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初任務 壱

福島県 郡山駅ー


御子柴聖 十七歳


昼時過ぎに郡山駅に着くと、蓮は車を停車させた。


「ちょっと待っといてくれ。案内してくれる刑事さんを迎えに行って来るから」


パタンッ。


そう言って蓮は車を降りて行き、駅の方に歩いて行く姿をあたし達は車の中から様子を見る事に。


「聖ちゃん、初めての任務だったよね?」


「あー、うん、そうだよ」


「ここにいる三人は任務経験アリだからさ、頼りにしちゃって良いからね!!!」


大介の言葉を聞いた楓と大介は笑いを堪える為か、窓の方に顔を向ける。


二人共、肩震えてるけど…、そんなに面白いのか。


大介はあたしが妖怪退治に慣れてるのを知らないから、気を使って言ってくれたんだな。


少なくとも、大介の目にはあたしは普通の女の子に見えるらしい。  


「まぁ、でも隼人に勝っちゃってるから、俺が心配する事ないか…」


「そんな事ないよ、ありがとう大介。遠慮なく頼らせてもらうね」


「う、うんっ!!!大船に乗ったつもりで頼って良いからね!!!」


「うん、ありがとう」


大介は嬉しそうに満面な笑みを浮かべてるから、こっちまで嬉しくなるな。


「姉ちゃんが、お前に頼る場面なんかねーよ。俺の事を頼りにするんだからな」


「ちょっ!?それはないよっ。俺にも見せ場を作らせてよー」  


楓の言葉を聞いた大介は、あからさまに肩を下ろして落ち込んだアピールをする。  

 

他愛のない話をしてると、ボサボサ髪のスーツ姿の中年男性と共に、こちらに戻って来るのが見えた。


蓮が助手席の窓を軽く叩いてきたので、あたしはすぐに窓を開けて蓮に声をかける。


「どうしたの?蓮」

 

「悪いな、鬼頭。申し訳ないんだけど、後ろに乗ってくれるか?刑事さんを助手席に乗せるから」

  

「分かった、すぐに移動するね」


そう言いながら助手席を降りて後ろの席に移動し、隼人と大介の二人が一番後ろの席に座り、あたしの隣は楓になった。


助手席に刑事さんを乗せ、車は再び目的地に向かって走り出す。


暫くすると黙っていた刑事さんが、今回の事件の詳細をあたし達に話し出した。


「君達学生には連日、五色沼湖沼郡ごしきぬまこしょうぐんに訪れた未成年の男子が、行方不明になっている原因解明してもらう事…。にわかに信じたくは無いが、未成年の男子の誘拐は妖怪の仕業らしいんだろ?」


刑事さんの棘のある話し方からして、妖の存在を信じてないのが分かる。


確かに、実際に見てみないと信憑性が湧かないしね。


あたし達は嫌と言う程、妖を見て来たからなぁ。


普通の人よりも疑わずにすんなりと、話が頭に入って来た訳だし。


「どうして、妖怪の仕業だと思ったんですか?」


「昔から五色湖沼郡には、沼御前が湖の底に眠っていると言う話があってな。目撃情報によると、夜に女の顔を纏った巨大の蛇が男子を湖に引き摺り込んだ…と」


「それで、学院に依頼を申し込んだ訳ですね」


蓮はハンドル操作をしながら、刑事さんの話を聞いていた。


「こんな若い者に頼むのは、(しゃく)だがな。特に女子高生には…、女の子が妖なんかと戦えるのかね?そんな細い体でねぇ?」


刑事さんは振り返り、あたしを見つめながら嫌味の含んだ言葉を放つ。


どうやら、あたしに不満のある顔だ。


まさか嫌味の矛先が、あたしに向けられるとは思ってなかったな。

 

それにしても、今まで浴びた事のない視線を受けてると、結構面白いな。


だってこの人からしたら、あたしは普通の女子高生に見えるのか。


怪訝な視線を見た楓と隼人、大介は、あからさまに刑事さんを睨んでいた。


いやいや、アンタも怒るんかい大介。


刑事さんからしたら、あたしは普通の女子高生で、ましてや戦い慣れをしているとは思わないだろう。


そう言う視線を貰うのは初めてだから、新鮮と思ってしまった。


「この子も立派な陰陽師の壱級ですよ。だから、今回の任務に連れて来たんですから」


蓮はそう言って、あたしに笑い掛けてくれくれる。

 

