Cランク冒険者
ティバンの森のダンジョンに到着した俺たちは、地下鉄の入口のようになっているダンジョンの入口階段を下りて、人の流れに沿って奥へと歩いている。
途中でモンスターが出現してもすぐに誰かが倒すので、何の危険も収穫もなくどんどんダンジョンの奥へと進む。
そして六階層に到達。ここまでくると、人も徐々に少なくなってきた。みんな自分の狩場に散っているみたいだな。
「今日はこの辺で稼ごうか?」
マユとクレアはコクリと頷いたので、俺は人気のない方に歩き出した。
しばらく歩いていると、ファングスパイダーの団体さんがお出ましだ。蜘蛛型のモンスターで50cm程の黒い身体に八本の脚、顎から複数の長い牙が飛び出しており嚙まれると痛そうだ。
俺は即座に剣を抜き臨戦態勢に入る。次々と跳びかかって喰らいつこうとするが、遅すぎて話にならない。攻撃してきた奴から順に切り捨ててやった。
ファングスパイダーを倒すと、今までのモンスターよりも少し大きいコアを落とした。それをクレアが拾ってマジックバッグにしまう。
大きい分、昨日のコアよりも高く売れるだろうか? でもやっぱり気になるのは、貴重な金属たっぷりの岩だよな。ノエル、美味しい岩って近くにある?
「あるよ。案内するからその通りに歩いて」
マユの聖光に照らされたダンジョンを、ノエルのナビ通りに進んだ。
「あの岩を持って帰ろう」
ノエルが指示したのは昨日の岩よりも大きい。わずかに黄みが掛かった乳白色にところどころ黒い斑点がある岩だ。ノエルが言うことに間違いはないだろうから、その岩をアイテムボックスに収納した。
目的の一つは達成だな。後は疲れるまでモンスターを狩ってレベルを上げるか。
* * *
しばらくモンスターを狩り続けて、俺のレベルは18まで上がったし、コアも沢山手に入った。
多くのモンスターを倒したが、疲労困憊ということはなく、むしろ心地良いくらいだ。
ふと視線を感じたのでマユの方を見る。
「昨日よりも動きが冴えてるね。この階層のモンスターも、カイトにとっては物足りないんじゃない?」
「うん、ダンジョンでの戦いにも慣れてきたよ」
クレアも身を乗り出して、声を弾ませ俺を褒める。
「カイト様の戦っている姿はとても素敵です!」
二人の美少女に褒められてしまった。こんなに幸せでいいんだろうか? つい頬が緩んでしまう。
「ありがと。レベルも上がったことだし、今日はこれぐらいにして帰ろうか」
* * *
ダンジョンの上層へと向かって歩いていると、男が歩いて近づいてきて「じゃまだ、どけ雑魚が!」と乱暴な言葉を吐いて、マユを突き飛ばした。
ここは狭い通路ではなく、開けた場所だ。こいつの方がわざわざ俺たちに近づいてきたし、ましてマユを突き飛ばす必要なんてあるわけない。
俺は倒れたマユに駆け寄って起こす。
「怪我してない?」
俺の問いに「うん」と頷くマユの表情は暗い。
「ああ? 誰かと思えばゴミスキルのマユじゃねーか? こんなところでなにしてんだ?」
その男は転倒したマユに対して謝るでもなく、見下した態度をとった。こいつ、わざとやったな?
「おい、マユに謝れ」
「ハァ? なんだテメ―は? おい、モブーラ、こいつのレベルはいくつだ?」
モブーラと呼ばれた男は、マジックバッグから取り出した鑑定眼鏡を俺に向けて覗き込む。
「レベル18だ」
モブーラが俺のレベルを口にすると、マユを突き飛ばした男は顔をいやらしく歪めて笑い声をあげた。
「俺はレベル45のCランク冒険者、ザッコス様だぞ! 分かってんのか?」
マユは俺の手を引いて、この場から立ち去ろうとした。
「私は大丈夫だからもう行こうよ」
だけど俺は、ザッコスがマユを突き飛ばしたことと、ゴミスキル呼ばわりしたことが、どうしても許せなかった。
「知るかそんなこと! 突き飛ばしたんだから謝れよ!」
俺がザッコスに抗議すると、奴の目が露骨に怒りを滲ませて俺を捉える。
「レベル18のくせに、レベル45にたてつく気か? バカが。仕方ねぇ、先輩が優しく指導してやろうじゃねぇか」
ザッコスが言い終わると同時に、俺はダンジョンの壁に叩きつけられていた。痛い、何されたのか分からなかった。ノエル、俺はあいつに勝てるか?
「無理だね。レベル差が大きすぎるから今は勝てないよ。まあアイギスの盾の効果でダメージは食らわないけどね」
「そうか、ダメージは食らわないのか。なら充分だ」
謝るまで向かっていってやる。立ち上がってザッコスに視線を向けると、仲間の女がザッコスを咎めている。
「ザッコス! レベルが低い者を殴り飛ばすなんて、どういうつもりだ? 死なせてしまったら厳罰だぞ!」
「フィリス、後輩に冒険者の厳しさを教えてやるのも先輩の務めだろーよ?」
仲間内で言い合っているようだが、構うものか。俺はザッコスに向かってダッシュし、殴りかかった。
「遅いっての」
ザッコスの拳が俺の腹にめり込む。今度は加減していたのか、吹っ飛ばなかったが痛い。フィリスと呼ばれた女は、俺に向かって声を張り上げた。
「おい、お前も無理をするな! レベル差がありすぎるんだ、死んでしまうぞ!」
俺は痛みをこらえ、腹に力を入れて叫んだ。
「こんなパンチ効くか!」
「……だとよ」
ザッコスは、一層目つきが鋭くなって拳を振り上げた。
どうせ痛いだけでダメージはない。何度でも殴らせてやる。
俺が身構えると、フィリスが間に入ってザッコスの拳を止めた。
「ザッコス落ち着け。死なせてしまったら、Cランク冒険者の身分をはく奪されるぞ。そもそも彼に非はないだろう」
フィリスはザッコスをなだめると、俺に向かって頭を下げる。
「私の仲間がすまなかった」
俺が黙っているとザッコスが挑発する。
「俺が気に入らねぇってか? いつでも相手してやんよ! アーリキタの闘技場で正々堂々勝負しようや? まぁ、テメ―じゃ三年たっても、俺には勝てねーだろうけどな!」
こんなやつに手も足も出ないかと思うと、自分の弱さが情けなくて頭にくる。地面に拳を打ち付け、グッと歯を食いしばった。
ノエル、俺がこいつに勝てるようになるには、最短で何年かかる?
「最短だと、年と言うより三日もあれば楽に勝てるようになるよ」
ホントか? 信じたからな!!
俺は悔しさで吐きそうなのをこらえ声を振り絞る。
「三日だ」
「あぁ?」
「三日でお前に勝ってやる!」
もう一人のザッコスの仲間の女が、耳障りな高い声で笑う。
「ザッコスー、低レベル君怒っちゃったよー! あんたの命もあと三日だねー」
「ヨワーネ、それ、マジでウケるわ!」
ザッコスは笑う女にそう返すと、まるで虫けらでも見るように、蔑んだ眼差しを俺に向けた。
「じゃあ、三日後に闘技場で待ってるよー。怖かったら逃げてもいいでちゅからねー」
ザッコスは俺を冷やかしながら去っていった。
「すまなかった。……闘技場では出場した時点で、試合中に死んでしまっても、お互いに承知の上だとされる。悪いことは言わない、もうザッコスに関わるな」
フィリスは眉間にしわを寄せて、俺にそう忠告して去っていった。




