レベル上げ(前篇)
出現するモンスターも強くなっているが、今のところは問題なく戦えている。
ノエルのナビに従っているのだが、多分最短ルートで進んでいるんだろう。一階層につき十分程度しか掛かっていない。
着々とダンジョン内を進み、目的の二十階層に到達した。
よし、頑張ってレベル上げをするぞ。
気合を入れたところで、ノエルの声が聞こえてきた。
「まずは隠し部屋に行こうか。案内するよ」
引き続きノエルの指示に従ってダンジョン内を進むと、行き止りに突き当たった。見た感じ、何の変哲もない岩壁があるだけだ。
「この壁を強めに叩いて」
ノエルの指示に従い、壁を叩くと崩れて通路が現れた。
通路を進んだ先は広い部屋になっており、中央には大きな骸骨型モンスターが立っている。
「ジャイアントスケルトン。レベル50のモンスターだよ。あれをカイト一人で倒してね」
レベル45のザッコスにも勝てないのに、あんなのと戦うの?
「ここに来るまでに、レベルが上がっているでしょ。それに敵はマユの聖光で弱体化するし、アイギスの盾の効果でダメージは食らわないから、後はカイトの根性次第だね」
みんなで戦えば速く倒せるのでは?
「確かに、マユの魔法やクレアの聖剣を使えば簡単に勝てるね。それにみんなで倒しても、カイトが獲得できる魂のエネルギーの量は変わらないよ。でも格上と戦うことで、得られるものもあるから頑張って」
そんなことを言われては、やるしかないな。
覚悟を決めて俺達がその部屋に進入すると、骸骨の目が怪しく光り動きだした。
「マユとクレアは離れて見ていて。俺が一人でやる」
剣を抜きダッシュでジャイアントスケルトンに近づく。横薙ぎで斬りつけると、手首に重い振動が伝わり、硬質な衝撃音が響く。
だけど、奴の骨には傷一つついていない。なら魔法はどうだ?
「ホーリーレイ」
光線が当たったところから煙が出ている。そこに剣を振り下ろすと斬リ傷を付けられた。これならダメージを与えられそうだ。
もちろん、ダメージが通ることと勝てることは別だ。敵もおとなしく倒されるのを待っているわけじゃない。
ジャイアントスケルトンは大柄なわりに機敏に跳ね回り、手に持った剣を振り下ろす。何とか回避に成功するも、床が割れ破片が飛び散った。
その破片を躱しながら近づき、ホーリーレイを撃ち込んでは斬りつける。
奴は相当な重量があると思われる、巨大な剣を軽々と振り回す。俺は避けきれずに何度も斬られてしまった。
アイギスの盾が無ければ、即死級のダメージを受けているだろう。
アイギスの盾越しに感じる痛みにも慣れてきたので、攻撃を受けてもいちいち動きを止めることなく反撃に転じる。
斬って斬られての泥仕合の様相となるも、俺にジャイアントスケルトンの攻撃は効かないが、俺の攻撃はジャイアントスケルトンにわずかに効いているはず。
俺に分がある根競べで負けるわけにはいかない。
何度も魔法と斬撃を繰り出し続けて、どうにか倒すことができた。ジャイアントスケルトンはボーリングの球くらいのサイズと重量感のコアに変わった。
俺が息をあげていると、マユとクレアが駆け寄って声を掛ける。
「ボロボロになってるじゃない、大丈夫なの?」
「ああ、服はこんなだけど、体は無傷だよ」
マユは俺の胸に手を当てて「セイグリットヒール」と言霊を唱えた。
彼女の手のひらから溢れる優しい光が俺を包み込む。温かくて気持ちいい。乱れた呼吸が収まり、疲労感が消えた。
「疲労も癒せるんだね、凄い魔法だ……」
「そうだね、自分でも驚いてるよ。でも、あんなモンスターに一人で向かっていくカイトの方がずっと凄いと思うよ」
マユの揺れる瞳が、熱っぽく俺を見つめるので少々照れる。
「カイト様……。あまり無理はしないでください。効かないと分かっていても、モンスターの攻撃が当たるたびに震えてしまいます」
美少年の姿のままクレアは涙を浮かべている。これはこれで絵になるが……。
「心配してくれてありがとう。でも、これくらいは平気だよ!」
あまり心配をかけても悪いので、何ともないアピールをしておいた。実際何ともないからな。
さて、レベルの方は上がっているだろうか?
