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初任務 弐

御子柴聖達と別行動になった本城蓮は、先程の刑事と通話をしていた。


本城蓮 二十四歳


「言われた通りに規制をかけておいた。これで良かったんだろ?念の為っだが、我々は近くで待機する事になった」

 

「はい、ありがとうございます。待機して頂いて構いません。ただ、こちらから連絡するまでは、突入しないで下さい」


「大人しくしてれば良いんだろ?はいはい、分かりましたよ」


ブチッ!!!

 

刑事は嫌味を含んだ言葉を吐き、一方的に通話を切ってられてしまった。


この刑事は…、本当に態度が悪いな…。


妖怪の存在を信じられないのは分かる。


人間と言うものは自分の目で確かめない限り、信じられないものだ。  


ただ、女だからと言って、お嬢の事を見下すのはやめてもらいたかった。


お嬢は気にしていない様子だったけど、坊ちゃん達は僕と同じ気持ちだったようだ。


京都を離れても、お嬢に怪訝な視線を向けてくる人間が居たとはな…。 


僕が守れば良い話だ。

 

「さて…、最後にここに札を貼れば…」


この敷地内の角となる大きな木に結界札を貼り、四角で形成される結界を完成させた。


沼沢湖周辺に設置されている公園の敷地内を回りながら、箱の形の結界を貼る為、お嬢達と別行動をとっていた。


「一応、確認の為に飛ばすか」


そう呟きながら、ポケットから式神札を取り出す。 


「主の声を聞き、姿を表せ」


ボンッ!!! 

  

地上から結界の完成度を確認する為、自分の式神の(ふくろう)を空に放つ。 


バサバサッ!!!


召喚した梟の視界を、僕の目で共有が出来る。


地上から沼沢湖公園全体を、薄い紫色の四角形の箱で覆われている事が確認出来た。  

 

時刻を確認する為にスマホを取り出していると、日が急速に暮れ始めている事に気付く。


「午後十八時…、丁度か。異様な気配がしてきたな」

 

ブー、ブー。


スマホにメッセージが届き、開いてみるとお嬢からで、今から作戦を開始すると書いてあった。


フワッと、前田大介にぶつかった時に沼御前から甘い匂いがしのは…。


弐級妖怪と呼ばれているが、あれは壱級妖怪の匂いを放っていた。


何故、弍級の妖怪から匂いがしたんだ? 


お嬢と坊ちゃん、早乙女隼人がいるから大丈夫だと思うが、問題なのは…。


「心配なのは、マーキングされた前田だな」


確か前田は弐級だったし、場数は早乙女隼人と一緒に踏んでいると思うが、沼御前がどう動くかで状況が変わる。


ガサガサッ…。

 

「…」


カチャッ。

 

僕は腰に下げてある妖刀を抜きながら周りを見ると、沼御前の配下の妖怪達が妖気を消さずに姿を出して来た。


取り囲むような立ち位置…、指示を受けてやってる感じか。

 

ザァァァ。


湖の中から渦を作りながら、大きな体の大蛇(だいじゃ)が顔を出し、僕の顔を見ながら口を開く。 

 

「おいおい!!!やっぱ、こっちにも人間がいるぞー?」


「やっぱりな、僕の方に大蛇がいたか」


「ん?貴様、陰陽師か。妖気を消していた筈だがな、よく気付いたな」


「沼御前以外にも、微かに弍級の妖気を感じていたからね。お嬢達には面倒事を増やしたくなかったから、君達にはここで死んでもらうよ」

 

僕の言葉を聞いた大蛇は、牙を剥き出しにしながら罵声を浴びせ始めた。


「貴様のようなガキに、俺様を殺せる訳ねーだろうが!!?古くせぇ、陰陽師如きがふざけた事を抜かすな()!!!」


「あははは、弱い妖怪程さ?よく口が回るんだよね。良いの?君、自分で弱いって宣言してるけど」


「貴様っ!!!馬鹿にするのも良い加減にしろよ!!!」  


「さ、戻っておいで?フウ」 


ブオォォォォ!!!

  

僕は空に向かって梟のフウを呼んぶと、フウは風を体に纏わせながら共に現れ、翼を羽ばたかせ大蛇の目を突いた。


ズシャッ!!!


ブシャッ!!! 

 

「グアアアアアアアアッ!!!目、目がっ、俺様の目があああああああ!!!!」


大蛇の右目から血が噴き出し、フウを振り払おうと暴るが、フウは素早く大蛇から離れる。


そのまま僕の肩に止まり、大蛇の様子を見た妖怪達が騒ぎ出す。

 

「だ、大蛇様!!!?」


「き、貴様!!よくも!!」


水の妖怪である河童が、牙剥き出しにさせながら僕に飛び付いて来た。


考え無しに飛び付いて来た河童を軽々と避け、背後に素早く周り河童の頭を斬り落とす。


ブンッ!!! 


