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太陽と雪月花の中の君に

早乙女隼人 七歳


太陽の光に照らされた天照大神は、想像以上にとても綺麗な女性だった。


*天照大神または天照大御神は、日本神話に登場する神。

記紀においては太陽神、皇祖神(こうそしん)、巫女の三つの性格を併せ持つ存在として描かれている。

女神と解釈され、高天原(たかまがはら)を統べる主宰神(しゅさいしん)であり、神武天皇(じんむてんのう)は来孫。

太陽神、皇祖神、機織神など多様な神格を持ち、天岩戸(あまのいわど)の神隠れで有名な神で、神社としては三重県伊勢市にある伊勢神宮内宮が特に有名*  


神々しいって、こんなに体の周りがキラキラしてんのか?


それにしても、伝承に載っていたまんまだな…。


「えっ…と、間違いだったら悪いけど。アンタもしかして…、天照大神?」


「神に向かってさ、アンタとはなんじゃ。まぁ…、そんな事は良い。その通りよ、会えた事を光栄に思いなさいな」


天照大神は長い髪を手で後ろに流しながら、偉そうに俺の事を見下ろしてくる。

 

何で、この神はこんなに偉そうなんだ?


「は、はぁ…?どうして、俺の前に現れたんだ…?」


「太陽を通して、其方を見てたからのぉ。面白いなと思ってな」


そう言って、天照大神は俺に微笑んだ。


高天原を統治する事になった天照大神は、太陽の神となり太陽の女神として降臨したと聞いた事がある。


だから、太陽を通して俺を見れたのか…。


「強くなりたいと直向きに頑張る姿に、母性を感じたのじゃ」


「ぼ、母性って…、そんな偉そうなのに?」


「あははっははは!!!其方は本当に素直な奴じゃ。ふふふ、降りて来た甲斐があると言うものじゃ」


「は?いきなり何す…」

 

天照大神は俺の言葉を最後まで言葉を聞かずに、いきなり俺の胸に手を当てきたあ。


ポワポワポワンッ。


触れられた部分が、太陽の光に当てられたような暖かさを感じ、心地い眠気が訪れてきた。


「ゆっくりおやすみ、妾の可愛い子供」


天照大神は俺の耳元で優しく囁き、目が開けられなくなる程、瞼が重たくなり目を閉じてしまった。


***


「っ!!?」 


ハッとしながら目を開けると、赤い札が右胸に置かれている事に気が付いた。


「さっきのは夢じゃないって事か?それにしても、この赤札は…?」 


拾い上げて札を見ると天照大神の絵が描かれており、さっきの出来事は現実に起きていた事を証明しているようだ。


「本当に俺に会いに来たのか、天照大神」


この札にも、何か意味があるに違いない。


「…、天照大神か。本当に居たんだな、神って」


「おーい、隼人!!!大丈夫かー!!?戻って来ないから、迎えに来たぞ」


山道から大介の叫び声が聞こえ、俺は赤札をズボンのポケットに隠しながら立ち上がる。

  

「良かったー、案外近くまで降りて来てて。何してたんだよ、心配してたんだぞ」


「あー、悪い。休憩のつもりだったんだけど、寝ちまってた」


「あっはは!!!マジかよ。隼人でも寝ちゃったりすんだな、あんだけ体動かしてたら寝るって」


「俺だって疲れたりするわ。日が暮れる前に戻ろうぜ、腹減ったわ」


俺達は話しながら、急ぎ気味に前田神社に戻った。 


その日の夜、部屋でくつろいでいると大介が襖越しに声を掛けてくる。


「隼人ー。親父さんから、電話が来てるって」


「親父から?」


のそのそ部屋を出て、廊下に置かれている黒電話を借りて通話に出る事にした。


ガッチャンッ。


「もしもし、親父?どうかしたの?」


「久しぶりだな。隼人に話しておかないといけない事があって、電話したんだよ」


「話したい事?何、重大な事?」


「あぁ、実は…」


そして、親父の口からからとんでもない話を聞かされたのだ。


なんと、あの御子柴家が妖怪に惨殺されてしまったらしい。


親父達が御子柴家で出た死体処理と、八岐大蛇の封印されている部屋の調査をしに行っているとの事だった。


早乙女家は御子柴家と同じく、大妖怪である大嶽丸を大きな岩の中で封印していた。


御子柴家、早乙女家がそれぞれ封印が解かれ、大妖怪達は京都を出て行った恐れがあるらしい。


誰が、何の目的で封印を解いてるんだ?


まさか、俺が前田神社に居る間に、こんな大事件が起きているとは思わなかった。

 

「俺の戦闘部隊が、御子柴家に向かっていた時には…、もう八岐大蛇の封印が解かれていたそうだ。部隊が到着した時には、御子柴家の使用人含めた人間達は殺されていたそうだ」


「…、俺の家で封印していた大嶽丸まで逃げ出したって事か…。どうして、そんな事になってるんだよ…」


俺は山に篭って修行をしていた為、早乙女家には居なかった。


事態が大事過ぎて、理解が追い付かない。


御子柴家が惨殺されたって事は…、あの子は無事なのか? 


