現れたのは
御子柴楓 十七歳
岡山県に到着し、ぬらりひょんが眠ってると言われる山に入った途端に、俺達は薄紫色の巨大な箱の結界の中に閉じ込められた。
「あ?んだこれ、結界か?」
犬山先輩は怪訝な表情を向けたまま、結界の壁を軽く叩いていると、同行していた結界師が口を開く。
「箱庭快楽ですね、それも強度が高いものです。私達、壱級の結界師の中でもやり手です」
「じゃあ、この状況ってやばいの?それとも大丈夫なの?結界師さんよ」
「す、すみません、そこまでは何とも言えません。何せ、箱庭快楽をこの目で見たのは初めてですので…、今の所は安全ではないかと…」
「壱球の結界師でも、使えない技があんだな。本当に安全かどうか、何で分かるの?」
結界師は犬山先輩に詰められ、何て答えたら良いのか分からない様子だった。
犬山先輩の言う通り、この結界内が安全かどうかの確証はない訳で、この結界を張ったのが八岐大蛇側の人間かもしれない状況だ。
「警戒を怠らないように、何が仕掛けられているか分からないからな。犬山、お前は結界師に対しての口の利き方に気を付けろ」
「は?俺が悪いって言いたいの?先生」
「同行してもらっている側の人間に話す言葉遣いじゃないだろ」
「確証もないのに、安全って言えるのは何でって聞いただけなんだけど?聞いちゃだめなだったのか?」
佐和先生の言葉を聞いた犬山先輩は、眉間に深い皺を寄せながら佐和先生の事を睨みつける。
犬山先輩の睨みに臆せずに、佐和先生は言葉を続けた。
「聞く事は悪い事じゃない、状況の整理や次にするべき行動を考えられるからな。だがな、聞き方ってものがあ…
佐和先生が話している中、ビシャッと頬に何かが飛んで来た感触がした。
触れてみると赤い液が付着していて、この赤い液体の正体が血液だと理解するのに数秒掛かる。
これは血液だよな?どこから飛んで来たんだ?
「進ちゃん!!?」
「なっ!?」
ジュリエッタ先生の叫び声を聞いて視線を向けると、佐和先生の左腕が斬り落とされ、先生の足元に大きな血だまりが出来ていた。
傷口から大量の血液が流れ落ち、佐和先生は血反吐を吐きながら地面に膝を付く。
「進ちゃん!!!大丈夫!?な、何でこんな…」
「この中に入ったから、人間のフリをしなくても良いよな?」
玉村先輩の方に振り返ると。血肉がべっとりと付着している紫色の扇子を持った返り血を浴びた玉村先先輩の姿があった。
「玉藻前はいつも急なんだよ。まぁ、良いけど?人間のフリをするのもだるかったし」
パチンッ。
犬山先輩はそう言いながら指を鳴らすと、一瞬で犬山先輩の容姿が変わり、額から角が生え爪も長く伸び首には鎖が巻き付く。
「玉藻前…?アンタ等まさか…!!!」
ジュリエッタ先生は驚いた表情を浮かべ、すぐに佐和先生を抱き寄せていた。
「フフフッ!!馬鹿みたいじゃなぁ。全然気付きもせんのじゃ。」
「妾は玉藻前、玉村と言うのは仮の姿じゃ。そして、そこの男の腕を頂いたモノ」
髪と同じ色の耳と六本の尻尾を生やした玉藻前は、佐和先生の腕を拾い上げて傷口の血を舐める。
*玉藻前とは、平安時代末期に鳥羽上皇の寵姫であったとされる伝説上の人物。妖狐の化身であり、正体を見破られた後、下野国那須野原で殺生石になったという*
「この姿見て、大体は察しがついてんだろ?俺は大嶽丸大嶽丸だ。八岐大蛇の直属の命で、この中に入る人間を消しに来た」
犬山先輩ではなく大嶽丸はそう言いながら、俺達の事を舐め回すような視線を送って来た。
*大嶽丸とは、日本の伝承に登場する鬼神。伊勢と近江の国境にある鈴鹿山に居を構え、日本を魔国にするため悪逆無道の限りをつくした。酒呑童子、金毛白面九尾の孤と並んで『日本三大妖怪』に数えられる*
大嶽丸は八岐大蛇と同じように京都で封印されていたが、何者かによって封印を解かれたって智也さんから聞いてた。
やっぱり、八岐大蛇の封印を解いた奴が他の大妖怪達の封印を解き、俺等の事を本気で潰しにかかってる。
陰陽師達が消されている今、大人だろうが学生だろうがコイツ等には関係ないのだろう。
「消しに来たって…誰の事よ?まさか進ちゃんを!?」
ギュッと佐和先生を庇う様に抱き締め、大嶽丸は深い溜息を吐きながら呟く。
「はぁ?そんな訳ないだろ?ソイツの腕を斬り落としたのも玉藻前が勝手にした事だ。お前等の隣にいるガキを殺しに来たんだよ。鬼頭楓いや、御子柴楓を殺すとの命令だ」
「!?」
「御子柴…?御子柴って貴方…、鬼頭じゃないの?」
大嶽丸の言葉を聞いたジュリエッタ先生は顔を青くさせながら、俺に視線を向ける。
コイツ、俺が御子柴家の人間だって最初から分かって…、八岐大蛇が俺の事を調べたのか?