「レベル32まで上がったよ。これで、この階層でも効率よくレベルを上げられるよ」
一気に上がったな。この調子なら今日明日でひとまずの目標のレベル45までは到達できそうだ。
ジャイアントスケルトンのコアを、クレアが持っているマジックバッグにしまって、隠し部屋を後にした。
ダンジョン探索を再開すると、地面を揺らすような足音が聞こえてきた。
二十階層に出現するのは一つ目の大鬼、サイクロプスだ。棘の付いた大きな棍棒を持って力任せに振り回す。
クレアがエクスカリバーで斬ると一撃で倒せる。また、マユの神聖魔法でも一撃でコアに変わる。
しかし、俺だけは何度か斬らないと倒せない。俺も一体倒すごとに強くなっているはずなので、ここは粘り強く頑張るか。
複数体で現れても、マユとクレアが間引いてくれるので、俺は気にせず前に出て戦う。
一対一なら単調な攻撃を食らうことはない。複数体に囲まれると、どうしても避けきれなくなってしまい殴られるが、痛いだけで怪我はしない。
殴り飛ばされながらも、何度も攻撃していると倒すことはできる。アイギスの盾がなかったらこんなレベル上げなんて絶対無理だな。
何体もサイクロプスを倒しているうちに、俺も一撃で倒せるようになった。
レベルは38になった。昨日と比べれば大幅に上がったがまだザッコスには届かないか。
「今日は岩を回収して帰ろうか。案内するよ」
ノエルにナビしてもらって、岩を求めてダンジョンを歩いた。
ダンジョンの壁が黒い岩壁に変わったところで、ノエルからエクスカリバーを使ってここの岩壁を砕くように指示された。
クレアにエクスカリバーを借りて壁に突き立てると、ボロボロと壁が崩れ床に散らばった。豆腐に箸を突き刺したような手ごたえだ。さすが聖剣。
「あの真っ黒な岩を持って帰ろう」
ノエルの指示通りに、散らばっている岩の一つをアイテムボックスに収納した。
後は帰るだけだが、ここから地上まで帰るのって、何気に面倒だよな……
「二十階層には、冒険者ギルド直通のポータルがあるからそれ使って帰ろう」
ダンジョン内にもポータルがあるのか。
ノエルの指示で進むと、ダンジョン内に建物があった。「冒険者ギルド直通ポータル」と看板が設置してある。
そこに入ると、床に一つだけ魔法陣があり係の人はいない。
壁面に使用方法が書いてある。魔法陣の中央に立って、自分で魔力を込めればいいらしい。
魔力を込めるってどうやるんだ?
