表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

阿修羅王の札

御子柴聖 七歳 二○○X年 四月五日 午後一時。


突然の事過ぎて理解が追い付かないが、確かに目の前にいる神らしき人物は阿修羅と名乗った。

  

「あ…しゅら…?」


阿修羅って、あの阿修羅王?


神様の阿修羅王? 


*阿修羅、仏教に取り入れられた神で、元々はヒンドゥー教の神で争いを好む鬼神の一種です。

後に仏法に帰依してからは、特に興福寺の阿修羅像のように、三つの顔と六つの腕(三面六臂(さんめんろっぴ))を持つ姿で描かれる事が多いです* 

 

「やっと、目を開けたか」


そう言って、阿修羅王は太々しく手に顎を置いてあぐらをかいた。


暗闇の世界の中で神々しく光る阿修羅王は、本で見たままの姿と凛々しい態度だ。


仏像の見た目は、本当の物だったんだ。


想像上の人物ではなくて…。


目の前で起きている事に、理解が追い付かない。


どう言う事…?


「お前、死が迎えに来るぞ?」


「迎え…?」


「死が近い事だ」


阿修羅王の淡々とした話し方の中に嘘が混じっているとは思えない。


多分、阿修羅が言っている事は本当なだろう。 

 

死ぬって事…?


あたし…、死んじゃうんだ…。


「お前が今居るのは生死の境目だ、暗く何も無い所だろう?お前は普通の子供よりは賢いから、何となく察しが付いているだろう」


「…、言われるまでは分かんなかったよ。ここが…、生死の境目の世界って事か。だから、なのかな…。だから…、あたしに会いに来たの?」


この真っ暗な世界に取り残されたまま、あたしは死んでしまうのかな。  

 

「我は、汝を救う為に来たのだ」

 

「救う?どう…して?」


神である阿修羅王が何故、あたしを助けるの?


「我は元は太陽神として、この地を太陽で照らしていた。だが、戦がこの世を支配する中で、帝釈天(たいしゃくてん)に我の戦闘力が高く買われてな。いつの間にか鬼神(きしん)と呼ばれてしまった。我は戦を止めたかったのだがな」


*鬼神、人知を超えた霊性を持つ存在の事で、荒々しく恐ろしい神。

天地万物の霊魂、あるいは仏教における護法神などを指し、読み方はきじん、きしんが一般的ですが、おにがみと訓読みされる事もあります*


*帝釈天、仏教の護法善神でインド神話の武神インドラが仏教に取り入れられたもので、梵天と並ぶ存在。

十二天の一尊で東方を守護し、厄除け、病気平癒のご利益があるとされ、特に東京都葛飾区柴又帝釈天(題経寺)が有名で、寅さんの産湯の井戸でも知られています*   

 

阿修羅王の目は遠くを見つめる姿が、その姿が自分とリンクして見えた。


阿修羅王も、あたしと同じで戦をさせられていた?


神と言う事を利用され、戦わされていたのかな。


「だからな。汝の事を上から見ていたら、我と似ているなと思ったのだ」


阿修羅王の無表情からでも伝わって来る、彼もあたしと同じように戦わされていたと言う事。

 

「阿修羅王…」


暖かな太陽の光に体が当たっているような、体がポカポカして暖かい…。


阿修羅王から放たれている神々しい光から、太陽のような暖かさを体が感じ始めているんだ。


この短い時間の中で、あたしと阿修羅王の心の距離が近付いた気がする。

   

「汝の命が尽きるまで、我は汝を守ろう。守る為に、お前の死を止めに来たのだからな」


「え…?止めに来た…?」


「ここで死ぬのはまだ早い、お前は生きるべきなのだ」 


スッ。

 

そう言って、阿修羅王はあたしの額に手を当てた。


え、え?


さっきよりも、体が熱くなって、体の中が燃えるみたいに熱い。


全身に暖かい液体が流れ込み、勢いよく血液のように身体中を駆け巡って行くようだ。  


何が、どうなってるの?


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!! 

