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蕾の進行弐

本城蓮 二十四歳


ダンダンダンダンッ!!!


ハクが次々とビルの屋上に飛び移り、空を駆け向けて行く。


お嬢を抱きしめたまま片手でスマホを取り出し、兄貴に連絡を入れた。


プルルッ、プルルッ、プルルッ。


プッ。


通話を掛けてから3コールめで、スマホから兄貴の声が聞こえる。


「もしもし?どうしたんだ、蓮」


「良かった、電話に出てくれて…っ。お嬢が今…」 


「今、何処にいる?車を向かわせる」


お嬢の名前を出すと、兄貴はすぐに状況を察したようで物音がスマホ越しから聞こえてくる。


兄貴がお嬢のリハビリの為に地元である京都に滞在していた時、親父が兄貴に月下美人の呪いの事を話していた。


陰陽医療術の壱級を持っている兄貴なら、万が一にお嬢の呪いが進行した場合の為にも、親父は兄貴の耳に入れておきたかったのだ。


そのお陰で、兄貴に初めから説明しなくても事がスムーズに動いてくれた。

    

「いや、それは大丈夫。ハクで向かってるから、前に教えてくれた住所であってるよな?」


「あぁ、問題ないよ。病院の屋上にハクを着陸させてくれ、急いで診察の準備をしておくから」 


「分かった、あと十分で着く」


そう言ってから兄貴との通話を終わらせて、意識を失っているお嬢の体を強く抱き締める。


坊ちゃんにも連絡を入れた方が良いな、けどまだ何も分かっていない状態で話すのも…。


「主人よ、もう着くぞ。姫をの事を抱下せれるように準備をしておけ」


「もう準備出来てるよ、ハク」

 

目の前に大きな病院が現れ、僕達を乗せたハクは素早く屋上に着地した。 


タンッ!!!


表向きは普通の病院だが、陰陽師や呪いを受けた者を二十四時間、受け入れ態勢が出来ている病院らしい。


バンッと勢いよく扉を乱暴に開けて、こちらに向かって来る白衣姿の兄貴が目に入った。


「兄貴!!!」


「診察室に連れて行くぞ、急げ!!!」


ボンボンッ!!! 

 

兄貴の言葉を聞いたハクは自分から式神札に戻り、僕はお嬢を抱き上げたまま、急いで階段を降りると診察に入る。


タタタタタタタタタッ!!!

 

バンッと勢いよく診察室の扉を開けて、入り口付近にあった椅子を退かし、備え付けられているベットに寝かせように誘導された。


「聖様をそこのベットに寝かせろ、うつ伏せの状態にな」


「分かった」

   

言われた通りにベットにお嬢をうつ伏せの状態にさ寝かせ、着せていた上着を剥ぐ。


兄貴は医療手袋を装着し、剪刀(せんとう)を手にしながら僕にある事を確認してきた。


*剪刀とは、医療現場で使われるハサミ(剪刀)の総称で、組織の切開、剥離、縫合糸やガーゼ、テープなどを切る為の専用器具。

外科手術用の精密なものから、看護師が使う携帯しやすいタイプ(ナースハサミ)、特定の目的(外科用、スマート用など)に特化したものまで様々な種類がある*  


「聖様が着ている服を切って良いか?直接刺青部分を見てみないと、どんな状況になっているか分からないから…」


兄貴の言っている事は医者として当然だし、刺青部分を直接見ないと分からないのも分かる。


だが、お嬢の肌を見られるのは嫌だなと複雑な感情が入ってしまう。


僕の(よこしま)な気持ちなんて、今はいらない。


こんな感情よりも、お嬢の命の方が大事だ。


「お嬢の事を…、助けてほしい」     

 

「最善は尽くす、お前は外で待ってろ」


「分かった」


ガラガラッ。

  

兄貴に言われた通り、僕は診察室を出て近くにあった待合室の椅子に腰を下ろした。 


僕があの場に居ても、お嬢の為に何もしてあげられない。


今も、お嬢は呪いの所為で苦しんだると言うのに。


ボンボンッ!!!

 

僕の右隣で大きく白い煙が立ち込め、煙の中から伸びてきた白い尻尾に思いっきり背中を叩かれた。


バシッ!!!   