「適当にそれっぽくやってみて。魔法が使えているんだからできるはずだよ」
なんだか雑な説明だが、魔力を込めるぞと念じつつ力んでみた。
「そうそう、その調子」
これでいいらしい。直後、魔法陣が光りだし俺たちを包みこんだ。
光りが収まると、たくさんの魔法陣が床に設置してある屋内に転移していた。冒険者ギルドのポータル施設内かな。上手くいってよかった。
ホッと息を吐くと、魔法陣の前にいる人が声を掛けてきた。
「ダンジョン二十階層からの転移ですね。施設使用料として一人三万イェンで合計九万イェンになります」
使用料高いな……。少しもったいなかったかもしれない。
お金を支払いポータルの施設から出ると、冒険者ギルド裏の広場の前だった。へー、ここに出てくるんだね。
「クレア、もう元の姿に戻って」
「はい」
元のクレアの姿に戻ると、俺の服は少し大きいようで、ダボっとしている。それもまた可愛いくて良い。
持ち帰った岩とコアを換金するために、広場に何人かいる鑑定おじさんを呼び止めて、岩をアイテムボックスから出した。
鑑定おじさんは鑑定眼鏡越しに岩を眺めると、「むぅ」と唸った。
「この岩、ミスリルが大量に含まれている。あんたら何階層まで潜ったんだ?」
「二十階層だけど」
「Eランクの割には深くまで潜っているが、それでも二十階層でこれほどミスリルが含まれている岩石を持ってくるとは……。運がいいんだな」
クレアがジャイアントスケルトンのコアと、サイクロプスのコアをマジックバッグから取り出す。
鑑定おじさんは、ジャイアントスケルトンのコアを見て短く息を呑んだ。
「何だそのでかいコアは? そのサイズのコアは二十階層のモンスターからは手に入らないだろう」
「いやー、ちょっと隠し部屋を発見して、中にいたジャイアントスケルトンを倒したんですよ」
「ほぅ。Eランクでも、実力的にはCランクの上位並みの力はあるんだな」
鑑定おじさんは、紙に光る文字を書きながら感心しているみたいだ。
それにしても、おなじみミスリルか、これは期待できそうだな。
貰った紙を受付まで持って行くと、320万イェンになった。
思わぬ大金だ。ポータル代は完全に元が取れた。明日からは行き帰りにポータルを使おうかな。
「カイトさん、クレアさん、今回の冒険でスコアがたまったので、Dランクになりました。新しいギルドカードです」
受付嬢から手渡された緑色のカードにはDランクの文字が刻まれている。
ノエル、何を基準に冒険者ランクが上がるんだ?
「鉱石やコアをギルドに納めると、その価値に応じて冒険者スコアがたまる。それが一定以上に溜まると昇格できるよ。ただし、Aランクには昇格試験を受けて合格しないと上がらないよ」
価値の高い資源を含んだ岩を持ち帰ったから、冒険者スコアが一気に溜まったのかな。
「たったの三日でDランクになるなんて、カイトってやっぱり凄いよね」
「俺だけの力じゃなくて、マユとクレアのおかげだよ」
マユに褒められていい気分だ。俺は頭をかきながら、それとなく感謝を告げる。
さて、今日も頑張ってモンスターを狩ったから腹減った。
テンプーレ亭で食事を済ませ、宿に向かった。
* * *
宿屋の受付では、マユが三人部屋を頼んだ。
今まで忘れていたが、俺のやりたいことを思い出した。ヤバイ緊張してきた。
二人と手を繋いで部屋へ向かう。ドキドキしてきた。アレはきちんと買ってる。ついにDTを卒業できるのか?
部屋に入ると三人とも口数が極端に減る。なんとなく気まずい中で頑張って声を出した。
「あの……、シャワー浴びようか……」
二人はピクリと反応し、マユは「私、行ってくるね」とシャワールームへ向かった。
俺とクレアは無言でベッドに腰かけている。マユが出てくると、クレアがシャワールームへ入っていった。
バスタオルを体に巻いたマユは、俺から少し離れてベッドに腰を下ろす。
緊張のせいか、何も言葉が出てこない。気まずい時間を数分過ごしていると、クレアが出てきた気配がしたので、俺はクレアと入れ違いでシャワールームに入った。
シャワーを浴びて出てくると、二人はベッドに横になっていた。俺は掛けられている薄手の布団を捲って、彼女たちの間に潜り込んだ。
布団の中は、二人とも服を着ていなかった。ついに、この時がきた。
マユが俺に抱きついてきた。俺はそれに応えるように唇を合わせ、きつく抱きしめ合う。熱を帯びた滑らかな肌がぴったりと密着し、その柔らかな感触を体中で味わった。
マユの腕から力が抜けると、次はクレアだ。待ちきれなかったとばかりに、彼女の情熱が俺にぶつかってくる。
熱狂が過ぎ去っても、俺は二人に挟まれて抱きしめられている。
彼女たちの吐息が、重なり合うように耳元で響いている。その甘い余韻に浸りながら、俺はこの上ない幸せと満足感を噛みしめるのだった。