キュュウっと、胸が締め付けられる感覚がし、嬉しかった。


いつも、あたしの心を舞い上がらせるのは蓮だ。


蓮の事を好きだと自覚させられる。


いつからだろうか、蓮にこの感情を抱いたのは。


だけど、あたしの所為で蓮の人生を縛っている事は、間違いない。


だから、この想いは秘密にすると誓ったのだから。


ドキドキしたり、キュンッとしたりする資格すらないのだ。


「壱級?あぁ、アンタ等の中では壱級ってのが偉いんだっけか?」


「えぇ、そうですよ」


「ふーん。あ、そろそろ着きますね」


蓮の言葉を聞いた刑事さんは、太々しい声を出しながら前に視線を戻す。 


「何なんだ、あの刑事。姉ちゃんを女だからって、舐め過ぎだろ」


楓はかなり、イライラが溜まっているご様子だ。


隼人は…と言うと、言うまでもない。


楓と隼人は似た者同士だ。


「あたしは気にしてないよ?楓。だって、今まで言われた事なかったからさ?」


「姉ちゃんって、本当に優しいよな…。普通だったら、キレても当然な事なのに」


「あたしが怒る前に、楓と隼人也大介が怒ってくれたからさ?だから満足的な?」


「アンタがそう言うなら、俺と大介は良いんだけどな。シスコン野郎はどう思うか知らねーけど」


あたしと楓の会話に入ってきた隼人は、楓を挑発するような言い方をする。


「あ?テメェ、今何つった?」


「聞こえてなかったのか?シスコン野郎」


「テメェ…」


「二人共、車内で喧嘩を始めないでくれよー」   


隼人の言葉を聞いた楓が怒り出したのを見た大介が、溜め息を吐きながら間に入った。


楓の気を自分に向けるような言葉を選んで、わざと喧嘩を振ったのは隼人なりの気の引き方なんだと、あたしはすぐに分かった。


あたしの事になると楓はすぐに怒るし、あたしよりも気にする事を隼人は分かってる。   

 

楓と隼人の二人の言い合いを聞きながら、あたし達は目的地の駐車場に到着した。


「騒ぐのはここまでにしてくれよ?学生達。仕事で来てるんだから、こっちは」


あたし達は刑事さんに嫌味を無視しながら、蓮を先頭にして沼沢湖周辺の公園内に入って行く。


周りを見渡すと木や山が目に入り、都会と違って空気が澄んでいて、自然の豊かさそのものだった。


「俺の家さ、山奥の神社だから。こう言う自然が沢山あるの好きなんだよね」


大介は両腕を広げて、伸び伸びとしている。


「山奥?」


「そうそう。俺と隼人はさ?元々東京の人間じゃないだよ」


「そうなんだ、出身は?」


まぁ…、隼人から話は聞いてるから、知ってるんだけど…。


大介は知らないからな、知らないフリをしないと。


「京都だよ!京都。隼人とは幼馴染なんだ、な!」


そう言って、大介はトントンッと隼人の肩を叩く。


「通りで仲良い訳だね」


「いや、コイツがずっとこんな感じだから…。仕方なく仲良くしてやってんの、俺は」


「いったいなぁー、もっと優しく払い除けてくれよ」 

 

隼人は話しながら、大介の手を軽く払い除けた。


あたしの少し前を歩いていた楓が、クルッと振り返り手を差し出す。


「ここ、段差があるから。気を付けて、姉ちゃん」


「ありがとう、楓」


「良いよ、こっち側は段差とかないから」


楓はそう言って、さりげなく左側に誘導してくれた。


義足を気にしての行動だろうけど、やっぱり昔と変わらず楓は優しいな。


あたしと楓の事を交互に見ながら、大介は何気ない言葉を吐いた。

 

「聖ちゃんと楓君って、本当に仲良いよね!!!小さい時からそうなの?」


ドキッ。

 

大介の言葉にあたしと楓は、言葉を詰まらせる。


何て答えようかな…。


楓と過ごした時間って、あんまりないんだよね。 


お婆様が追い出したきりの今まで、楓と会ってなかったし…。


そんな事を考えていると、楓が口を開いた。


「俺が修行ばっかりしてたから、殆ど家に帰ってなかったし。仲良くなったのは最近だよ」


「あー、そうなんだ。隼人と一緒な感じね!!!こんだけ可愛い姉ちゃんが居たら、優しくしたくなるよね」


「別に、それだけが理由じゃないけど」


大介の質問に、楓はサラッと答えた。


答えに困ってたけど、楓が普通に答えてくれて良かった。

 

そう思っていると、楓があたしの耳元でコソッと囁く。


「大丈夫だよ、姉ちゃん。そんなに心配しなくても、大介はアホだから」


「ア、アホ?」


「うん、アホ」

 

「ップ!!!あははは!!!ありがと、楓」


わしゃわしゃ!!!