ブシャアアアアアア!!!


斬られた首からは緑色の血が噴き出し、思いっきり体にかかる。


「チッ、血が掛かったじゃないか。妖怪の血は魚臭いから、嫌いなんだよ」 


舌打ちをしながら刀に付いた血を振り払い、視線だけで妖怪達の人数を数えた。


僕の周りを取り囲んでる妖怪達の数は、大体二十…、前後か。 

 

「い、今、首を斬ったんだよな?」


「奴の動きが全く見えなかった…、河童の野郎は死んでるから、斬られたんだろ?」 


「おいおい、どうすんだよ!!!」


一人ずつ片付けるのは面倒だな、一気に片付けよう。 


「君達が動かないなら、遠慮なく殺させてもらうよ。こんな所で、時間を割いてる暇はないんでね」


ダンッ!!!

 

地面を強く蹴りい上げ、一気に前にいた歪な形をした妖怪の懐に入り込み、そのまま刀を振り下ろした。


ブンッ、ブシャ!!!


「グアアアアアアア!!!」


斬られた肩から勢いよく緑色の血が噴き出し、傷口がジワジワと焼かれて行く匂いが鼻を通って行く。

 

妖怪退治専用に作られた刀の刃には、細かく妖怪達の体を内部から破壊する呪符が刻み込まれており、妖銃に込める弾丸も刀と同じだ。


呪符が刻印のように刻まれてるから、撃たれたり、斬られたりしたら傷口が焼かれて行く仕組みになっている。

 

「ギャアアアアアアアアア!!!」

 

「さっさと、その人間を殺せ!!!ぐずぐずすんな!!!」

 

バッ!!!

 

大蛇の怒りの言葉を聞いた妖怪達は、一斉に僕に飛び掛かってきた。


「一気に片付けるから、助かるな」 


***

 

午後十八時半 御子柴聖 十七歳


日が沈み始めてから、周囲一体から妖怪の気配が漂ってい、公園の敷地内の雰囲気が一気に変わる。


楓と隼人は少し離れた所で、気配を消して大介を見ており、あたしは木の上から大介を監視していた。


大介は平然を装いながら道を歩いている大と、介の背後に沼御前がいやらしい笑みを浮かべながら背中に触れる。


やはり、あの女が沼御前だったか。 


「やっぱり、良い男。顔も私好み」


「君…、沼御前なんだろ?」


「おや…、まぁまぁ。察しのいいガキは好きじゃないのよねぇ」


「っ…!!!」


大介が沼御前から距離を取ると、沼御前の体に白い煙が纏い、晴れた煙の中から現れたのは、上半身は裸で下半身は人魚の姿で、魚のような巨大な尻尾は六本生えていた。


「女の子の裸を見ても、こんなに嬉しくない事ってある?マジで、勘弁してほしんですけど」

 

そう言いながら、大介はポケットからステッキらしきものを取り出した。


あのステッキは、なんだろう…?


カチッ、カチャンッ!!!

 

その光景を見ていると、大介がステッキに付いているボタンを押し、棒が勢いよく伸び青色の槍のに変わった。


あのステッキは槍に変形出来る物だったんだ、持ち歩き出来るのは便利だな…。


「私とやり合う気?坊や。貴方も私のコレクションになるのよ?」


ドゴォォォーンッ!!! 

 

そう言って、沼御前は六本の尻尾で湖を叩き付けた。


ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

すると湖から巨大な岩が現れ、異様な光景が大介の前で広がる。


「おいおいおいおい!!!マジか!!!?」


大介が岩を見て大声を出すのも無理はない。


湖の中から出て来た岩に、行方不明者だと思われる未成年の男性達が岩にくっついていた。


どうやら、あの鱗が体にへばり付き岩と合体させてあるみたいだ。


大介にも付けられた鱗強力な接着剤になっているらしい。

 

厄介だな、鱗同士が共鳴し合い粘着の強度を、更に強くさせている。


「か、体が!?勝手に引っ張られて!?」


大介の体が岩に引き寄せられ、沼御前は見つめ大介の体に尻尾を巻き付かせようとしていた。


沼御前が大介に気を取られているお陰で、沼御前の背中がガラ空きの状態だ。


カチャッ。 

 

あたしは素早く妖銃を構え、照準を合わせ、尻尾目掛けて銃弾を放った。


パンパンッ!!!


ブシャッ、ブシャッ!!!

