ノエル
この家においてもらえることになった俺は、オウデルさんに家の二階を案内された。
「カイト、ここをお前さんの部屋にしてやる。使ってない部屋で汚れとるが自分で掃除しろ」
オウデルさんは、箒やちりとり、バケツに雑巾など掃除道具一式を俺に手渡すと、一階に下りていった。
部屋の隅々まで埃がたまり、窓や天井などあちこちクモの巣が張っている。この部屋を掃除するのは骨が折れそうだ。
窓を全開にして、天井付近の蜘蛛の巣を箒ではたくと、埃が舞って思わず咳き込む。
「ゲホッ、ゲホッ、異世界に来てまで、何でこんなことやらされてるんだろう……」
だけど外に放り出されて、ダイアウルフにガジガジされるよりはましだ。
仕方なく掃除してると、物知りさんが頭の中で告げる。
「掃除スキルLV1を獲得したよー」
「えっ? スキル獲得?」
「特定の物事に取り組むと熟練度がたまって、一定までたまるとスキルを習得できるよ。カイトはチートスキル『天才』の効果で、スキルを獲得するのが物凄く速いんだよ」
スキル獲得の効果なのか、掃除がさっきよりはかどる。これはいいな。
気分も良くなって頑張って掃除を続けていると、その間にも物知りさんは掃除スキルがレベルアップしたことを教えてくれた。
部屋がきれいになるまでに掃除スキルはLV3になった。
さて、オウデルさんに部屋の掃除が終わったことを報告しに行くか。
「もう終わったのか。どれどれ……。おおっ、しっかり掃除したんだなえらいえらい」
頭をガシガシ撫でられて軽く痛い。HP減らんよな……? しかし、掃除スキルとはいえレベルアップするのは楽しい。もっと掃除すればレベルをあげられるだろう。
「あのー、この家中を掃除しましょうか?」
「それよりも、キッチンへ行ってアイリの夕食の準備を手伝ってやってくれ」
俺、料理なんてできないけど……。
とはいえ、断るなんてできない。オウデルさんの指示に従ってキッチンに移動すると、アイリが食事の準備をしていた。
「何か手伝わせて欲しいんだけど」
「そうねー、芋の皮をむいてくれる?」
「ああ、やってみる」
芋とナイフを手に取り皮むきをしてみるが、なかなかうまくいかない。必死になってやっていると物知りさんが告げる。
「料理スキルLV1を獲得ー」
もう獲得したのか。スキル獲得と同時に、皮むきがスムーズにできるようになった。これは楽しい! 夢中で皮をむいていると料理スキルもLV3まで上がった。
* * *
夕食の準備も整い、三人でテーブルを囲む。今日のメニューはホワイトシチューだ。
湯気を立てる鍋がテーブル中央に置かれ、パンとサラダが並んでいる。食欲をそそるバターの香りが、室内を満たしていた。
スプーンですくい上げたシチューを口に運ぶと、野菜の甘みと肉の旨味が口いっぱいに広がり、体にしみ込んでいくようだ。
「うわ、めっちゃおいしい!」
思わず漏れた声に、向かいのアイリがくすりと笑う。オウデルさんは、グラスを傾けながら話し始めた。
「今日はダイアウルフのアルビノ種を狩ることができた。明日、毛皮を街に売りに行ってくる」
アイリは身を乗り出し、興奮した様子で声を弾ませた。
「アルビノ種!? 少なくとも500万イェン以上で売れるよね」
「カイトが襲われていたから簡単に狩れたんじゃ。無駄に傷ついていないからもっと高く売れるだろう」
オウデルさんとアイリは嬉しそうだ。俺がガジガジ噛まれたのも無駄じゃなかったのか。
「だが、よく怪我の一つもしていなかったのう。ワシはもう手遅れだと思ったぞ」
オウデルさんは、上機嫌で豪快に声を上げて笑った。
それ笑うところか? とは思ったが、俺も合わせて苦笑いをしておいた。
食事も終わると、アイリが後片付けを始めた。あっ、スキル獲得のチャンス!
「俺に片付けさせて」
「ええ、お願いね」
アイリは笑顔で応えてくれた。アイリって本当に可愛いなぁ。デレデレしながらアイリの指示に従って一緒に片付けをした。
「皿洗いスキルを獲得したよ」
頭の中で響く物知りさんの声を聴いて、ほくそ笑むのだった。
* * *
さっき俺が掃除した部屋に行って、布団を床に敷いてその上に横になる。
「物知りさん、俺、頑張ってみるよ。コツコツやっていればきっと何とかなる!」
「カイトがんばれー」
なんか雑な返事だな……、と思っていたら物知りさんが妙なことを言いだした。
「そうそう、私に名前つけて。物知りさんって呼ばれるとなんか萎える」
名前って……。物知さんじゃダメなのか? 俺、名前とか考えるの苦手なんだよね。
「うーん……、もしりさん」
適当に口を動かした瞬間、頭を殴られたような激痛が走った。
「痛いっ!?」
物知りさんの、不機嫌そうな声が頭に響く。
「真面目に考えてよね。物知りさんスキルの権能で、スキル所持者に苦痛を与えることもできるんだから!」
「なにそのハズレスキル……?」
つい思ったことを口に出すと、物知りさんの「あ?」とすごむような声が聞こえた。また頭を殴られてはかなわない。
「いえ、何でもありません」
クソ、知ったかぶりスキルめ。知ったかぶり。……know it all。……ノウイットオール。……ノエル。
「ノエルさん」
「気に入ったよ。私の名前はノエルで決まりー」
頭の中でノエルが喜んでいる感じが伝わってきたが、疲れていた俺は放置して布団に潜り込むのだった。