「一応、お前の耳にも入れておきたかったんだ」


「今から、家に戻るよ。親父に聞きたい事があるから!!!」


「は?ちょっ、隼人!?」


ガチャンッ!!


電話を急いで切ってからすぐに部屋に戻り、大急ぎで荷物をまとめ始める。


その様子を見て、驚きながら大介が尋ねてきた。


「ど、どうしたの?そんな、急いで…っ?」


「今から家に戻るんだ」


「え、今から!!?もしかして、親父さんに何かあったの?」


「あったから、戻るんだよ!!!」


「おい、隼人!?」


大介の問いに答えながら部屋を飛び出し、前田神社を出て、急いで近くのバス停に向かう。


バス停に到着するとタイミングよくバスが到着し、出発する間にバスに乗り込んだ。


「はぁっ、はぁっ…、あの子の無事を確認…っ、しないと」

 

荒くなった息を整えながら一番後ろの席に腰を下ろし、バスが出発するのを待った。


***  


久しぶりに早乙女家に帰って来たが、帰宅した事の余韻に浸っている暇はない。


大慌てで玄関の扉を勢いよく開け、俺は大声で誰もいない廊下に向かって叫ぶ。


バンッ!!!


「親父!!!居るか!?」


物音を聞いた使用人が、慌てた様子で俺を出迎えた。


「は、隼人様!?修行をしていたんじゃ…?」


「それより親父は?居るの?」


「は、はい…。東伍(とうご)様なら、此方(こちら)の部屋にいらっしゃいます」


早乙女東伍とは、俺の父親の名前だ。


現早乙女家の当主で、俺は長男だから時期に親父の後を継ぐ事になるだろう。 


「案内してくれ、親父に話がある」


「かしこまりました」


俺の言葉を聞いた使用人は、親父の自室部屋に案内し手から襖を軽く叩いた。


「はい」


「東伍様、隼人様がお帰りになられました」


「分かった、通してくれ」

 

親父が返事をすると、使用人はゆっくりと襖を開けた。


「隼人、本当に帰って来たのか」 


「それより親父、御子柴家の生き残りは?」


俺の言葉を聞いた親父は一瞬だけ間を作るも、口を開ける。


「…、残念ながら居ない」


「本当にいないのか?じゃあ…、あの女の子は死んだのか?」


「?!」


俺の言葉を聞いて、親父は驚きのあまり言葉を失った。


親父の反応を見て分かる、俺にあの女の子の事を隠している事に。

 

「親父。本当は、御子柴家に女の子が居るよな?俺と同い歳の」


「それは…」

 

「俺達は、代々御子柴家の配下だったろ?俺は…、その子に支えたいから、支えたいと思ったから修行に明け暮れてた。今日、この札を手に入れたんだ」


カサッ。


熱弁しながら俺は親父に赤い札を見せると、札を見た親父はまたしても驚きを隠せていなかった。


「天照大神の御加護を!?赤札を手に入れたのか!?」


「赤札…?この札の名前の事か?」


「陰陽師の中でも直接、神からの御加護を貰えるものは滅多にいない。そうか、お前が稽古に本腰を入れ出した理由は、そう言う事だったのか…。いつ、聖様に会ったんだ」


親父は何かを決心したような顔をして、俺に尋ねてきた。

 

「やっぱり、いたんだ。聖様って、その子の名前なんだな。正月の日、俺を妖から助けてくれたのが、その子だったんだ」


「聖様が助けた?あの日、陽毬様が慌てていたのは、その所為だったのか…」


「なぁ、あの子は何者なんだ?」

 

「お前に話すつもりは無かったが…。隼人の覚悟に免じて話してやる。もはや隠し通す理由もなくなったからな」


親父から聞かされた話は、(はらわた)が煮えたぎるような話だった。


女の子名前は御子柴聖と言って、御子柴家の本家の離れに隔離され、いつも妖怪退治の時だけ外に出られていたと事。 


御子柴聖の能力、戦闘技術は歴代の子供達の中でも逸材、御子柴陽毬は御子柴聖を最大限に利用しようとした。


御子柴陽毬は御子柴聖を自分だけの戦闘人形にしたかったのか、家の極秘人物として傘下の三家に隠し、彼女は御子柴家の必要な戦闘要員とし、その事は本人も承知の上だったようだ。


話を聞いていて、俺は腹が立って仕方がなかった。


「本人が利用される事を承知していただって?あの婆さんが勝手に言っていただけじゃないのか!?ふざけた事しやがって…。 御子柴家の人間は、あの子を何だと思ってるんだよ」


「言葉にはしないが…、俺の目から見れば可哀想な子だと思ったよ。大人に紛れて妖怪達と戦い、労いの言葉も褒め言葉も貰えない。仕事が終われば連れ戻されて…、俺は聖様に声を掛けようとした時があったんだが…。御子柴家の使用人達に、全力で止められてしまった」


「戦わせるだけ戦わせて、用が終われば戻されるって…。何で、自分の孫に酷い事が出来るんだよ、あの婆さんは…っ。御子柴家が惨殺されたのなら、あの子は自由になれないまま死んだんのか?」


