魔王降臨
その黒髪ツインテールの美少女は、俺たちの姿を確認すると高笑いして名乗りを上げる。
「私は魔王リーゼロッテ。この世界を汚す愚かな人間どもよ、貴様らを滅ぼしに来た!!」
「いや、お前も人間だろ!? ってか日本人だよな? ププッ、魔王リーゼロッテって拗らせすぎだろ!?」
「うっさい!! あんたが女神様の言っていた転生者か。とりま死んでもらうから覚悟しろ!」
俺が前に出ようとすると、ノエルが「私がやるよ」と俺を制止する。でも、ノエルを頼ってばかりだと情けないので、ここは俺が戦っておきたい。
「ノエルは隙を見てあいつをラングザードで斬って。大丈夫、レベルが高くったって技量は低いはずだろ?」
レイナにも視線を送り「レイナもノエルと連携してアイツの隙を突いて」と頼むと、彼女は魔力を押し固めて大鎌を顕現させ「承知しました」と頭を下げた。
次に俺はマユを見る。
「マユは結界を張って、みんなを守っていて」
マユは不安そうに「でも……」と何か言いたそうな顔をする。
「心配しないで、あんなの前座だよ。俺たちの目標は女神討伐なんだから」
マユが聖杖を構えて結界を展開し、同時に聖光を発動した。聖光に照らされると、これまでよりも力が増幅している感じがする。マユがチートスキル『聖女』を得たおかげか、これなら魔王とのレベル差もある程度は埋められるはずだ。
俺は「サンキュ」とマユに告げた後、魔剣ベイルスティングを抜いて構えた。
自信満々で胸を張るように立っている黒髪ツインテールの美少女は、俺に攻撃的な魔力を放ち威嚇している。
高レベルで放たれるそれは、まるで刃のように鋭く魔装術のガードの上からでも気圧されそうになるほどだ。
「魔王が君みたいな可愛い女の子だなんて、思ってもなかった」
リーゼロッテは嘲笑うように「女だったらどうだって言うのよ?」と、剣を出現させた。こいつもアイテムボックスを持っているようだな。
「俺を見てなんとも思わない? 自分で言うのもなんだけど、結構カッコいいだろ?」
「フン、美形なのは認めるわ。でも私の配下の方がもっと素敵ね」
俺に惚れない女の子なんて、この世界に来て初めてだな。まあ、あの女神が女の子を魔王にした時点で、俺のモテモテスキルに対策しないはずもないか。
「あんたこそ、この私の美貌を見てなんとも思わないの? はべらせている女を皆殺しにして、私にひざまずくなら飼ってあげてもいいわよ?」
「お断りだね!!」
「ならここで死になさい!!」
リーゼロッテのマントがふわりとなびくと、宙を浮いて俺に突進してきた。その勢いを剣に乗せて上段から振り下ろす。
俺は剣を傾けてそれを受け力を逃がす。リーゼロッテの紫の刀身は、勢いそのままに俺の刀身の上を滑らせて地面を叩きつけた。
剣が地面にめり込んで、態勢を崩したリーゼロッテに向かって、俺はグロージャベリンを放つ。
リーゼロッテは体をひねりそれを躱すと、そのまま強引に剣を地面から引き抜いて、俺に斬りかかる。俺とリーゼロッテの剣が交差して、火花が散り金属音が響く。
「さすが魔王。速いな」
「フフ、余裕ぶってられるのも今のうちよ。すぐに殺してあげるわ」
超速の剣戟を演じながら、俺はリーゼロッテを観察する。荒々しいが剣技になっていて、一振りがきちんとしているし先読みもしている。
ノエルほどではないが技量も高い。レベル差が大きいこともあり、一撃の重さはかなりのものだ。
「こんのぉー、さっさと死になさい!」
リーゼロッテは力強く踏み込んで、紫紺のオーラに覆われた剣を横薙ぎした。
俺はそれを魔剣ベイルスティングで受け流そうと試みる。しかし、剣が激突した瞬間に、俺の予測とは違う方向に力の向きを変えられて、受け流すのに失敗し、剣を折られてしまった。
剣が折られた瞬間、俺は咄嗟に後ろに跳んで体が両断されるのは免れたが、リーゼロッテの剣が体をかすめて傷を負ってしまった。
リーゼロッテは嫌らしい笑みを浮かべ、手のひらを俺に向ける。
「これで終わりね。ダークバレット」
放たれた無数の紫の魔弾。俺は全力の魔装術をすべて防御に回すが、膨大な魔力により放たれる魔弾の雨は、俺の魔装術の防御を貫いて、体に次々と傷をつける。
ヤバイ、このままだと死ぬ……! 俺が歯を食いしばって耐えていると、魔弾の雨は止まった。
「これで死なないなんて、あんた、相当タフだね」
リーゼロッテは息を切らしながらそう言って、俺を煩わしそうに見ている。連射制限まで撃ち切ったのか?