 

阿修羅王の周りから大きな炎が燃えたぎり、その炎があたしの体に燃え移った。


炎が燃え移ったのに全然熱くない、寧ろ心地が良い。 



お父さん、お婆様はやっぱり殺されちゃったのかな…。

  

あたし、死ぬのかな。


蓮を残したまま、死ぬのかな…。


頭の中に蓮と過ごした思い出や、蓮がくれた言葉、表情、声が鮮明に思い出される。


「蓮に会いたい…」


「蓮とは…、其方の何だ?」


あたしの言葉を聞いた阿修羅王は、さっきよりも優しい口調で問い掛けてきたのだ。


阿修羅王に言われて、あたしは考えさせられた。 

 

蓮はあたしの何だろう。


あたしの孤独を埋めてくる人、あたしの事を好きと言ってくれる人。あたしに花を送ってくれて、守ろうとしてくれる人。


初めてあたし自身を見てくれて、見返り無しに側に居る事を選んでくれた人。

 

蓮を守りたい、蓮の力になりたい。


考え込む事なんてなかった、あたしの中で阿修羅王の問い掛けの答えが決まった。


いや、既に決まっていたんだ。 


「蓮はあたしの…、大切な人。会いたい、蓮に会いたいよ」


思っていた気持ちを口に出した瞬間、ポロポロと瞳から涙が溢れた。


とめどなく流れ落ちる涙を見た阿修羅王は、静かな眼差しを向けながら口を開く。


「お前の幸せを壊させないよ」


「っ!?」 

 

ドォォォーンッ!!!!

 

阿修羅王がそう言った瞬間、目の前に大きな赤色の鳥居が降り立ち、鳥居の周りに大輪の桜の木が生え始める。


真っ暗な世界に光が差し込み、一瞬で春景色に変貌したのだ。  


「どうなってるの…?」


「言っただろう?お前を死なせないと」


「本当に、あたしの事を助けてくれたんだ…、阿修羅王」


「お前の思い人が待っているぞ、早く鳥居の中を潜れ」


阿修羅王はあたしの背中を優しく叩きながら、現れた大きな鳥居を指差す。


「もう、会う事は出来ないの?阿修羅王」


「お前が我の力を求めた時、再び会える。さ、行け」


トンッと、あたしの背中を押しながら阿修羅王が答えてくれた。


あたしは阿修羅王に言われた通りに鳥居の中を潜り、後ろを振り返って見ると阿修羅王の姿がどこにもなかった。  

   

***

 

「お嬢、お嬢!!」


誰がが、あたしの手を握りながら何度も何度も、あたしの事を呼んでいる。


誰…?


「お嬢、起きて下さい。僕を置いて、死なないでくれ…」


あたしはこの声を、この手の温もりを誰よりも知っている。 


重たい瞼をゆっくり開くと、ボヤける視界の中で泣きそうな顔をしている蓮が見えた。

 

「れ…ん?」


「っ!?お嬢!!!」


ガバッ!!!


一瞬、驚いた表情を浮かべた蓮だが、すぐに力強くあたしの体を強く抱き締めた。


「良かった…、目を覚まして…!!本当に良かった…」


蓮の体が震えてる…、こんな蓮を初めて見た。


「蓮…」


あたしは蓮の名前を呼び、大きな背中に腕を回し抱き締め返した。


トクンッ、トクンッ、トクンッ、トクンッ。


蓮の心臓の音が聞こえる、蓮の腕の中はすごく落ち着いて安心する。   

 

「お嬢、その札は…」


「え?」


布団の上に赤い札の存在に気が付いた蓮は、あたしの体を離しながら尋ねてきた。


赤い札? 


「何だろ….、あ」


赤い札を拾い上げて見ると、札には阿修羅王の絵柄が描かれあり、阿修羅王に助けられたのだと実感する。


阿修羅王は本当に、あたしの事を助けてくれたんだ。


夢の中で起きた出来事は現実に起きていた事で、あたしは本当に生死を彷徨っていたらしい。 


「阿修羅王…」


「え?」


「あのね、あたしの事を阿修羅王が助けてくれたの」


「阿修羅王って、あの阿修羅王ですか?」


あたしの言葉を聞いた蓮は、不思議そうな反応を見せた時だった。

 

蓮の背後から茶髪の短い髪に、蓮と同じ紫色の瞳を宿し、顔には大きな傷のある背の高い男の人が現た。

 

よく見ると、顔立ちが蓮にとてもよく似ている。


「親父、いつの間に入って来たんだよ」


蓮のお父さん?