「痛っ!!?何するの、ハク…」


「主人、其方が落ち込んでいても仕方ないだろう。今、主人が出来る事は姫の無事を祈って待つしかない」


シュルルルッ…。

 

そう言いながら、ハクは自身の尻尾を僕の体に巻き付けてきた。

 

ハクは僕に厳しい事を言いながらも、僕に対しての心遣いのある言葉を投げ掛けてくれる。 


ふわふわした毛並みを撫でながらスマホを取り出し、坊ちゃんにお嬢の事を知らせる為に通話を掛けた。


プルルッ、プルルッ、プルルッ、プルルッ…、ブッ。


何コール目かでスマホ越しから、ガヤガヤした騒音と坊ちゃんの不機嫌そうな声が聞こえてきた。


「何の用だよ、蓮。さっそく電話してきやがって…」


「すいません、坊ちゃん。あの、任務の方は終わりましたか?」


「あ?んな事を聞きたくて電話してきたのかよ。とっくに終わっとるわ、現場から帰って来てんだよ。え、マジで何?」


「お嬢が倒れました。今、病院に…」


「どこの病院だ!!!」


僕の言葉を遮るように、坊ちゃんは焦った声を出す。 


「新宿区にある陰陽師専用の病院です、住所送りますから」


「場所ぐらい知ってるよ!!!俺も今、新宿にいるからすぐに向かうから!!!」


ブチッと、一方的に電話を切られてしまい、坊ちゃんの到着を待つ事にした。


***


本城蓮が待合室で電話している間、本城総司は御子柴聖の背中の刺青部分んいライトを当て、呪いの進行具合を診察していた。


「これは…、一気に進行したな…。十年前と比べると、差が大きく分かる」 

   

十年前に撮った刺青部分の写真と見比べると、月下美人の蕾が大きく膨らみ、血管が花の枝部分と繋がり始めていた。



脈を打つたびに枝部分に血液が吸い上げられ、その影響で薄い緑色が濃い緑色に変色して行く。


スッ…。

  

「っ?!」


シュルルルッ!!! 

 

蕾部分を触れようと指を伸ばすと、刺青部分から木の枝が伸び出し、本城総司の指に絡み出す。 


「蕾に触れさせにようにしているのか…?刺青部分から強い妖気を感じるのは、八岐大蛇の念が入り込んでいるからか…?」


ズシャッ!!!


木の枝が絡みついていた指が、何か鋭い刃物に切られたように血が噴き出した。


「触るな」  

 

「っ…!?」


男の低い声が背後から聞こえ振り返って見るが、診察室には本城総司と御子柴聖の二人しかいない。 

 

ズンッ!!!


本城総司が視線を元に戻した時に中の寒気が走り、脳内に八岐大蛇が御子柴聖を背後から抱き締めてる映像が流れる。


その姿はまるで、他の男が恋人の女性に触れさせないようにする男性のよう。  

 

「誰にも触れさせない気なのか、八岐大蛇は…」   


シュルルルッ…。


そう言いながら本城総司が指を離すと、枝が刺青部分に戻って行く。

   

「思った以上に、八岐大蛇は聖様に執着しているようだ。それに呪いが急速に進行したのは…、恐らく聖様と八岐大蛇との距離が縮まったから…か」


憶測を立てながら、本城総司は血塗れになった医療手袋を外すと、切れれた部分の傷口は思った以上に深いものだった。

 

手慣れた手付きで医療術で使われる札を取り出し、傷口に貼り付けると白色の札が急速に黒色に染まり、ボロボロになりながら指から離れる。


「傷口は完全には塞がらなかったが、止血は出来た。呪いの進行の動きを止めないと」


パカッ。

 

机に置かれたアタッシュケースを開き、丁寧に片付けられた医療札を多く取り出し、水晶の数珠を腕に装着した。


「行け」

 

シュシュシュシュッ!!! 


本城総司は呟きながら手に持っていた医療札に息を吹き掛けると、医療札達は月下美人の刺青部分に張り付く。     


「邪のものを祓い、傷を癒したもう」

  

パンッと本城総司が手を叩くと、刺青部分が張り付いた医療札達が光出し、黒色の煙が立ち込める。 

 

ドタドタドタドタッ!!!