あたしはそう言って、楓の頭を優しく撫でる。


楓は顔を赤くしていたけど、頭を撫でられて何処か嬉しそうだった。


「あ、いーなぁ。聖ちゃん、俺の頭も…」


「え?」

 

「あ?!」


大介があたしに向かって、頭を突き出して来たのだが、楓が鬼の形相であたしの前に立った。

 

「ひっ!?じょ、冗談だよっ、冗談!!!」 


「お前、いつか楓に殺されぞ…」


楓の視線を見た大介は、慌てて隼人の背中に隠れる。


あたし達の事を見ながら、刑事さんは蓮にまたしても嫌味を吐いていた。

 

「全く、君の所の生徒は大丈夫なのかね?遠足気分じゃあるまいし…、学生に任せても良いのかねぇ」


「大丈夫ですよ。この子達も陰陽師として、退治しに来たんですから」


「は、はぁ。それよりも、ここですよ」


そう言いながら刑事さんが立ち止まり、湖の方向に指をさした。


指のさす方向を見つめると、辺り一面は綺麗な湖が広がっており、周りの木々達が風に揺られ、心地良さそうにしている。


観光に見にきた人達も、ちらほらといるようだ。

 

一見して見ると、普通に綺麗な湖が広がっているけど…、微か(かす)に妖気が残ってる。


途中で沼御前が気が付いて、妖気を消した様子が残っていた。  


「姉ちゃん、沼御前の妖気が残ってるよな?」


「お、楓も気付いてたんだ」


「ほんの少しけどね?不自然な消し方だなって」


あたしと楓が小声で話していると、大介が口を開く。

 

「この池に沼御前が居るのかー。何か、想像つかねぇー」

 

「お前は、緊張感はないの?」


「だってさー」


ドンッ!!!


大介と隼人が話している所に、大介の背中に誰かがぶつかってきた。


「キャッ」


白い女優帽を被った女の人が、ぶつかった衝撃で地面に尻餅を付き転んでしまったようだ。


「あ!大丈夫ですか?」


大介が女の人に手を貸して、心配そうな顔をしながら声をかけている。


「あ、ありがとうございます…。お優しいんですね」


そう言って女、の人は大介の腕を優しく握った。


帽子から見えた綺麗な顔に、サラサラとした長い黒髪、見るからに華奢な体。


フワッと香る甘い花のような、香りが鼻を通る。

 

この香りは…、嗅いだ事のある香り。


ゾワゾワッ!!!

 

そう思った瞬間、全身に寒気が走り、あの時の記憶が鮮明に思い出された。 

 

忘れる事のないあの香りは…、八岐大蛇と同じものだ。


そして、この香りの特徴は一つだけ、壱級妖怪特有の独特な甘い香りは、妖気が漏れ出ている証拠。


あたしは蓮を見つめると、蓮は軽く頷いた。


やっぱり…。


どうやら、楓と隼人も気付いている様子だった。


「え、あ、あの?」


「ごめんなさい。あまりにも貴方が、素敵だったので…。ありがとうございました。また会いましょう」


困惑する大介を置いて、女の人は何食わぬ顔をして去って行った。


「綺麗だったなー、今のお姉さん!!!俺の事、素敵だってさー」


ニヤニヤとしている大介は、気付いていないようだ。


ふと、大介の腕を見てみると、黒い靄のようなものが腕にまとわりついているのが見えた。


すぐに黒い靄はなくなったが、さっきの女の人が大介にした事の予想がつく。

 

「大介、腕を捲って見て」


「え?う、うん、分かった」

 

あたしは大介にそう言うと、大介は自分の袖を捲り腕を見た。


「え…って!?何だこれ!?鱗?」


女の人に触られた部分に魚の鱗が生えおり、鱗部分が増えていっているのが分かる。


刑事さんも大介の腕に生えた鱗を見て、驚きながら言葉を吐いた。


「おいおい、何だよこれは?何で、魚の鱗みたいなのが生えてんだ?!」 


「さっき、大介にぶつかってきた女性が居たでしょう?」


「まさか、さっきの女が、アンタ等の言う妖怪だって?そう言うのか」


「えぇ、そうですよ。未成年男子の誘拐事件を起こしている沼御前本人だったんです」


蓮の説明を聞いた刑事さんは、妖の存在を信じつつあった。

 

「は、隼人…。こ、これてもしかして…、の、呪い!?