奴の中で姉ちゃん以外の御子柴家の人間の事を殺すと言う目的があるのか、理由は分からないけど大妖怪の二人を俺の方に寄越してきた理由が分かった。
ジュリエッタ先生と佐和先生が驚くのは無理もない、陰陽師協会の会長を務める御子柴家の事を知らない者はいない。
姉ちゃんの方にも八岐大蛇の仲間が行ってる可能性が高いな、あっちには蓮も早乙女隼人がいるからまだ安心か。
問題は俺の方だ、佐和先生が負傷した中で大妖怪二人を俺とジュリエッタ先生の二人で対応するのは厳しい。
「答えなさい、貴方は御子柴家の人間だったの?」
ジュリエッタ先生に語尾を強められ、俺は答えるしかなくなくなり、重い口をむりやり開けて、ジュリエッタ先生の質問に答える。
「俺は鬼頭の人間じゃないよ、御子柴の血を引いている御子柴家の人間。ばあちゃんに追い出されて、鬼頭家で世話になってる」
「楓が御子柴家の人間なら、鬼頭聖も御子柴家の人間って事か?」
「姉ちゃんも御子柴家の人間だよ」
もう隠しようがねぇし、ここは佐和先生にも素直に答えた方が良いだろう。
状況が状況だし、ここから俺達が生きて出れる保証もないのだから言うしかない。
「そうか、お前等が御子柴家の人間だったとはな。、まさか、生き残ってたなんて思ってもなかったぜ」
「先生、悪いな。俺の所為で、先生の左腕が…っ」
「お前の所為じゃないだろ?そうか、なら俺等は生徒を守らねぇとな…」
そう言って、佐和先生は札を傷口に貼り付けると。札を貼った事によって流れていた血が止まった。
佐和先生が傷口に貼った札は医療術の呪符が書かれたものらしく、佐和先生はジュリエッタ先生の手を繋ぐ。
「ジュリエッタ、俺は大丈夫だ。行けるな?」
「進ちゃん、戦う気なの?だめよ、傷が酷い状態で戦ったりしたら!いくら強い進ちゃんでも、死んじゃうかもしれないんだよ!?私は進ちゃんが死ぬのだけは嫌よ」
今にも泣き出しそうなジュリエッタ先生の言葉に答えずに、佐和先生は立ち上がって俺に背を向けた。
「ジュリエッタ先生の言う通りだよ、アンタ等には関係ない事だ!!!俺を守るのに意味はないだろ?結界師さん、先生達を結界で守っ…。」
「お前は学院の生徒で、理事長の大事な子だ。それだけで楓を守る意味があるよ、それはお前の姉である聖の事もだ」
「何だよ、それ…。そんな理由で守るのかちょ、俺達の事を!?アンタ、馬鹿なんじゃないのか!?」
アンタはもう…、ボロボロじゃねぇか。
俺の為にどうして、立ち上がろうとするんだよ。
血だって流し過ぎてるし、今にも意識が飛びそうなのに俺の事を守る為に戦おうとしている。
「お前の目から見れば、俺の事が馬鹿に映ってるだろうな?あのな、教師が生徒を守り事に理由はつかないんだ。お前が何者だろうとな」
「進ちゃんはそう言う人よね…。私達、死ぬ時は一緒よね」
そう言って、ジュリエッタ先生は腰から下げていたポーチの中から鞭を取り出す。
「進ちゃんの言う通り、私達教師は生徒を守るのが仕事なの。貴方は下がってなさい、楓」
「お前のそう言う所、好きだぜ」
「え!!?や、やだぁー!!」
この人達…、俺の前で何やっとるんだ?少しでも見直した自分が馬鹿みたいだ。
「それじゃあ…、楓の事頼みます」
「はい、お任せください」