診察室の外から慌ただしい足音が聞こえ、看護師と御子柴楓の話し声が聞こえてきた。


「未成年は今の時間帯に、お一人で来られるのは困りますっ。誰か保護者の方と…」


「は!?自分の姉ちゃんが倒れたんだよ!!?アンタに止められる筋合いはねーよ」


「すいません、僕が呼んだんです。保護者が必要なら、僕が代理になりますから」  


「アンタが保護者!?笑わせんなよ。絶対そんなのごめんだからな!?」


御子柴楓の一方的な攻め方をされている本城蓮を不憫に思いながら、本城総司は医療術の札を張り替えて行く。


ものの数秒で医療札がボロボロになる為、こまめに張り替えて呪文をひたすら唱えての繰り返しだった。


「はぁ…、やっと収まったな…」

 

御子柴聖の診察を始めて一時間弱、ようやく呪いの進行を納めれる事ができ、本城総司は安堵の溜め息を吐く。


腫れ上がった部分は腫れが治り、月月下美人血液吸収も抑えられた。


御子柴家聖の体勢を仰向けに戻してから、点滴を打った所で本城総司は診察室のドアを開けた。


***

     

本城蓮 二十四歳


坊ちゃんに連絡を入れてから数分後、病院の入り口から騒がしい声が聞こえてきた。


「あの、困りますっ。未成年の方は今の時間は…」


「は!?未成年だから入って来んなって?そう言いたいのか、アンタ」


「あ、あの…」


「俺の姉ちゃんが、ここに運ばれたんだよ!!!」


今の時刻は二十一時過ぎ、坊ちゃんは十四歳だから世間で言う未成年の部類に入る。


童顔のお嬢と瓜二つで、身長は百七十はあるが大人には見えない。


坊ちゃんと看護師さんの言い合いが続きそうだったので、ハクを置いて二人の元に向かう。

 

「すいません、僕が呼びました。今回は僕が、坊ちゃんの保護者役として大目に見てもらえませんか?」


「蓮様が…?蓮様がそうおっしゃるなら…」


「は!?アンタが俺の保護者役だぁ!?冗談でも無理なんだけど!?」


僕と看護師さんの会話を聞いていた坊ちゃんが、納得いかないようで不満の声を上げる。


「蓮様がお呼びになられたのなら、私からは何も言う事はありませんので…。私は夜勤に戻りますね」

 

「坊ちゃん、待合室はこっちですよ」


「チッ」 


看護師さんに背を向け、僕は坊ちゃんを待合室に案内する。


診察から医療術を施しているのだろう、扉の隙間から光が漏れ出している。 


「げっ、アンタの式神、また勝手に出てきてんじゃん。言う事、聞かねーじゃん」


「生意気な口の聞き方は治っておらぬな、小僧」


「誰が小僧だ!!!」

  

「大声を出すな小僧。今、姫が治療を受けておるのだからな」


ハクの言葉を聞いた坊ちゃんは、僕とハクから離れた場所に移動し、静かにお嬢の治療が終わるのを待っていた。


壁の時計の針の音だけが空間に響き、空気に緊張感が走る。


カチカチカチカチ…。


ガラガラ…。 


お嬢の治療を開始してから一時間が経った頃だろうか、疲れ切った顔をした兄貴が治療室から出てきたので、僕は一目散に兄貴に駆け寄った。


「兄貴っ!!!お嬢は!?」


「落ち着けって…、蕾の進行を止められたよ。今は点滴を打って、寝てもらってるよ。今は一時的に進行を止めれたに過ぎない。安心するのは…、おや?君は…」


坊ちゃんの存在に気が付いた兄貴は、ゆっくり坊ちゃんのいる方に視線を向けた。

 

「姉ちゃん…、いや御子柴聖の弟の楓です。治療していただいて、ありがとうございます」  


そう言って、坊ちゃんは兄貴に向かって深々と頭を下げる。

 

「いえいえ、とんでもない。俺は本城総司です、隣にいる蓮の兄です。二人に聖様の呪いの進行した原因がを話しておきますね。恐らくだが…。聖様は、京都で過ごされいた時には呪いは進行しなかった。そうだよな?蓮」


「そうだけど…、それが関係しているのか?」


「これはあくまで俺の考えだが…。八岐大蛇との距離が物理的に近くなった事により、月下美人の呪いが進行するんだと思う。(しお)れていた蕾が聖様の血液を吸い上げた事により、蕾に栄養が行き渡り膨らみを増したんだ」


「じゃあ、姉ちゃんと八岐大蛇と会ったら…、かなりヤバイって事ですか?」

 