「いや、呪いじゃなくて…」 

 

「呪いじゃねーだろ、マーキングだろ」


隼人と大介の会話に、サラッと楓が割り込んだ。


「妖の存在を信じるしかなくなって来たな…、これは」


「刑事さん、夕方から結界を貼ります。人が来ないようにして下さい」


「了解した、今から手配をしてくる。俺は一旦、署に戻る」


蓮は冷静に素早く刑事さんに指示を送り、刑事さんは蓮の話を聞き、急いで警察署に戻って行った。


「ど、どうしよう…。このマーキング大丈夫なのかなぁ?」


「見せて」


慌今にも泣き出しそうな大介の腕を掴み、ジッと鱗を見つめた。


やっぱり八岐大蛇とランクが違うから、呪いの濃度は薄い。


あたしの呪いみたいに、死に至る事は無いだろうけど…、大介の居場所を分かるようにしてるのかな。


「大丈夫ら死ぬ呪いじゃないよ、マーキングみたいなモノね。大介の居場所が分かる様にしてあるだけ」


大介の不安を取り除く為に、あたしは軽い口調で説明する。


「マジかよー。じゃあ、本人を滅しないと駄目なヤツだね」


「あれ?大介、意外と落ち付いてるじゃん」


「聖ちゃん、俺はこれでも陰陽師なんだから…。じゃあ、俺が囮になるわ」


サラッと、大介が囮を願い出だ事に驚いた。


まさか、自分から言い出すとは思ってもみなかったからだ。


「その方が良いだろうな。お前なら上手い逃げ方するだろ?作戦をちゃんと考えようぜ」


隼人は大介とは長い付き合いだし、信頼をしているんだろう。


すぐに作戦を立てようと、行動に移した。


「あたしも隼人の意見に同意。沼御前は、夜にはこの池に戻って来るだろうから。まずは、ここ全体に一般人が来ないように結界を張るのは、田中先生がしてくれるんですよね?」


「勿論、刑事さんにもそう言ったからね」


「田中っちが?」


あたしと蓮が話していると、大介が首を傾げながら会話に入ってきた。 


「さっき、刑事さんとしてた会話を聞いてなかったな?まぁ、君達よりは結界を張るのは上手いよ回?それに、今回は前田達が担当しないといけないからね?」


蓮はそう言いながら、大介の腕の鱗を見つめる。


確かに、あたし達の中では結界を張るのは蓮が適任だね。

 

「じゃあ、先生にお願いするとして。あたし達は、大介が沼御前と接触するのを、近くの影から見守る係だね。そして、気配を消して沼御前を滅する」


そう言いながらあたしは、楓と隼人を見つめた。


「了解」


「式神を使うのは、最悪の場合になったらって事だな」


隼人は了承し、楓は式神をいつ使うかを考えていた。


「第一優先は、沼御前にあたし達が周りに居る事を悟られない事。沼御前に見つかったら、作戦も上手くいかないからね」

 

「聖ちゃん凄いね!!任務慣れしてるね。もしかして、初めてじゃない?」


ドキッ!!!


あ、大介の顔を立てる為に頼る筈が、ちょっと仕切り過ぎてしまった。


でしゃばらない方が良かったっぽい。


「うーん、とね…」

 

「それじゃあ、僕は結界札を貼りに行って来るから。一旦離れるね、何かあったら連絡入れて。夜までには終わらせるから」


蓮はわざとあたしの言葉を遮り、話題を自然に逸らし、結界を貼りに行ってしまった。


サラッと、フォローされちゃったな蓮に。 


「俺等は、日が暮れるのを待つか」


蓮の後ろ姿を見ながら、楓が呟くと隼人が大介の事を見ながら口を開いた。


「お前、調子に乗って油断するなよ。そう言う所あるだろ、お前」


「ちょっ、聖ちゃんの前で俺を下げるような発言しないでよね!?」

 

「心配してんだよ…、俺は。今回の妖怪は、今まで一緒に任務で滅した妖怪とは違う」


「違うって…」


大介と隼人の会話を、あたしと楓は静かに聞いた。


「匂いだよ」


あ、隼人も気付いてたんだ匂いに。

 

隼人の言葉を聞いた大介は、キョトンとした表情で楓の方を向く。

 

「匂いねぇ?楓君、匂いとは?」


「壱級の妖怪は甘い匂いがするんだよ。あの妖怪からも匂いがした。弐級だけど、気を付けろ」


楓が大介を見つめながら、強めに言葉を放つ。

 

大介を思っての言葉だろうけど、こちらも気を引き締

めないと。


そう、あの匂いは八岐大蛇からもした。


甘い花のようない香りは、壱級妖怪の証でもある。


沼御前からもしたと言う事は、今回の任務…。


もしかしたら…、危険かもしれない。


そう思いながら、あたし達は夜になるのを待った。

 

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