 

「ギャアアアアアア!!」


打った銃弾が二発とも尻尾に命中し、緑色の血飛沫を上げながら尻尾が弾け飛ぶ。


「聖ちゃん!!」


「まだ、気を抜くのは早いよ、大介」


カチャッ、カチャッ!!!


安心しきっている大介に注意しながら、弾丸を装填する。

   

「な!何だこれは!!?わ、私の尻尾が!!!」


沼御前は撃たれた尻尾を見ながら、戸惑っている時だった。

 

タタタタタタタタタッ!!!

 

楓が素早く木の影から飛び出し、低い体勢のまま沼御前の懐に入り、妖刀を尻尾に目掛けて振り上げる。


ブンッ!!!


ブシャアアアアアア!!!

 

妖刀で斬られた尻尾は回転しながら宙に舞い、緑色の血飛沫が楓の体に付着するが、楓はお構いなしに次々と尻尾を斬り付けて行く。

 

「ギャアアアアアアアアアッ!!!何で、何で、尻尾が再生しないのだ!!?」


「傷口が破壊されてんだから、再生しないに決まってんだろ」


「何をした貴様ああああ!!!」


楓の言葉を聞いた沼御前は、牙を剥き出しにしながら長く狂暴になった爪を楓に振り下ろす。


軽々と沼御前の攻撃を避けて背後に周り、次々と尻尾を切り刻んで行く。


ズシャッ、ズシャッ、ズシャッ!!!


ブシャアアアアアア!!! 


沼御前の足元に緑色の血溜まりができ、六本あった尻尾は残り一本となってしまった。


ジュワワワッ…。


斬られた傷口が焼ける音を立てながら、皮膚や筋肉が焦げて来ているのが目視でも分かる。


弍級の妖怪だから立って入れているけど、下級の妖怪なら失神してしまうレベルの痛みが、沼御前の体を襲っているだろう。  

 

「グアアアアアアアア!!!!痛い、痛いぃいいいいいい!!!!この男だけでもおおおおお!!!」


タタタタタタタタタタッ!!!


「死どけ、妖怪」


ドカッ!!!  

 

怒った沼御前が大介に手を伸ばそうとしたが、隼人が沼御前の前まで走り出し、脇腹に拳を捻り込ませた。


「ヴッ!!!?」


「もう一発喰らっとけ、オラッ!!!」


ドカッ!!!

 

呪符の書かれた包帯に触れた所為か、隼人が殴った沼御前の脇腹にポッカリと穴が空いた。


ボトボトボト!!!


穴の空いた脇腹から隼人の拳が貫き、音を立てて体の中に破壊された臓器らしき物が地面に落ちる。 


あたしが出るまでもないな、隼人の攻撃がかなり効いてる。

 

「こ、この餓鬼共…め!!調子に乗るなぁぁぁぁ!!!!キイエエエエエエエエエエエ!!!」


沼御前は大声を出し、聞き取れない声で奇声を上げた。


ブオォォォォォ!!!

 

叫んだ影響で衝撃波が起こり、楓達は下半身に力を入れ、吹き起こる暴風に耐えている。


 

「八岐大蛇様…、貴方様のお力お借りしまする。」


 

そう言って、沼御前は紫色の液体が入った瓶を取り出した。


「八岐大蛇…?まさか…っ!!!みんな、沼御前から離れて!!!」


「「っ!!!」!


バッ!!!

 

あたしの叫び声を聞いた楓達は、素早く沼御前から距離を取り様子を伺う。


沼御前は徐に紫の液体を飲み干し、空になった小瓶を乱暴に地面に投げ捨てる。


カランカランッ…。 


八岐大蛇の名前が出たから距離を取らせたけど…、あの液体は何?


ゴキゴキゴキッ!!!

 

沼御前の体全体に鱗が生え、骨を慣らしながら体が巨大化し始める。


体が巨大化した?


紫色の液体は身体強化させる物だったって事?


「わわわわ!!?」


「大介!!!」  

 

大介の体が浮き上がり、隼人が大介のを掴もうとしたが、物凄い勢いで岩に張り付いてしまった。


「邪魔だ、糞餓鬼!!!」


「っ!!!」 

 

隼人が大介を追い通うとしたが、巨大な尻尾に跳ねられ、ガードの体勢のまま近くにあった木に飛ばされた。


ドンッ!!!

 

「ガハッ!!!」


ガードをしていた隼人でも、身体強化された沼御前の攻撃はかなり重かったようだ。


「おい、馬鹿!!!生きてるかー」


「誰が馬鹿だ、生きてるわ」


「ガードすんのが遅かったんじゃねーの?口から血が出てるし」


「切れただけだわ、お前こそ油断してんじゃねーぞ」


楓の憎まれ口に反発しながら、隼人は制服の袖で血を拭い沼御前を睨み付ける。  


ズキンッ!!!


