レイナと二人きり
――魔王との戦いの翌朝。
目が覚め、体を起こそうとすると、痛みがあったので起きるのをやめる。昨日よりも痛みは増しているようにすら感じる。
「なんか、体中がまだ痛いなぁ」
俺がそう溢すと、ノエルは俺の額に手を当てて、優しく撫でる。
「MPを消耗し過ぎたのと、自分よりもはるかにレベルの高い相手と戦って、魂魄が弱っているんだよ。今日は一日安静にしていたら?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
ノエルは俺の頬に軽くキスをしてベッドから降りると、ベッドの傍らで立っているレイナを見た。
「私たちはダンジョンに行って鍛えてくるから、カイトのことはレイナが看ていて」
「承知しました」
俺とレイナを残して、みんなはレベル上げのためにダンジョンに向かった。
俺が黙って横になっていると、レイナがベッドの周囲に結界を張った。なんかだか温かくて心地いいな……。
俺が傍らにいるレイナを見ると、彼女は優しく微笑んだ。
「治癒力が上昇する結界です」
「ありがと。でも疲れない?」
「ご心配なく。この程度で疲労しません」
俺はその後しばらく眠っていたようだ。目が覚めたときには痛みも楽になってきたので、起き上がってリビングに向かう。
ソファーに座ると、レイナがお茶を入れてくれた。
「お体の具合はどうですか?」
「ああ、まだ軽く頭痛はあるけど、もう平気だよ」
会話が途切れ、二人で黙る。レイナと二人きりの屋敷は、静かで物音ひとつしない。
実体があるからなのか、今日のレイナは妙に色っぽく感じる。そのせいで変に意識してしまう。不意に目が合ったが、ドキッとして俺は目をそらしてしまった。
すると、レイナは座っている俺のすぐ近くに来て屈み、目が合うように顔を近づけた。
「この肉体に宿ってから、すぐに効果が実感できました」
「え、なんの?」
レイナは上気した表情で、俺の隣に座ってすり寄る。
「カイト様の……、モテモテスキルです」
「モテモテスキルって……。レイナのスキルで創った身体にも効果があったのか?」
「はい、そのようです。カイト様を見ると、声を聴くと、魂の波動を感じると……。この体が熱く疼いてしまいます」
熱い吐息が感じられるほどの間近で話すレイナに、俺はごくりと唾を飲み込む。レイナは俺の手を取って、自分の胸へ押しつけた。
「この体……、カイト様に奉仕することも視野に入れて、細部まで創り込みました。きっと気に入っていただけるかと……。それとも、私とするのは嫌ですか?」
「嫌なわけないだろ!? ずっと魂のハーネスで繋がっていたんだ。俺がレイナのことをどう思っていたかなんて知っているでしょ?」
レイナは嬉しそうに微笑んだ。そして俺の服を緩めてると、上にまたがりきつく抱きしめる。レイナの香りと、柔らかい肌の感触に、俺の体が熱を帯びてくる。
「レイナ、ちょっと待って…… アレつけなきゃ」
レイナは甘い声色で「そんなものは不要です」と囁いた。そして俺の頭を抱いて胸の谷間に押し込む。
ああっ、柔らかくて温かい。霊体の状態では触れることもできず、ただ眺めるだけだった双丘に挟まれて、頭が蕩けてしまいそうだ。
ぴったりとレイナの胸部に密着していると、彼女の鼓動が大きく高鳴っているのが聞こえた。
「この体は人間を模して創ってはいますが、生身の肉体というわけではありません。どちらかというと魔力の塊であるモンスターに近いのです。したがって、できてしまうことはありません。遠慮なく私の中で果ててください」
レイナは抱き締める力を緩めたかと思うと、俺の唇に自分の唇を合わせて、舌を押し込む。同時に腰を沈めて二人は深く繋がった。
緩急をつけて体をゆすり、俺を締め付けるレイナ。迫りくる幸福感に抵抗できるはずもなく、俺の視界は白く塗りつぶされた。
その後もしばらくの間、レイナの情熱が収まるまで、俺は痛みを忘れて彼女の熱い想いに応えるのだった。
* * *
どれだけの時間抱き合っていただろうか、二人はぐったりしてソファーに横たわっていた。
レイナは微笑んで俺を見つめている。
「カイト様、魂のハーネスが復活しているのが分かりますか?」
頭の中にレイナの声が直接聞こえる。
「あれ? ならノエルに付け替えたのが戻ったの?」
「いえ、私のカイト様への執念によって新しく魂のハーネスが発現し、繋がったようです」
「俺に対する執念って……」
「正確な理由は分かりません。でも……」
レイナは視線を外して、少しだけ言葉を詰まらせた後、俺にしがみつく腕の力をギュッと増して話し始めた。
「ノエル様に魂のハーネスを付け替えると言われたとき、私は絶望で魂を引き裂かれる想いでした。それこそ、再び悪霊に堕ちてしまいそうなほどに。その想いを抱いたまま肉体が交わった時に、魂も繋がったようです」
「そこまで俺のことを? でも意外だよな、レイナは素っ気ない感じだったし」
「私は浄化していただいた時から、ずっとカイト様の人柄に惹かれていましたよ」
「そうなの? そうは見えなかったけど?」
「素敵な恋人に囲まれているカイト様を愛してしまったら、嫉妬に狂って再び悪霊に堕ちてしまわないか怖かったのです」
「そんなことを……」
「ですが肉体を得て、カイト様のモテモテスキルの影響を受けるようになり、カイト様に可愛がっていただきたいという衝動が抑えきれなくなりました」
「俺のモテモテスキルの効果って、そんなに強烈なの?」
レイナは赤い瞳を潤ませて、笑みを浮かべた。
「ええ、それはもう。カイト様のことが狂おしいほどに愛しいです。今捨てられたら、確実に悪霊になりますね」
「絶対捨てないから心配しないで!」
「はい……」
もう一度熱く口づけを交わした後、レイナと離れ乱れた着衣を直しながら立ち上がった。
「レイナとこうなったこと、みんなは怒るかなぁ?」
「ノエル様も、マユ様も、他の皆さんも、こうなると分かった上で私とカイト様を二人きりにしたのですよ」
「え? うそ……」
「皆さんの望みは、カイト様の幸せです。それに今更一人くらい増えたところで問題はないでしょう」
それもそうか。いや、モテモテスキルが凄すぎるんだろうな……。
* * *
日が傾きかけると、ダンジョンからみんなが帰ってきた。
「カイト様ー! お体はもう大丈夫ですかー!?」
元気よく俺に駆け寄ると、抱き着いて唇に吸い付くクレア。
「ああ、おかげさまでもうすっかり良くなったよ」
俺がクレアの頭を撫でていると、次々と恋人たちが抱き着き、キスをねだるので一通り応える。
レイナは普段と変わらない様子でみんなを出迎えた。
「皆様、お帰りなさいませ。お食事の用意はできております」
フィリスは半眼でレイナを見る。
「レイナ、顔色がいいね。その様子だとうまくいったみたいね」
レイナがぺこりと一礼すると、マユが続く。
「カイト、望みが叶って良かったね。でも、私をほったらかしにしたら、私が悪霊になるってことを忘れないでね?」
「ほっとかないってば!」
アイリは不満そうにため息をつく。
「最近、私との回数が減ってるのよね……レイナが増えたら、私の分がまた減ってしまうかな?」
「俺、もっと頑張るよ!」
みんなに冷やかされながら、ダイニングへと向かうのだった。