佐和先生に頼まれた結界師が俺を結界の中に入れると、「長い話は終わりか?」と言って大嶽丸が怠そうに佐和先生達を見つめていた。
佐和先生はヌンチャクを取り出して、大嶽丸に笑い掛けながら言葉を吐く。
「今から大人の時間だぜ?大嶽丸。お前の相手は俺がしてやる、言葉遣いを正してやる」
「へぇ?死にそうなアンタが俺の?良いぜ?玉藻前!!コイツは俺が殺す、手出しすんなよ」
「男同士の問題じゃ好きにせぇ。妾はこの女じゃな?」
「女の子同士の時間を楽しみましょうよ、子狐ちゃん?」
ジュリエッタ先生が笑いながら言うと、玉藻前の眉毛がピクッと動いた。
「大丈夫なのか?」
「あの二人は強いですよ、ペアで動いた時は時に。見ていれば分かりますよ」
結界師の言葉を聞きながら、先生達に戦いを見守り事にした。
「俺様から動いてやるよ、落雷矢!!!」
大嶽丸が指を鳴らすと、背中に稲妻の槍が無数に現れ佐和先生の方角に一斉に放たれる。
ビュンッ、ビュンッ!!!
「フッ!!」
佐和先生は稲妻の槍を避けつつ、大嶽丸の元に向かって走り出し、早いスピードでヌンチャクを片手で大嶽丸に振りかざした。
ブンッ!!!
キンッ!!
大嶽丸の背後から闇色の刀が飛び出し、ヌンチャクの動きを受け止め、闇色の刀は何本も大嶽丸の背後に現れ、大嶽丸は背後から刀を一本掴み佐和先生に斬り掛かる。
ブンッ!!!
シュバッ!!!
僅かの差で佐和先生がヌンチャクを使って刀の走行をずらし、大嶽丸の隙を作り尽かさず腹に蹴りを入れた。
上手い、佐和先生はかなり体力や気力が消耗している筈なのに、大嶽丸とやり合っている。
ジュリエッタ先生の方に目を向けて見ると、長い棒の釘を何本か召喚していて、それを場所は関係なく床に配置させた。
佐和先生の方にもいつの間にか釘が地面に刺さってたが、何の目的かは分からない。
「当たっておらぬぞ?それなら妾から行かせてもらうぞ」
そう言って、玉藻前は扇子を大きく振り上げた。
ブンッ!!!
ゴォォォ!!!
扇子を振り上げた衝撃激で風が球の形で現れ、ジュリエッタ先生の方に幾つか投げられる。
だが、ジュリエッタ先生は全く避けようとしない。
「どうして避けないんだよ、あの人…」
「楓君、見ていてく下さい」
「?」
結界師はどうしてこうも、二人の事を推すのだろうか…?佐和先生の実力は分かったけど。
風の球に隠れて玉藻前はジュリエッタ先生に接近しようとしていた。
「来たわね、式神術"網取網取"」
そう言って、鞭を思いっ切り振り回すと、無知が長くなり設置してあった棒の釘に鞭が引っ掛かり、網のような形の中に玉藻前の尻尾と手脚を拘束していた。
シュルルッ!!!
佐和先生の足元に刺さっていた釘が大嶽丸の足元に移動し、伸びた鞭が大嶽丸の足に巻き付き、ガラ空きになった胸元に札を貼り付ける。
「音爆螺旋」
佐和先生が呪文を唱えると、大嶽丸の体を光の鎖で拘束した。
「「拘束完了」」
二人は声を合わせて呟くと、結界師が興奮気味に俺に語って来る。
「流石だ!佐和先生とジュリエッタ先生の実力は学院の中でもかなりの強者!!ほら!楓君も見ただろ??」
何が変だ…。
いや、あの二人が簡単に捕まるはずがない。
八岐大蛇の仲間がこんな簡単に拘束されるのか?佐和先生の腕を静かに意図も簡単に斬り落としたんだぞ。
パリーンッ!!!