背中に鋭い痛みが走り、前に倒れた時と同じ痛みだった。


八岐大蛇が近くにいるの…?それとも…。


「もしかして、あの液体は八岐大蛇の血?沼御前の体が強化されたのは、八岐大蛇の…、ヴッ」


あまりの痛みで木から落ちそうになり、体勢を整えながら沼御前を見つめる。


沼御前は八岐大蛇の血を飲んで強くなったのは確かで、明らかに妖気の量が増えているし…。


楓が斬り落とした筈の尻尾は再生され、隼人が体に開けた穴も塞がれている。

 

スッ…。


制服のスカートのポケットの中から、式神札を数枚取り出す。


「出ておいで」


ボンッ、ボンッ!!!


「キュキュキュッ!!!」

  

あたしは式神の針鼠(ハリネズミ)を数体召喚し、白い煙の中から飛び出して来ては、あたしの手のひらで寝転がった。


「沼御前の所に行って来て」


「キュキュキュ!!!」

 

沼御前に気づかれないように配置させ、木から飛び降りて楓と隼人と合流した。


「楓、ちょっとでいいから、沼御前の気を逸らしてほしい」


あたしがそう言うと、楓は沼御前の周りを見て、意図を汲み取ったように頷きながら口を開く。


「了解、任せといて。出て来い」


ボンボンッ!!!

 

楓は式神札を取り出し、白と黒色の大型犬を二匹召喚させた。


「行くぞ、アン、コン!!!」


「「バウッ!!!」」


シュシュシュシュッ!!!


走り出した楓の動きに合わせて、沼御前が巨大な尻尾を振りかざす。


ブンッ!!!


タタタタタタタタタッ!!!     


ズシャッ!!!

 

楓都式神達は沼御前の巨大な尻尾を交わし、尻尾に飛び移った瞬間に妖刀に突き刺さす。


ググググッ!!!


ブシャッ、ブシャ、ブシャ、!!! 

 

尻尾に妖刀を突き刺したまま、楓は前に押しながら走り出し、傷口から緑色の血飛沫が上がる。


「グアアアアアアア!!!離れろ、糞餓鬼がああああ!!!」 


「「バウッ!!!」」


ガブッ、ブシュッ!!!

 

アンとコンと呼ばれた式神も、楓に降り掛かった尻尾を噛み付き、楓に近付かせないようにしている。


「隼人、大丈夫?」


「ぺっ、悪い油断した」

 

あたしの問い掛けに応えながら、隼人は口に溜まっている血を吐き出した。


「隼人には、大介と行方不明者の救出をお願い。あたしと楓が沼御前を担当するから」


「あの鱗を剥がせば良いんだな?了解」


ボンッ!!!

 

隼人も式神を召喚し、ホワイトタイガーに飛び乗り岩に向かって行った。


「この餓鬼!!!ちょろちょろと鬱陶しいわ!!!式神の犬っころめ!!!」


完全に沼御前は、楓に気を取られていおり、あたしの事はノーマーク状態だ。


放った針鼠達も気配を消しながら、沼御前の周りに移動出来ている。 


「式神術 "針山地獄(はりやまじごく)"」


そう言って、あたしはパチンッと指を鳴らした。


グググッ、ググググッ!!!


グサグサグサグサッ!!!

 

配置されてあった針鼠の針が大きくなり、無数の針が沼御前の体に突き刺さる。


「ギャアアアアアア!!!痛い!痛い痛い痛い痛い!!!」


巨大化した針鼠の針は、、地面にも突き刺さっており、逃げようとしても針が深く刺さり動けない状態になった。


楓は針が出る瞬間に避難していて、針鼠の針は当たっていないようだった。


あたしの式神の針鼠は、針を巨大化させて妖怪の動きを封じる事が出来る、言わば拘束術だ。


沼御前のような感情で動いてるタイプは、針鼠の針に引っ掛かりやすい。


「姉ちゃん、無事か」


「あたしは大丈夫。楓もタイミングよく離れて良かった」


「これで、大人しくなれば良いけど」


合流した楓都話していると、沼御前があたし達の事を睨みながら叫び出す。  

 

「何処だ…!!!さっさっと私を助けろ、大蛇!!!!」


「アイツ大蛇を探してんのか?」


沼御前の言葉を聞いた楓は、何気なく呟く。


「探してたって?」


「さっきから大蛇って、何度も呼んでたんだよ。多分、沼御前の手下なんじゃないかな」


「あぁ、もしかして、これの事を探してる?」


「「えっ!?」」

 

あたしと楓、沼御前の三人は、驚きながら声のした方を振り返る。


茂みの中から、何かを持った返り血塗れの蓮が立っていた。

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