


「バカな子だ...最後に、ここに来ようとしたのか...俺なんかじゃなくてもいいだろうに...

本当に一途で...」


亡き骸を抱きあげ、二人で愛し合った場所へ運んだ。

身体を拭き、布団をかけてあげた。


「そんなところが、可愛いんだけどな......

ごめんな。わかってやれなかった。

一緒にいて欲しかったんだよな...

寂しかったんだよな...」


静かに、ユウの頭をなでた。


「ほんと、「ユウスケさん、ユウスケさん」って...子犬みたいに俺に懐いて...最後の最後まで、俺の所に来ようとして...バカな子だよ...」


そしてユウスケは、台所の包丁を取り出した。


「今頃、暗闇の中でも、俺を探して泣いているんだろう。」


想いを浮かべ、自身の首に包丁を向ける。


「もう、1人にはしないからな...

これからは...ずっと一緒だ。

ユウ......愛してるよ。」



――――――――――――――



「うあぁぁぁぁん...!ユウスケさぁぁん...!

どこぉぉぉ...!」


「ユウ、こっちだよ。」


「ユウスケさん!!」


声がすると共に、遠くに小さな光が見えた。


光に向かって走る。

景色がゆっくりと白く変わっていく。


「ユウスケさん...ずっと...会いたかったよぉぉ...!!」


「ユウ...1人にしてごめんな...」


「......んっ!」


顔を近付ける。

いつものように、頭を撫でてほしかった。



「あははっ。撫でて欲しいって?

ほんとに子犬みたいな子だな。ユウは。」


「えへへっ...!」


優しい手が、頭に触れる。

温かい。

久しぶりに、幸せを感じた。


「これからは、ずっと一緒だ。」


「......」


その言葉に、ふと後ろを振り返る。

自分が来た、暗い闇の方を。



「ごめんなさい...私は...ユウスケさんと同じところには行けない...」


私は罪を......犯しすぎた...


「バカな子だ。」


「な、なんでっ!」


「言っただろう?ずっと一緒だって。

たとえユウの行く場所が、地の底の底だとしても。俺はついていくよ。

もう二度と、ユウを1人にはしない。」


「ユウスケさん...! うわぁぁぁぁん...!」


涙が、止まらない。


祐介は何も言わず、ただ優の手を握った。


二人は手を繋いだまま、静かに闇の中へと歩いていった。


光は後ろに消え、ただ二人の影だけが、ゆっくりと遠ざかっていく。



――――――――――――――



失踪した髪結いの家で、二人の遺体が見つかった。


一人は家の持ち主である髪結い。

もう一人は、手配書に載った、

連続辻斬り犯、切咲優。


髪結いの遺体は丁重に葬られた。


一方、女の遺体は極悪人のものとして扱われ、まともに弔われず、人道的に扱われる事はなかった。


こうして、剣豪を目指した一人の少女は、静かに消えた。




"哀れな決闘者"  おしまい。

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