確か、蓮との顔合わせの時に居たような気がするな…。


あの時は本当に二人に興味がなかったから、蓮のお父さんの顔を覚えていなかった。


そうか、蓮のお父さんはこんな顔をしていたのか。  

 

「お久しぶりです、聖様。改めてまして、本城克也です。お加減はいかがですか?」


「あ、あの…、体が、痛いだけです…」


「かなり深い傷ですので、安静にしていただきたいのですが…」


蓮のお父さん、克也さんは申し訳なさそうに言葉を続ける。 


「聖様にお話ししたい事がありまして…」


「親父、お嬢は今さっき目を覚まされたんだ。明日じゃないとダメなのか」


「蓮…」


蓮が克也さんに語尾を強めた言い方をし、あたしの体を気遣ってくれている事が分かる。


「すみません、蓮の言う通りですね。気遣いが足らず、話は明日にしましょう」


「ありがとうございます。正直、明日にしてもらえると助かります…」


「いえ、聖様の体が大事ですから。少し、蓮をお借りしても?」


「あ、はい…」


蓮と離れるのが心細いな…。

      

そう思っていると蓮が優しく笑い掛けながら、ポンポンッと頭を撫でてくれた。     


「すぐに戻ります、お嬢は横になって?寝かせますね」


「うん…、ありがとう」

 

蓮が優しくあたしの体に触れ、ソッとベットに体を寝かせてくれる。


お世話されてるみたいで恥ずかしいけど、蓮に優しくされて嬉しい自分が居た。  


あたしを寝かせた後、蓮は克也さんと共に部屋を出て行ってから数秒で、再び眠りについてしまった。


***


第一治療室を出た本城蓮と本城克也は人気(ひとけ)のない廊下に移動し、本城蓮は気に入らなさそうに口を開く。 

 

「お嬢が目覚めたばかりなのに、この札の話をしようとしただろ」


そう言って、本城蓮は本城克也に毘沙門天の絵柄が描かれた赤札を見せる。


「蓮、その札は簡単に他人に見せてはならない。聖様もお前と同じで選ばれたんだろ、赤札の主に」


「阿修羅王が命を救ってくれたと、お嬢何僕に言ってくれた。お嬢の命を救ってくれた事には感謝してるよ、これが本当に危険な物じゃなければね」


「赤札の詳しい話は聖様を加えてするさ、御子柴家の今後と八岐大蛇の件も話さねばならない」


「お嬢はまだ七歳って事を忘れてないよね?親父。お嬢に御子柴家の当主として、今後の方針を決めさせるの?」


本城蓮の言葉を聞いた本城克也は、表情を曇らせながら話を続ける。


「俺達、本城家も御子柴家の参加に入ってる家系も関わってくる話だ。何百年と続いて来た封印が解かれ、大妖怪達が一斉に解かれてしまったと言う事は、百鬼夜行の復活を意味する。俺達、陰陽師の最大の敵である百鬼夜行と対峙する未来は遠くない」


「親父の言っている事の重大さは分かってるよ。だけどさ、お嬢はいつまで経っても自由になれないじゃないか。御子柴家の人間が死んでも、一人になっても、お嬢は自由になれない。自由にしたいって、お嬢に言ったのに…」


「蓮、お前は今よりも強くならないといけない。聖様の事を守りたいのなら、死ぬ気で強くなるしかない」

 

「僕はお嬢の側を離れるつもりはないよ。強くならないと、お嬢の事を二度と傷付けさせない。僕はお嬢の所に戻るよ、不安そうだったから側にいてあげたい」 


決意の籠った瞳を見つめた本城克也は、本城蓮背を向け長い廊下を静かに歩き出した。


***


御子柴聖 七歳 二○○X年 四月五日 午前八時


「お嬢、お水飲めますか?ストロー刺しておきましたから」


「あ、ありがとうっ、自分で飲めるよ?」 

 

