怨念
夕食後、リビングのソファーに座ってくつろいでいる。こうしていると、恋人たちが競うように俺の隣に座ろうとするから、見ていて嬉しいんだよね。
今日はどうなるかな? 彼女たちの様子を伺っていると、ノエルが高速移動術を使って一瞬で距離を詰め、俺の右隣に座った。
こんなところで本気出すなよ……。
その数秒後、マユ、クレア、フィリスがけん制し合っている隙を突いて、アイリが俺の左側に座る。俺の隣に座れなかった子たちは、仕方なく向かいのソファーに座った。
ノエルは俺に指を絡めるようにして手を握り、俺の肩にもたれかかった。
「そういえば、カイトの剣を折れたままにしておけないよね?」
「オウデルさんにもらったあの剣、気に入ってたのになぁ」
ソファーに座らず、立ったままのレイナが口を開く。
「私のスキルで直せると思います」
俺が「ならお願いするよ」と返すと、ノエルが口を挟んだ。
「直すついでに神器級に強化して創り直そう。私のラングザードと同じくらい強くしたいわね」
「そんなことできるの? って言うか、そもそも神器って何なの?」
「神器とは、女神が神の力を使って作り出した武器だよ。ラプラスの記録によると、女神が創り出した神器は、聖剣エクスカリバー、神槍グングニル、聖杖ケルラウス、神弓タスラム、そして私の聖剣真打ラングザードの5本だよ」
「へー、それがなんでギアショップのジャンクコーナーで売っていたんだ?」
「聖剣エクスカリバーが、力を失った状態でギアショップで売っていたのは女神の仕業ね。二十年前、魔王との決戦前に女神からラングザードをもらった時に、エクスカリバーは返したから」
「それも女神の仕業だったんかい!? え……、もしかして、都合よく俺の元に神器が集まったのって……」
「ええ、女神が仕組んだんでしょうね。カイトに力を与えて、この世界をかきまわし、自分がそれを見て楽しむために」
「二十年前、勇者は私を含めて四人召喚されたんだけど、それぞれが女神から神器を貰って魔王軍と戦ったんだよ」
「それで、私が魔王を倒した後、槍の勇者は神槍グングニルをカークヨムルド王国に封印すると言って去った。彼は槍をエラッソス公爵家に託した後、田舎でスローライフを楽しんでいるみたい」
「弓の勇者は、神弓タスラムをオベラム湖のダンジョンの隠し部屋に封印した後、ナロッパニア王国の国王になったみたいね」
「聖女は、女神と戦うなんてやめなさいと言いながらも、ティバンの森のダンジョン五十一階層まで一緒に来てくれた。一緒に戦ってはくれなかったけど、ヘブンズゲート通る直前に、私にありったけのバフを掛けてくれた」
「その後はティバンの森のダンジョン三十五階層に聖杖ケルラウスを封印して、アルパリス王国に行って女王になったようね」
フィリスとアイリは目を丸くして、手を口元に持っていく。
「グングニルを私が家から持ち去ってカイトと合流したのって……?」
「私がオベラム湖のダンジョンにカイトを誘ったのも……?」
ノエルは「女神の思惑通りでしょうね」と頷いた。
「あと、聖杖ケルラウスと神弓タスラムを守護していた、カイトにとって丁度良い強さのモンスターも、女神が配置したのよ。カイトのレベル上げが捗るようにね」
全部女神の手のひらの上だったのか……。
「話を戻すけど、レイナのスキルで神器を創る際、コアのみを材料にするのは、必要量が多すぎて現実的じゃない。でも素材がそろっていれば難度は大きく下がる」
「神器の素材?」
「ええ、87%のアダマンタイトと12%オリハルコン、それに1%のミスリルでできた合金が、この世界の武器用としては究極且つ至高の素材。わずかでも割合がずれると合金の性質が変わってしまう」