僕と兄貴の会話を聞いていた坊ちゃんが話に入ってくる。


「背中の刺青に触れようとしたと時、八岐大蛇の妖気が宿っている事が分かりました。誰にも触れさせないように、術も込められていますね。俺の指もこのざまですよ」


「うわっ!?切ったんですか?それとも切られた感じですか?」


兄貴の指の傷を見た坊ちゃんは、傷の深さを見て表情を青白くさせていた。


鋭利な刃物で勢いよく切られたような、傷口から肉が見える程だった。


遠くから見ても、切られた時は痛かっただろなと思う。 

 

僕の方に視線を向けてきた兄貴は、神妙な面持ちのまま口を開く。 


「刺青部分に触れようとしたら、ザックリ切られました。この東京で、聖様と八岐大蛇、二人が会ってしまったら…。どちらかが、確実に死ぬぞ」


「お嬢が死ぬ…?」


お嬢あ死ぬって言われた時、十年前に八岐大蛇に右脚を喰われて血を流して倒れている光景と、さっき風呂場で倒れていた光景が脳裏に鮮明に思い出された。


心臓の鼓動が聞こえ、目の前が真っ白になって行く。


八岐大蛇を倒す前に死んでしまうって事なのか…、お嬢が死んでしまう?


また、あの時と同じような思いを、お嬢を失うかもしれない恐怖に駆られてしまうのか? 

   

「月下美人の呪いを解く為には、それ相応の覚悟がいるぞ。蓮、八岐大蛇と戦う事は大きな戦になるぞ、情も涙も無い戦だ」


その言葉は、とても重かった。


きっと、八岐大蛇と戦う事は大きな戦争になる。


そうなる事は、最初から分かっていた。


お嬢を助けたい、お嬢を呪いから解放したい、お嬢をこの悲惨な運命から解き放ちたい。


どうして、お嬢ばかりこんな目に遭わないといけないんだ。


御子柴家に隔離され、妖怪退治だけをさせる為に働かせ、右脚を喰われただけでなく呪いまでかけられて…。


お嬢の運命を恨まない日はなかった。  

 

十年間、忘れた事なんてない。


僕の生きる理由はお嬢を守り、二度と傷付けさせない為だ。

 

「兄貴…、覚悟ならとっくに出来てるよ。命懸けでお嬢を守るだけだ。それが、僕の生きる意味だ」


僕の言葉を聞いた坊ちゃんと兄貴は驚いた顔をしていたが、兄貴は表情を戻しながら尋ねてくる。

 

「お前は使命を果たす為に、命を捨てるのか?」


「使命じゃないよ。僕のやりたい事だから、だ。お嬢の為に死ねる事は、僕にとって喜びでしかないよ」


兄貴の問い掛けに言葉を返しながら、、物想いに(ふけ)る。

 

僕は本城家の式たりで、お嬢の事を守って来たんじゃない。


「蓮はあたしの事、好き?」


まだ五歳の小さな女の子が泣きそうな顔をして、僕に気持ちを確かめてきた日。


あの時から僕の心も時間も命の全てを、お嬢に捧げるって覚悟は出来た。   

 

僕の意思で東京に一緒に来て、お嬢の事を見続けたい一心でついて来たんだから。


「お嬢のいない世界で、生きるつもりはないよ。お嬢が死ぬ運命だとしたら、僕も一緒に死ぬ。兄貴、お嬢は…、僕の光なんだ」


「蓮、俺はお前の事も心配なんだ。聖様の事になると周りが見えなくなるだろ」

 

「以後、気を付けるよ」


「アンタは昔から、アンタの世界は姉ちゃんで廻ってるもんな。姉ちゃんが死ぬ前に、八岐大蛇をぶっ倒せばいい話だろ。妖共と戦えるように力をつけたんだ。アンタだけに姉ちゃんを任せる気は、最初からねーよ」


僕と兄貴の会話を聞いていた坊ちゃんは、僕の事を睨み付けた。


*** 


御子柴聖 十七歳


「君を愛してる。この先も、たとえ生まれ変わっても。俺は、君に会う為に生まれたんだ」


夜の空の下で枝垂れ桜が舞う中、二人の男女がいた。


軍服を身に纏っている黒髪の男性、フリルの袴を着ていて、薄い黄色のフワフワの髪の女性が抱き合っていた。


誰なの…。


どうして、あたしはこの光景に見覚えがあるのだろう。


胸が締め付けられ、泣きそうになるこの感情さえも、あたしは覚えている。 


ふと、その女性と目が合い、あたしと顔が瓜二つでだった。


女性はあたしに向かって口を開き、何かを伝えよとしてる。


ブォォォォォォォ!!!