ガラスが割れるような音が聞こえ、背後に視線を向けるといつの間にか結界が破壊されていた。
「結界が破られた?おい、アンタ…」
「ゴフッ!?」
隣を見ると結界師が血を吐き、俺の体に覆い被さるように倒れ込み、背中を見ると大嶽丸の刀が何本も背中に刺さってる。
大嶽丸は佐和先生と戦いながら、残りの刀達を俺達がいた結界の方に飛ばし、結界師を排除させたのか。
俺は結界師の脈を確認したが、脈拍を指先から感じなかった。
駄目だ、死んでる、結界師が死ねば、貼られていた結界は消滅する。
「フフフッ」
「何?笑って…」
カタン。
ブシャアアアッ!!!
玉藻前が持っていた扇子が地面に落ち、ジュリエッタ先生の肩が斬られ傷口から血が噴き出す。
「妾が捕まる訳ないだろう?」
そう言って、鞭を斬り刻み自分の尻尾に座わり、地面に倒れたジュリエッタ先生を見つめている。
「ジュリエッタ!!」
佐和先生がジュリエッタ先生の元に走り出そうとした時だった、弓の構えをした大嶽丸が雷の矢を佐和先生に放った。
バチバチ!!!
ビュンッ!!!
「ガハッ!!?」
ドサッ。
佐和先生の体に雷の矢が刺さり、大量の電流を浴びて感電して気を失ってしまった。
「さてっと、邪魔な奴等は片付いた事だし?御子柴楓を殺しますか」
大嶽丸が刀を構え、ゆっくりな足取りでこちらに向かって来る。
二人はかなりの血を流している。早くこの結界を解かないと死ぬかもしれねぇな…。
俺は札を飛行機の形に素早く折り、佐和先生とジュリエッタ先生の元に飛ばした。
「医療術"折り紙"」
紙飛行機型に折った札は二人の体に着地し、小さな光を放ちながら傷が少しずつ修復されていく。
簡易的な医療術だけど、やらないよりはマシだ。
俺を守ってくれたこの人達を死なせる訳にはいかねぇ。
「ふぅ…、姉ちゃん。俺も、姉ちゃんと同じ技を使うよ」
「何だ、アイツ?」
「下がれ、大嶽丸」
「ん?何だよ急に…?」
「この静かな空気…、来るぞ」
玉藻前は俺の様子がおかしいと気付き、大嶽丸の腕を引いて後ろに下がらせる。
ズシャッ!!!
制服のジャケットを脱ぎ、シャツの上から妖刀で自分の腕を深く斬り、持っていた赤札に血液をたっぷり吸い込ませながら唱えた。
「式神血晶"明鏡月香"」
術名を唱えた瞬間、結界内に大きな水の塊が何個も浮き上がり、地面から水が現れ水の上には沢山の花が浮いていて、空間に大きな蓮の花が現れる。
蓮の花がゆっくり開くと、花の中から赤札に描かれていた通りの月詠が姿を現す。
「お主等か、妾の大事な子を殺そうとする者達は?」
月詠が言葉を吐くと一気に空気が凍り付き、背筋に寒気が走り、大嶽丸と玉藻前でさせも言葉を発せれないようだ。
「明鏡月香」
シュルルッ!!!
「「っ!!?」」
月詠がそう言うと、玉藻前と大嶽丸の体を蓮の蔓が巻き付き水の中に引き摺り込んだ。
ボチャンッ!!!
花のお香の香りと蓮の花の香りが混じり合う中、引きずり込まれた二人は苦しそうにもがいていた。
「「ゴポポポポッ!!!ゴホッ!?」」
水中の中で息が出来ない大嶽丸と玉藻前は、足に巻き付いた蔓を解こうとするが、蔓は更にきつく二人の足に巻き付く。
赤札に沁み込ませた血液の量が多いからか、月詠は俺の想像以上の力を発揮している。
「これで終わった…」
「楓!!」
「え?」
グサッ!!