「お嬢はそのまま動かないで下さい、僕が飲ませますから」


目を覚ましてから数分後、蓮が甲斐甲斐しく(かいがい)あたしの身の回りのお世話をしてくれる。


水を飲ませてくれたり、用意してくれた胃に優しいお粥を食べさせてくれたりと…。


まるで、お母さんが赤ちゃんの世話をしてくれてるような…。

 

「れ、蓮、なんか前よりも甘やかしてない?あたしの事…、気の所為じゃなければだけど…。口元も何回も拭いてくれるし…。赤ちゃん扱いされてるような?」


「大事にしたいんんです、お嬢の事。赤ちゃん扱いではなく、お嬢は僕のお姫様なので」


「ヴッ、ま、眩しいっ」


蓮の優しい笑みがキラキラし過ぎて、眩し過ぎる。


本当にあたしの事を大切にしたい事が分かるし、嘘じゃない事も伝わってくる。


「あらあらぁ…」


「蓮様のあんな嬉しそうな表情を初めて見ましたよ」


あたしと蓮の事を交互に見ながら、看護師さん達が微笑ましそうに小声で話をしていた。


こっちは恥ずかし過ぎて顔が赤くなってるのに、蓮は周りの目を全く気にしていないらしく、あたしの事しか見ていない。      

 

ジリジリジリジリ…。 

 

目を覚ましてから右脚のお太ももから足首にかけて、痺れる感覚がし思わず顔を顰めて(しかめ)しまう。 

 

その様子を見ていた蓮と看護師さん達は、何故か申し訳なさそうな顔をしていた。


「蓮?どうし…」


コンコンッ、ガラガラ。  


蓮に声を掛けようとした時、治療室の扉が叩かれると入って来たのは克也さんだった。


「おはようございます、聖様。君達は席を外してくれるか」


「「分かりました、親方様」」  


克也さんの言葉を聞いた看護師さん達は、治療道具を素早く片付け治療室を静かに出て行く。


看護師さん達が出て行った後、克也さんは人避け札を扉に貼る姿を見て、あたし達以外に聞かれてはいけない話をするんだと分かった。


空気が張り詰める中、恐る恐る克也さんに尋ねる。 

 

「克也さん、昨日できなかった話をするんだよね?」


「はい、今からする話し合いは俺達の中だけで完結させたいのです。八岐大蛇の封印が解かれ、内部に裏切り者が居る可能性いがありますので。まず、聖様と蓮は赤札をお持ちですよね?」 

 

「阿修羅王が夢に出て来たの。そして…、あたしの命が尽きるまで守ってくれるって言われて。目を覚ましたら、この赤札がありました」


あたしと克也さんが話していると、蓮も赤札を出しながら話に参加した。

 

「僕も毘沙門天が目の前に現れたんです。僕の事を事を気に入ったみたいで…、よく分からないんですけどね」


「蓮も…、あたしと同じように…」


蓮の持っている赤札には毘沙門天の絵柄が描かれていて、あたしの持っている赤札と絵柄が違うだけで同じ物だと分かる。


一体、この赤札は何だろう…。


赤札を眺めながら考えていると、克也さんは丁寧に赤札の事を教えてくれた。

 

「聖様と蓮の札は式神血晶(しきがみけっしょう)と言う物です」


「式神血晶?」


「陰陽師の中で禁忌と言われる式神です。神の力を借りると同時に、術師は自分の血液を対価として、赤い札に染み込ませ、神を召喚させる事を式神血晶と言います」


「神の力を借りる…って、事?」


そう尋ねると、克也さんは頷きながら答える。 


「その通りでございます。神が夢の中に現れる陰陽師は滅多に居ませんし、神に選ばれる事も中々ありませんから。聖様と蓮はまさに、神に選ばれた存在と言いましょうか」


阿修羅王は、あたしを選んで会いに来てくれたんだ…。


「流石です、お嬢」


「蓮だって凄い事じゃん、あたしだけじゃなくて」

 

あたしと蓮は、お互いの顔を見合わせながら軽く笑い合った。


「聖様、本題に入らせて頂きます」


「式神血晶の事が本題じゃないんですね?本題って…、何ですか?」


「聖様は恐らく…、いや、月下美人の器に選ばれてしまいました」


「何…、それ?月下美人の器?」


「八岐大蛇の呪いで御座います、聖様の右脚を喰らい呪いを掛けたのです」


克也さんの言っている言葉の意味が分からなかった。


どう言う事?