放たれた言葉と共に、大きな風が吹いた。


「声が聞こえない!!!貴方はあたしに何を言ったの!?」


「私達の想いを背負って」


「思いってっ、何!?貴方は誰なの!!!」


「私は…、貴方の…」


ブォォォォォォォ!!!


暴風はあたしの体を包み、空へと連れ出した。


*** 


「っ!!!

 

ハッとしながら目を開けると、見慣れた天井が見えた。


この部屋は今日、引っ越して来た部屋…?


ふと手を握られている感触がし、ベットの端に目を向けると、蓮が手を握ったまま眠っていた。


ピクッと、蓮の指が動き、そのまま目を開けて蓮は体をゆっくり起こす。

 

「お嬢!!?体調は!?気分は!?」


「蓮…?」


「良かった…、目が覚めて…。体、平気ですか?」


「あたし、どれぐらい寝てた?」


確か、お風呂で意識を失った所までは記憶にある。


その後、あたしはどうなったのか記憶にない。 

 

「二日です」


「そっか…。ねぇ…、蓮。あたし変な夢を見たの」


「夢?」


あたしは頭が回ってない状態のまま、蓮に夢の話をした。


「もしかしたら…。お嬢は、前世の夢を見たのかもしれませんね」


「前世?」


蓮からミネラルウォーターを受け取りながら、蓮に尋ねる。

 

「前世の記憶が夢になって、現れると親父に聞いた事があります。それと…」


「もしかして、呪いが進行した?」


言葉を詰まらせている蓮の反応を見たら、月下美人の呪いが進行した事を物語っていた。


「お嬢が倒れた後、兄貴が勤めている病人に運びました。東京に潜服している八岐大蛇との距離が近くなった事で、蕾の進行が始まってしまったようです。八岐大蛇と対峙(たいじ)した時、お嬢と八岐大蛇のどちらかが確実に死ぬと…、兄貴が診察結果を見て判断しました」


「やっぱり、呪いが進行したんだ。でも今、一番重要なのは、八岐大蛇と会えば…。あたしか八岐大蛇のどちらかが死ぬ事だね。

総司さんがそう言うなら、確かね…。あたしが死ぬ前に、八岐大蛇を滅せれば良い話よね」


「お嬢のそう言う所、尊敬しますよ。僕なんかよりも肝が座ってます」


蓮はそう言って、ベットにへたり込む。


「そう?クヨクヨしたって、しょうがないしね」


「お嬢は、本当に男前だなぁ」


「え、お、男?」

 

「変な意味じゃないですよ。サッパリしてて、良いって事です」


楽しそうに笑いながら、蓮はあたしの頭を撫でる。


「お嬢、明日から学校に登校になるんですけど…」


「問題無いよ」


明日から、学校に行くのか…。


「分かりました。お嬢のクラスは、二年零(ぜろ)組になりましたよ」


「零組?」


「任務で授業に出られなくても単位が取れるクラスです。僕は副担任として、零組に配属されましたから」


「そうなんだ。と言うかさ、あたしどうやって、級を取れるの?」


あたしは疑問に思っていた事を蓮に尋ねた。


「そうですね…。明日の放課後にシュミレーション部屋で、自分が何級なのかを計ります。それから、実際に本物の妖怪と戦って決めます」

 

「ふぅん、壱級を取らないと話しにならないよね」


「お嬢なら、余裕ですよ」


そう言いながら、蓮は軽く笑った。


「今日は、ゆっくり休んで下さいね。軽く食べれる物を作って来ますね」


「ありがとう、蓮」


部屋から出て行く蓮を見送ったのを確認してから、食事が届くまで目を閉じた。


***


東京市内ー

 

「ん?どーした、大蛇」


「月下美人の蕾が膨らんだ」


「大蛇様、嬉しそうね」


「あぁ」


酒呑童子と玉藻前、大嶽丸が八岐大蛇を囲んでいた。


「時は動くよ。君の意識を置いてでもね…」


大妖怪達が姿を変え、人の姿を身に纏った。


少しずつ歯車が廻ろうとしていた。

 

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