ほっとしたのも束の間、月詠の叫び越えの後に背中に痛みが走った。
「はっ…、は?」
恐る恐る自分の体を見ると、腹を貫通して刀が刺さっていたるにが見え、ワイシャツが赤く染まって行く。
「ガハッ!?」
込み上げてきたものを吐き出し、足元に吐き出した血が飛び散り、月詠がこっちに来ようとしていた。
何がどうなってるんだ?大嶽丸と玉藻前は俺の目の前に居る、それなのに俺は刺されているんだ?
「君には少し眠って貰おうか」
知らない男の声がした。
男がそう言うと。月詠が赤札の姿に戻りヒラヒラと俺の前で舞い落ちる。
この箱庭快楽の中に誰か潜んでいた?こんな広い空間に身を隠せる場所なんてないのに。
どうやって入って来た?入れる場所なんてどこにもない。
バシャッ!!!
「ゴホッゴホッ!!!」
「あっぶなー!!!マジで死ぬとこだったわ」
玉藻前と大嶽丸は苦しそうに水から上がって来るのが見え、式神血晶が解かれたと今になって気付いた。
どうやって解いた?何で、姉ちゃんの時は解かれなかったのに、俺の時だけとかれるんだ?
ドンッと背中を強く押され、腹に刺さった刀が抜かれ、そのまま前のめりな体勢で地面に倒れ込んだ。
ドサッ!!!
何だこれ、体に力が入らねぇ…、視界がボヤけてきた。
腹の傷口から血が流れているのが分かる、体中の血液が漏れ出している。
手のひらにまで流れ出している血が付着し、小刻みに指先が震えているのも感覚で伝わってくる。
これ、本当にヤバイ。
俺、このままだと死ぬ。
そう思った時、頭の中に姉ちゃんの顔が浮かんで、姉ちゃんが俺の事を呼ぶ声まで聞こえて来た。
『楓』
「はぁっ、はぁっ…、このまま死んで、たまるかよ」
刺された時に落とした妖刀に手を伸ばすが、大嶽丸が妖刀を遠くに向かって蹴り上げる。
カランッ、カランッ。
妖刀が音を立てて落下し、大嶽丸からの視線を感じた。
「さっさと殺すぞ」
バチバチバチッ!!!
俺の前に立った大嶽丸の背後から光が放たれ、稲妻と共に現れた槍を掴んだまま、俺に向かって振り翳してくる。
ビュンッ!!!
このままここで、大嶽丸に殺されて死ぬのか?姉ちゃんの事を、姉ちゃんの呪いを解かせないまま死ぬのか?
姉ちゃんの役に立てないまま、俺は死ぬのか?
あの頃みたいに、姉ちゃんの事を苦しめた御子柴家の人間達を止める事が出来なかった惨めな頃の俺に戻るのか
あの時の自分に戻りたくないから、俺は鬼頭家で血が滲むような思いをして修行をしていたのに。
何で、体が動かねぇんだよっ、何で…っ!!!
「姉ちゃん…っ」
キンッ!!
誰かが大嶽丸の槍の攻撃を止めた事に気付き、俺は目をむりやり開けた。
そこにいたのは黒い帽子に黒いスーツを着た白い髪の毛と髭のお爺さんが立っているのが見える。
これは幻覚なのか?こんな所に爺さんが居る筈がない。
「ほっほー、間に合って良かった。大丈夫か?小僧、生きとるか?」
「生きてるど…っ、爺さんどこから…」
「ぬらりひょん!?何で、アンタがコイツを助けるの!?意味が分からないんだけど!?」
玉藻前が現れた爺さんの姿を見て、驚きながらぬらりひょんと呼んだ。
*ぬらりひょんとは、ぬらりひょんは、大きな禿頭を持つ老人の姿で描かれる妖怪で、和服や袈裟を着ていることが多く、顔は温和で優しい表情をしているとされますが、どこか不気味な雰囲気を漂わせています。日本の妖怪、もののけである*
「あるお方と約束してのぉ、小僧を守れと言われたんじゃよ。仮面の男や、背後から小僧の事を刺したお前さん」
「ぬらりひょん…、貴様…」
「小僧を刺した罪は重いぞ?」
ある方の命?誰がぬらりひょんに命令したんだ?
動き始めた妖怪同士の破裂と抗争の蠢く中。
忠義を尽くしたぬらりひょんは一体誰の命で来たのか、命令を貰い忠義を尽くしたもう一人の妖怪が現れる。
「待っていろー。直ぐに行く」
第参幕 完