俺はセイグリッドヒールで傷を完治させたが、痛みで思うようにように動けない。そういや女神のデコピンもそうだったな……? 俺の疑問に答えるように、ノエルの声が頭の中で聞こえる。
「霊体にもダメージが入っているから、肉体を治癒しても思うように動けないんだよ。後は私がやるから、カイトはそこで大人しくしていて」
息を切らしているリーゼロッテの死角から、ノエルが飛び出して聖剣ラングザードで斬りつける。リーゼロッテはすぐに反応し、それを剣で受け止めた。
「アンタ、それでも勇者なの? 不意打ちなんて卑怯じゃない?」
「卑怯だったとしても、私のカイトを殺させはしない!」
ノエルと鍔迫り合いをしているリーゼロッテの背後に、レイナが瞬間移動して大鎌を頸に叩きつけた。
リーゼロッテの頸に切り傷が付き、そこから血が滴る。並みの相手なら、頸が飛んでいるはずの一撃だ。レイナの大鎌がクリーンヒットしたのにも関わらず、あの程度の傷とは……。やはりリーゼロッテの強さは尋常じゃない。
「痛いわね! 何するのよ!? もう頭来た! 消し飛びなさい、バーンストーム!!」
怒り声と共に、リーゼロッテは魔力を爆発させる。ノエルとレイナは爆風に吹き飛ばされてしまった。
クレーター状の爆心地に立ち、リーゼロッテは頸をさすっている。出血はすでに止まっていた。
「今日のところはこのくらいで許してあげる。次は皆殺しにしてあげるから覚悟しなさい」
リーゼロッテは、そう言い残して消えた。あいつ、転移もきるのか……。
みんなが俺に近寄って来たので、痛みをこらえて立ち上がる。ふらつき倒れそうになるのを、フィリスとアイリが支えてくれた。
「ふらついて……、大丈夫なの?」
「あんなに魔法を受けて、死んじゃうかと思ったんだから」
全員が心配そうな顔で俺を見るので、安心させるべく笑ってみせる。
「ああ、ちょっと痛いけど、平気だって。それにしても、魔王強かったね?」
ノエルの表情は、険しく曇っている。
「ええ、女神が魔王を召喚すると言ってから、まだ一日しか経っていないのに、あれほど力を使いこなせるとは……」
「あのー、もしかして、俺と同じように、精神世界で思いっきり鍛錬したんじゃない?」
ノエルはポカンと口を開け「あ……」と漏らす。どうやらそのことは失念していたようだ。
「それよりさ……、霊体のダメージって厄介だよね。まだ全身が痛くて動けない」
「それはセイグリッドヒールを使うときに、肉体を治癒しかイメージしていないからでしょ? 霊体も治すイメージで使ってごらん」
霊体も治す、か。俺は霊体をイメージしつつ「セイグリッドヒール」と呟く。お、痛みが軽くなった。でもMPをかなり多く消費した……?
「肉体を治すよりも、霊体を治す方がMPを多く消費するよ。越者同士の戦いで肉体を破壊しても、即座に完治する術はまず持っている。だから勝敗を決めるのは霊体の破壊だよ。先にMPが枯渇して、霊体を修復できなくなった方が負け」
「なんか、ややこしそうだな?」
「やることは今までと変わらない。相手の攻撃を防ぎ、こちらの攻撃を当て続けて相手の魂の力を削ぐ。それだけ」
「レベルを上げて、技を磨くことには変わりないってことだな」
「そういうこと」
その後、マユに治癒してもらって、どうにか一人で立てるようにはなった。俺の受けたダメージは大きかったのか、マユのレベルでは完治できないようだ。
マユは「私の力が足りなくでごめん」と申し訳なさそうな顔で俺に謝る。俺の力が足りなくて怪我したんだから、そんな顔しないで欲しいなぁ。
俺はマユを抱き寄せて頭を撫でる。
「マユが謝る事なんて何もないよ。笑ってキスしてくれたら元気になれるかも」
マユは微笑んでキスしてくれた。はぁ、癒される……。
すると「私も」と次々に声が上がる。恋人たちにキスされて、いくらか痛みが軽くなったような気がした。
しかし、魔王リーゼロッテか。美少女だったなぁ……。俺のモテモテスキルが効いている感じは全くなかったのは少し残念だ。
「カイト、ボーっとして、どうかした?」
ノエルが心配そうに俺の顔を覗き込むが、そんなことを口にしたら、みんなに怒られるだろうなと思い、俺は「なんでもないよ」と慌てて首を横に振ったのだった。




