腹立つなー
俺とクレアが屋敷に戻るころには日が暮れていた。
屋敷に入ると、みんなが出迎えてくれたので、俺とクレアの間にも魂のハーネスが発現したことを報告した。
するとみんなは「おめでとう」と口々にクレアに声を掛けていた。
マユは笑顔で「クレア、おめでとう」と声を掛けた後、自室に行ってしまった。なんとなく陰りのある顔していたな……?
気になった俺はマユを追って、部屋に入った。
そこにはベッドの上で、膝を抱いて座っているマユの姿があった。彼女は俺を見て力なく笑う。
「私だけ、カイトへの想いが足りないのかな……」
マユの沈んだ声色を聞いて、すぐにマユと俺の間にだけ、魂のハーネスが発現していないことを言っているんだろうと思った。
だが、さっきのクレアとのことで、俺の考えが正しいと確認できた。同じ要領でマユとも魂のハーネスが発現させられるはずだ。
俺は黙ってマユに近づき、お姫様抱っこした。
「ちょっと、カイト! いきなり何するのよ!?」
「たまには二人きりで、デートしよっか」
俺は抗議の視線を向けるマユに微笑みかけた後、窓から飛び立った。俺はマユを抱きかかえたまま、ティバンの森のダンジョンまで飛んだ。
ダンジョンの入口に立っている門番は、二人だけでダンジョンに入ろうとしている俺たちの進路をふさぐように前に出る。
俺がAランク冒険者のギルドカードを見せるとビシッと敬礼した後、道を開けてくれた。俺とマユは軽く会釈して、ダンジョンに侵入した。
俺はマユの手を引いて、ティバンの森のダンジョン一階層を歩く。マユは不思議そうに俺の顔を見ている。
「今更こんなところに来ても、得られる物なんて無いんじゃない?」
まぁ、そう思うよね。俺はそれを聞き流して、質問で返した。
「マユ、俺たちが初めてここに来た時のこと覚えてる?」
「ええ、もちろん覚えているわ。新人狩りのウザークを二人で返り討ちにしたんだよね?」
「俺もよく覚えてる。杖でウザークとやり合うマユはカッコよかったなぁ……」
「それを言うなら、カイトだって男四人に囲まれても怯まなかった。カッコよかったよ」
遠くを見るような目をして、マユは黙ってしまった。しばらくしてマユは口を開く。
「あれから、カイトは変わったよね……」
「そうかなぁ?」
「そうだよ。あの日のカイトは私に夢中だったのにね」
「えっ? 俺がマユのことを一目見たときから好きだったって、気が付いてたの?」
「そりゃね。カイトは自分で気が付いていなかったかもしれないけど、ものすごくイヤラシい目で私のことを見てたよ」
「うぅ……。ゴメン」
困った顔で謝る俺を見て、マユは一瞬クスッと笑うが、すぐに暗い表情に変わり「でも、今は……」と呟く。
話しながら歩いていると、ウザークたちと戦った広間のようになっている行き止まりまで来た。
「今もあの時と変わらず、俺はマユのことが大好きだよ」
その言葉を聞いたマユは、突然涙を溢して「そんなの嘘よ!!」と大きな声をあげた。少し驚いたけど、俺は落ち着いてマユのと瞳を合わせた。
「どうしてそう思うの?」
「だってそうでしょ!? 次々と女の子を口説いて恋人増やして! あの頃みたいに私のことだけを見つめてくれないじゃない!」
「だったら、俺のこと嫌いになる?」
「なるわけない。言ったよね? 私を放っておいたらヤンデレ化するって」
聖女らしからぬ、ドス黒い波動がマユの周囲に立ち込める。
「大体ね、昨夜だって私とは二回しかしなかったくせに、ノエルとレイナとは三回もしてたでしょ。それで今も変わらず私のことが好きだなんて、どの口が言うのよ?」
徐々にマユの口調がヒートアップしている……。
「今まではカイトが喜ぶことを一番に考えて、カイトがどれだけ他の女の子に手を出しても、気にしてない振りしてた。それなのに、私だけカイトと魂のハーネスが繋がってないなんて、みじめだよ!」
マユは普段しないような、怒りを露わにした顔でまくしたてる。
「もう我慢できない。あなたを私だけのものにしてやる!」
マユは低い声でそう言うと、聖杖を取り出して魔力を練り上げる。そして言霊を唱えた。
「アブソリュートフィールド」
俺たち二人は白い壁、白い天井、白い床に囲まれた。
俺は辺りを見回して、つい「おおっ」と感嘆の声が漏れてしまった。
これは聖杖の固有魔法か? チートスキル『聖女』を得たおかげだろうか、結界から感じられる波動は、マユのこれまでの魔法よりも明らかに強い。
マユは険しい表情のまま、聖杖を俺に突き付けている。
「聖女のチートスキルを得てから、聖杖の知識が私に流れ込んできた。いくつかの固有魔法も新しく習得できたんだ。この固有魔法によって作られた空間は内と外を完全に断絶し、外から一切の干渉ができなくなる」
「凄い魔法が使えるようになったんだな」
「……どう? 他の子と魂のハーネスでお話しできる?」
とりあえず言われた通り、頭の中でみんなに呼びかけてみる。……返事は無いな。俺は首を横に振りつつ「できないみたいだ」と答えた。
俺の返事を聞いて、マユはニィと不敵に笑う。これも普段マユが見せない表情だが、それもまた可愛い。
「他の子とのつながりが絶たれて不安?」
マユの能力でこうなっているだけだしなぁ……。
別に不安は感じない。どう答えたらいいのか考えていると、マユは聖杖に再び魔力を流し始めた。
「どうせアイギスの盾があるから怪我はしないでしょ? でも、私も頑張ってレベル上げたから、いくらカイトでも少しは痛いはずだよ。覚悟しなさい!」
「ええっ、ちょっと……」
「私の心の痛みを知りなさい! イノセントブレイズ!!」
げ、また固有魔法かよ!?