「そんな精度を出せるの?」
「カイト様のお役に立つために、日々鍛錬しております。その程度なら全く問題ありません」
レイナを見ると、自信たっぷりの顔をしている。なんて頼もしいんだ。
俺が感心しているとノエルが続ける。
「オリハルコンとミスリルは折れた魔剣ベイルスティングを材料に使えば十分に足りる」
「ならアダマンタイトはレイナに作ってもらうの?」
「いいえ、アダマンタイトもレイナのスキルを使ってコアから作るろうとすると、膨大な量のコアが必要になるわ」
「ならダンジョンに行って拾ってくる?」
「そうなるわね。ただ、アダマンタイトは普通のダンジョンでは取れなくて、ウィツモ渓谷のダンジョンの五十階層でのみ採ることができるわ」
そこでマユが首を傾げて呟いた。
「ウィツモ渓谷ってティバンの森の北だよね? そこにダンジョンがあるなんて聞いたことないわ」
「まだ誰にも発見されていないから。ラプラスの記録によると、神域のダンジョンよりも強力なモンスターが出現するみたいだから、レベル上げにも丁度いいわね」
「なら明日はウィツモ渓谷のダンジョンを探索だな!」
俺の言葉に、みんな賛成してくれた。俺も神器を手にできるのか。楽しみだな……。
そう思っていると、ノエルが俺とレイナの顔を交互に見る。
「話は変わるけど、レイナとカイトの間に、魂のハーネスが復活しているね」
一斉に全員の視線がレイナに集まると、レイナは頬を染めて答える。
「はい。カイト様と交わった際に、再び魂のハーネスが繋がりました」
今度はみんなの視線が俺に集中して、悲鳴にも似た声でどよめく。
「どんなプレイをしたら、魂のハーネスがつながるの!?」
「そんなのずるいです!!」
「羨ましい……」
「私もカイトと魂のハーネスでつながりたい!!」
俺がみんなから一斉に説明を求められていると、ノエルはすこし引き気味でそれに答える。
「ラプラスの記録を確認したところ、どうやら非常に強い執着があれば魂のハーネスが繋がるようね」
クレアは必死な形相でノエルに詰め寄る。
「強い執着って何ですか? カイト様を愛しい気持ちなら、私も負けていません!」
マユもそれに続くようにして食い気味で語気を強める。
「どれほどの想いがあれば、魂のハーネスが繋がるの?」
ノエルは二人に両手のひらを向けて、抑えるように促す。
「例えば、地縛霊になるほどの、怨念と言えるほど強烈な執着かな?」
マユ、クレア、フィリス、アイリは「怨念……」と口にして、俺をじっと見る。なんか表情とか怖いんですけど……?
俺は呪い殺されても困るので、ノエルに問う。
「魂のハーネスを付け替える魔法があるなら、作り出して繋ぐ魔法とか無いの?」
「無いわね。そんなのがあったら、わざわざレイナから私に付け替えたりしないわ。それにもともと魂のハーネスを繋ぎ替える魔法というより、怨霊の執着の矛先を変える魔法の応用だったわけだし」
怨霊の執着の矛先って……。それもどうかと思うけどな。
マユは怖い目つきをして半笑いで俺を見る。
「前から思ってはいたのよ。魂レベルでカイトと繋がるなんて羨ましいって。レイナにできて、私にできないわけない。私のカイトに対する執着を見せてあげるわ」
「お、おぅ。お手柔らかに」
マユの強烈な気迫に、俺は気圧される。
「それは、おいおい頑張って貰うとして、とりあえず明日はアダマンタイトを採りにウィツモ渓谷のダンジョン攻略に行くからね」
ノエルの言葉に「了解」とみんなで声を合わせて返事した後、俺はみんなに腕を引っ張られて寝室に向かった。
この日はマユ、クレア、フィリス、アイリの四人は普段の何倍も気合が入っており、俺は果てしなく求められるのだった。




