旅行の準備
屋敷に戻ると、留守番をしてくれていたレイナに、戦利品のエイビスドラゴンのコアを見せた。
「これ、レイナにお土産。凄いコアだろ?」
レイナは目を丸くして驚いてくれた。
「このような立派なコアを頂いても、よろしいのですか?」
「遠慮なく食べて。レイナにはいつも世話になっているからね」
レイナは一礼すると、エイビスドラゴンのコアに手を当てて吸収した。
コアを食べるってのは俺が勝手に言っているだけで、実際にコアをバリバリ咀嚼して飲み込むわけじゃない。
魔力の塊であるコアにレイナが手を当てると、コアは音もなく萎んでいって消えるんだけど、その際に彼女の体が淡く光るのが、なんだか神秘的だ。
レイナがコアの吸収を終えると、ノエルが告げた。
「レイナのレベルが158まで上がったよ」
158って、俺とあまり変わらないじゃないか。頼もしいな。
* * *
――翌朝。
レベル上げはもういいとノエルが言うので、次は封印を破るための神聖魔法『ディスペル』の習得だな。
ノエルの体は、非常に強力な術式で封印されているらしいので、四人同時に使う必要があるとのことだ。
まずは俺がノエルに教わって習得し、四人には俺が教えた。先生スキルのおかげか四人とも一日で覚えることができた。
あとは、Aランク冒険者に昇級しないといけないんだっけ。
アルパリス王国の神域には、王族や上位貴族、高位の神官以外では、Aランク以上の冒険者じゃないと入れないとのこと。
ついでにAランク冒険者だと色々優遇されるので、なっておいて損はないだろう。
冒険者ギルドで申し込めば、随時対応してくれるらしい。
受験料は一人1000万イェン。高額だが今の俺たちなら、たいしたことはない。おそらく冷やかしで受ける者がいないように、受験料で篩に掛けているのだろう。
試験は冒険者ギルド指名のAランク冒険者が試験官となり、受験者と一対一の試合をするとのこと。闘技場を貸し切って、観客まで入るそうだ。
そして試験当日。俺たちは会場となっている闘技場に出向いた。
試験官はAランク冒険者だし、受験者は当然Bランク冒険者だ。そのため受験者が勝つことは殆どない。戦いぶりを5人の審査官が評価して、過半数が合格と認めたら合格だ。
まずは俺の出番なので、恋人たちの声援に手を振って答えながら、闘技場の中央へ進んだ。
おじさん試験官と向き合うと、得意げな顔で挑発をしてきた。
「お前のような軟弱な奴が合格するような、甘い試験じゃないんだ。とっとと帰って女と寝てろ、色男」
なんで昇級試験で対戦する試験官って、そういうことを言いがちなのかねぇ……。おそらくこいつはスタークと同等かやや弱い。楽しめそうにないな。
口喧嘩しても仕方ないので「お手柔らかに」と笑顔で会釈をしておいた。
審判の「はじめ!」の合図とともに、俺はグロージャベリンをぶっ放した。
わざと直撃はさせなかったが、爆風に弾き飛ばされた試験官はあっけなく気絶してしまった。
観客たちはざわついている。あれ、俺なんかやっちゃいました?
審査官席を見ると、全員が合格の札を上げている。バラエティー番組みたいだな。
その後、マユたち四人も試験官を圧倒し、審査官全員の合格を貰い余裕で合格した。
その場でAランクのギルドカードを貰って家に帰った。Aの文字がキラキラしていて、どことなくレアカードみたいだ。
* * *
ノエルに言われた準備も、一通り済ませた。
ついにアルパリス王国に出発するのだが、その間屋敷を空けることになるので、ちょっと心配だ。
俺たちが屋敷を空けている間、レイナにこの屋敷の留守番を頼むんだけど、精霊でも一人は寂しかったりするのかな?
そんなことを考えていると、ノエルの声が聞こえてきた。
「敷地ごと屋敷をアイテムボックスにしまっておけば? 移動先で好きなところに屋敷を出せるよ」
「アイテムボックスは機能制限中で、家を丸ごと入れるのは無理って言ってなかった?」
「カイトはたくさんレベルアップしたから、スキルポイントは12945貯まっている。アイテムボックスの制限を解除できるよ」
「いつの間に……」
「アイテムボックスの制限を解除する?」
「ああ、頼む」
「機能制限を解除したから、好きなだけ物を入れられるようになったよ」
かなり凄いことだと思うが、サラッと言うな……。さすがノエル。
全員屋敷の外に出て、俺は屋敷全体を覆うように意識を集中する。
この状態で収納と念じれば、屋敷をアイテムボックスに収納できるはずだが、ふいに手が止まった。
元地縛霊であるレイナは、屋敷に魂が縛り付けられている。彼女の未練とか執着が、ハーネスとなって深く絡まっているらしいが……。
「屋敷を丸ごとアイテムボックスに収納すると、レイナはどうなるの?」
「何も問題はないよ」
ノエルが言うなら、そうなんだろうな。
俺が収納と念じた瞬間、広大な敷地ごと屋敷は消滅した。
レイナはどうなったかというと、現世への執着そのものである魂のハーネスは、俺に絡みついたらしい。
俺としては特に変わったことは何もないような気がするが、ノエルによると、レイナと俺の魂が霊的に繋がったとのこと。
そのせいなのか、レイナとも頭の中で話せるようになった。
レイナは霊体なので、自由に姿を消したり現したりできる。姿を消すと、俺の頭の中にノエルとレイナが同居しているみたいだ。
触れたくても触れられない二人の女の子が、俺の頭の中にいるなんて、なんだか変な感じだ。
ともあれ、すべての準備は整った。
俺たちはアルパリス王国へと出発したのだった。