話していて、目頭が熱くなって行くのが分かる。


「隼人、聖様は生きているよ。重症は負っているが…」


「本当か、親父!?どこに居るんだ!?重症って、どう言う事なんだ!!!」


ガシッと親父の肩を力強く掴み、乱暴に揺らした。


「起きつけって!!!俺が話せるのは、ここまでだ。詳しい事は、俺もまだ聞いていない」


そう言って、親父は俺の手をゆっくり離す。


御子柴聖の事を話したと言う事は、配下の人間の中でも御法度の筈だ。


それなのに、親父は俺に話してくれた。


「生きてるのが分かっただけで良い。俺は俺で、あの子の事を探し出すからな」


「隼人は聖様に支えたいのか?誰かに使える事を拒んでいたじゃないか」


親父は俺の意思を確かめるように、ジッと目を見つめてくる。


その視線は俺の決意を確かめるような、意志の籠った視線だった。


小っ恥ずかしい気持ちを隠せないまま、頬を指で掻きながら口を開く。 


「俺はあの子に初め会った時、言ってくれたんだ。生きるのを諦めようとするなって。その時、思ったんだよな…、俺は、この人の為に強くならないとって。あの子、聖様の側にいてみたいって。そんな理由じゃ、ダメかな…」


「十分な理由だ、頑張れよ」


ポンポンッ。


親父はそう言って、俺の頭を撫でた。


俺は御子柴聖を探す為に情報を探したが、手掛かりが何も無かった。


一つだけ分かったのは、御子柴家を襲った八岐大蛇が東京に身を隠してると言う事だ。


この情報は直接、親父から聞いた事だから間違いないだろう。 


俺は大介と共に、東京にある東京隠密学院に入学を決め、学院に入学すると同時に東京に移住をした。


妖怪討伐をするにあたって、級が必要だったが…、実践経験がある俺は、余裕で壱級を獲得する事が出来た。


御子柴家は陰陽師家の子供なら誰でも知っていたので、大介には御子柴聖の存在は言わずに、独断で御子柴聖の事を調べ続けていたのだが…。


親父が俺を信用して、極秘の情報を話してくれたからだ。


それに誠意を見せないと思い、大介には話さない事に決めた。


学院に来て一年が経ち、鬼頭楓と言う十四歳の男が一年に特例で編入してきた。


廊下で数回しかすれ違った事しかないが、幼い時に出会った御子柴聖と同じ顔付きで、人を寄せ付けない雰囲気を纏っている。


もしかしたら御子柴家の生き残りかと思い、俺は鬼頭楓にコンタクトを取ろうとしたが…。


タイミングが合わず任務に駆り出されていた為、鬼頭楓は学院に殆ど居なかった。


鬼頭楓は特例で学院に編入してきた事もあり、一年に聞いてみたが、誰も鬼頭楓の情報を知らない様子だった。


***

 

何も情報が得られず進展しないまま、春を迎えて高校二年生になった頃。


その日はたまたま、長期任務から帰ってきた為に少し遅れて、教室まで向かっていた時だった。


「鬼頭聖です」


聖!?


あの子と同じ名前!?


俺は思わず、驚きを隠せないまま教室のドアの前で立ち止まってしまう。

 

ドアを引く手を止め、彼女の自己紹介を暫く聞いてしまった。


苗字が鬼頭…、鬼頭楓と姉弟なのか…??? 


確かめたかった、直接この目で鬼頭聖の顔を見たかった。

 

そう思いながら教室のドアを乱暴に開け、一番後ろの窓際の席に腰を下ろしている鬼頭聖の姿が視界に入る。


あの時より大人びた雰囲気を纏っていて…、顔立ちはまさに御子柴聖そのものだ。


似ている、御子柴聖に。


だけど、確信が得られ無かった俺は、鬼頭聖に喧嘩を売るような口調で話し掛けてみる事にした。


戦ってみたら分かるかもしれないと思ったからだ。


案の定、鬼頭聖は俺の提案を飲み、決闘する事が決定したのだが…。


決闘開始と共に、俺は鬼頭聖と木刀を混じれて、すぐに実力の差を解らされる。


戦闘慣れした戦い方、木刀を見事に使いこなし、無駄のない動き。


やはり鬼頭聖は、御子柴聖で間違いない。


確信に変わるのは早かった、同時に嬉しくて仕方がなかった。


あぁ…、彼女は生きていた。 


生きているの事が、この目で確かめる事が出来て良かった。

 

あの時と変わらず、戦う姿が綺麗で、あの日の雪の中に居た彼女だ。


ようやく、ようやく、彼女と出会えたんだ。


「やっと会えたな、御子柴聖」


思わず心の声が漏れてしまい、俺の言葉を聞いた御子柴聖は目を大きく見開いている。 

 

「なっ、ななな!!!?」


「ハハハッ、諦めずに探し続けて正解だった」


「は、は?え、どう言う意…」


俺は最後まで言葉を聞かずに、御子柴聖の前で跪いた。

 

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