八岐大蛇があたしの右脚を喰べたって…、まさか…、そん筈は…っ。  


ドクドクと心臓の動きが早まり、額から冷や汗が流れているのが分かる。


パサッ…。

 

恐る恐る嫌な予感がしながらあたしは布団を捲ると、右脚の感覚はあるのに太腿(ふともも)から下が無くなっていた。


「う、うそ…、あたしの脚が!?」


ズキッ!!


切断された部分から急に激痛が走り、無い事を意識した途端に痛みを感じ始めた。


「お嬢!!」


グラッと体が大きく揺れ、布団に倒れそうになった所を蓮が優しく体を押さえてくれる。


「僕の所為なんです」


「蓮…?」


「お嬢が僕を庇った衝撃で、八岐大蛇に…。謝っても許されない事を僕はしたんです。謝って済む話じゃない事は、重々承知です。本来なら僕が命に変えても、お嬢の事を守らないといけなかったのにっ…」

 

そう言って、泣きながら蓮はあたしの前で土下座した。


蓮の言葉を聞いて、頭の中に記憶が蘇る。


八岐大蛇との戦いの中、あたしは蓮を庇った時に右脚を失ってしまったんだ。


だから蓮は…、あたしが右脚に痺れを感じた時に、申し訳けなさそうな表情をしていたんだ。

 

蓮を助けた事を後悔していない。


だけど、蓮は自分の所為で脚を失ったと思っている。


自分の脚が無くなった事は凄くショックで、すぐに現実を受け入れられる準備は出来ていないけど…。


だけど…、あたしは…。


あたしは蓮に泣きながら、謝ってほしくて庇った訳じゃないのに…。

 

「あたしは…、蓮のこんな姿を見たくて、助けたんじゃない!!!」


「っ!!?」

 

「自分を責めて欲しくなんてない。あたしはただ…、蓮を失いたくなかっただけなの。死んで欲しくなかったの、いなくなって欲しくなかったの。あたしの前から…、消えて欲しくなかったから」


「お嬢、だけどっ!!!」

 

「蓮の事が大事だったから、助けたの。蓮は悪くない。悪いのは、八岐大蛇の封印を解いた奴だよ」


あたしの言葉を聞いた蓮は口を閉じ、失った右脚に静かに視線を向けた。


この状況になったのは全て八岐大蛇の所為、そして封印を解いた奴だ。


目の前で直接、八岐大蛇の力を見せられ、御子柴家の人達を全員殺されてしまった。


お婆様でも、お父さんでも歯が立たなかったんだ。

 

このまま八岐大蛇を野放しにしておけない。

 

あたし一人じゃ…、八岐大蛇を倒せない。


八岐大蛇に呪いを掛けられたまま、あたしは生きていかなきゃいけない。

 

「蓮…、今から蓮に酷い事を言うね」


「はい」


「あたしと何処までも、堕ちる気はある?」


「お嬢?」


目を丸くする蓮を見ながら、側に来るように手招きしながら言葉を続ける。

 

「蓮が自分の事を攻めるのなら、あたしの為に側に居て。約束して、ずっと守ってくれるって」 

 

側に来てくれた蓮は力強く、あたしの手をギュッと握りながら答えた。


「そんなの…、初めて会った時から思っています。お嬢と何処までも、堕ちる覚悟はとっくに出来ています。こんな僕をいつまでも、お嬢の側で守らせて下さい。もう二度と、お嬢に怪我なんてさせません」


蓮はジッとあたしの目を見つめ、あたしも黙って蓮の事を見つめ返す。


あたしと蓮の会話を静かに聞き、見つめ合っている光景を黙って見ていた。


そうだ、どれだけ強力な呪いなのか聞かないと…。


「それで…、その呪いの事を詳しく教えて下さい。八岐大蛇が、あたしに掛けた呪いについて」


「承知しました」


克也さんはあたしに頭を下げて、ベットの横に置かれていたパイプ椅子に腰を下ろした。


ギシッ…。

 

そして、ゆっくりと克也さんの口から呪について語られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