聖杖から放たれた白い光を伴う炎に、俺は飲み込まれ吹き飛ばされて、マユの作り出した結界の白い壁に叩きつけられた。
イテテ、今のは結構効いたな……。
絶対防御スキルであるアイギスの盾のおかげで、俺の体は傷つかなかったが、あまりの痛さについ膝をつく。もしアイギスの盾が無くて、ノーガードでさっきの魔法を受けていたら多分死んでたな。
マユは俺に慌てて駆け寄ってきた。
「なんで、魔装術でガードしないのよ?」
「マユが痛みを知りなさいって言ったでしょ」
「本当にバカなんだから……」
ふらりと立ち上がった俺を、マユは涙ぐみながら抱きしめキスする。
「それよりもさ、マユ、聞こえる?」
俺は口を動かさずに頭の中でマユに呼びかける。マユは驚いた顔をして、俺を見ながら目を何度もまばたかせる。
「聞こえる……、聞こえるよ!」
あーあ、涙でぐちゃぐちゃになってるよ……。でもすごく嬉しそうだ。
「マユとも魂のハーネスが繋がったみたいだね」
今の顔の方がマユには似合っている。さっきのドス黒い波動は、幻だったのかもしれないと思えるほどだ。
「魂のハーネスが発現する条件は、溜め込んだ強い想いをぶちまけることかもしれないね」
「想いをぶちまける?」
「ほら、人が悪霊に堕ちるとき、溜め込んだ怨念をぶちまけて、叫んだりしそうじゃない? そのときに未練の対象に魂が縛りつけられるのかな、って考えたんだ」
マユは黙って俺の言葉を聞き考え込む。しばらく俺の胸に額を当てて黙っていたが、顔を上げて呟く。
「カイトって、おバカなのにそんなことも考えていたんだね」
嬉しそうにそう笑うマユに、俺はギュッと胸が締め付けられる。
「マユ、ここでしちゃおうか」
「何言ってるの!?」
俺はマユの抗議に構わず抱き着いて、衣服の隙間に手を滑りこませる。マユは困ったような顔をしているが、嫌じゃないことが魂のハーネス経由で伝わってきた。
マユの背を壁にもたれさせながら左手で抱き、右手でマユの片足を持ち上げる。
「うぅ、こんなところで立ったままなんて……」
マユの文句が聞こえなくもないが、抵抗されないので唇を合わし、きつく抱き合った。
「もう、私のことはいつも雑に扱うんだから……」
* * *
ダンジョンの出口に向かって、二人並んで歩いている。
「さっき私に、カイトのことが嫌いになるかって聞いたでしょ?」
「うん、マユって我慢強いから、気持ちをぶちまけてくれるように煽ったんだ」
「カイトのくせに考えてくれていたのは分かった。でも、私がカイトのこと、絶対に嫌いにならないって自信があったんでしょ? そこはなんか腹立つなー」
文句を言うマユに、俺は頭の後ろをかきつつ笑って誤魔化そうとした。
「カイト、これだけはきちんと知っておいて欲しいの。私がカイトのことを一番愛しているんだからね!」
マユの瞳の奥からは強い意志が感じられる。ここで下手なことを言ったら今度こそ殺されかねないな。
「ありがと、嬉しいよ。俺もマユのこと愛してるよ」
マユは俺に抱き着くので、俺は黙って抱き返し、マユの背中をさすったのだった。




