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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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96話 謎の金獅子

「ガオ……」

 いきなり現れた私を「何だこいつ?」という不審な目で見下ろしてくる金獅子。

 マウントポジションみたいになっているけれど、攻撃してくる様子もない。

 そんな中、ライオンに押し倒されるとか夢のようだと思った私は確実に末期だけど本望です!


「えっと、ごめんなさい。怪しい者ではありません」

 どう考えても怪しさしかないが、こう言うしかない私の語彙力。

 というか、言葉が伝わるのだろうか。

 不安に思いながらも見つめていると、金獅子はソロリと足を退けてくれた。

 おお! 通じた……のかな?


「ありがとう」

 走って逃げられるかと思ったら、金獅子はなぜかウロウロとその場を彷徨う。

 あ、やっぱり側頭部から血が流れてる。

 思わずジッと見てしまった私に気まずそうな顔を返してくる金獅子。

 視線がやや下にずれていたので不思議に思い追ってみれば。


「うわぁ! 服がドロドロ!」

 なんとも泥塗れな私の服。

 動きやすいような服装にしてきてはいるけれど、魔の森特有の粘着質な土が背中や足を中心にベッタリと張り付いている。

 自覚した途端に襲ってくる気持ち悪さ。うえぇぇ……。

 すぐさま浄化魔法で汚れを落とした。うん、これでオッケー。

 十年の修行の末、簡単な魔法なら詠唱破棄、高度なものでも詠唱省略レベルになったのだ。だから今のも無詠唱。

 頑張ったんだよ……!


「じゃあ次はきみの番――あれ、警戒されてる?」

 いつかのソラみたいに牙を剥き出しにして、威嚇状態になってしまった。

 いきなり魔法を、しかも無詠唱で使ったせいか怯えさせてしまったらしい。

 まずい。失敗した。

「……【完全治癒】」

 治癒魔法の上級版を金獅子にかけ、名残惜しいが立ち去ることにする。

 モフモフを恐怖に陥れるのは本意ではない。

 さっきの軍人たちは当分戻って来ないだろうから、その間に上手く逃げてくれることを願おう……。


「じゃあ元気でね」

 目の前にいるのに撫でられない無常さに血の涙を流しつつ、トボトボと歩く。

 そういえば何の魔物だったんだろう。

 凶暴な性格ではなさそうだったし、なんか普通のライオンっぽかったけど、あんな子いたかな……?

 でも魔物じゃなくただの動物なら、魔力が無いので探知には引っ掛からない。

 うーん……。

 お城に帰ったら図書館に直行しよう。そう決めた私に急にフッと影が差す。


 何だと思い顔を上げれば、そこにいたのは漆黒の馬。

 鋭い角と目を隠す長いたてがみ、毛先にいくほど黒から青になる炎のような尻尾が特徴的な危険度Sランクの魔物――ロストメルがいた。

 たてがみの一部を三つ編みにしてあるということは、父様の従魔であるルノアだ。

 私の仕業なので間違いない。

 森に入るようになってから、パッと見で他のロストメルと区別が付くようにしたのだ。そんなに数はいないけど、一応。あと純粋にヘアアレしたかった。


「こんにちは。ルノア」

 ルノアは父様に召喚される以外、この森で生活している。

 私が初めて城下に行った際、背に乗せたことを覚えているようで、気が向いた時はこうしてフラッと挨拶に来てくれるのだ。

 今日も会いに来てくれたのかと思ったら、ルノアは私の挨拶をスルーして通り過ぎて行く。……が、ガン無視された!

 ショックを受けながら振り返れば、そのまま歩き去るでもなく留まっているルノア。ん? 何してるの?


「ルノア?」

 しなやかな馬体から顔をずらしてみると、なぜか先程別れたはずの金獅子がルノアと睨み合っていた。

「えっ、なんで!?」

 魔の森は遊歩道があるわけでもないので、全方向進みたい放題。

 ついて行こうと思わない限り、進行方向が同じになることはないはずだ。

「ど、どうしたの? 怯えてたんじゃ……」

「ガオガオ」

 フルフルと首を振る金獅子。

 違う? 治療したから警戒を解いてくれたのだろうか。

 それとも近付いて来るルノアの気配を察知したからだったのかな。


 どちらにせよ、言葉は完璧に通じているらしい。

 となるとルノアのように知能がかなり高いか、もしくはソラみたいに人型をとれる魔物だったり――?

 いや、今は正体より事情を探るべきだよね。


「あ。この辺りは縄張りだった?」

「ガオガオ」

「そうじゃない……なら何か帰れない理由でもあるの?」

「ガオ……」

 ペタリと尻尾を地面に着け、やや小さな声で金獅子が吠える。


「……虐められてるの?」

「ガオガオ!」

「そっか、違うんだ。よかった……。だとしたら何だろう」

 ソラの時みたいに必殺言語表の出番だろうか。

 回転の悪い頭を捻っていたら、金獅子が遠慮がちに私の服の袖を甘噛みして自分に引き寄せてきた。求愛行動ですか違いますね。

「一緒について行けばいい、のかな?」

「ガオ!」

 途端にご機嫌に吠える金獅子。でもルノアを見るなりまた顔が険しくなる。


「大丈夫。ルノアは敵じゃないよ」

 Sランク魔物にちょっと無理があるかもしれないが、実際ルノアはとても賢くて良い子だ。見た目は闇の使者って感じだけど……。

 ぺしぺしとルノアの身体を叩いて無害アピールをしてみたら、お返しとばかりに前髪を食まれた。変わった親愛表現は健在です。


「じゃあ連れて行ってくれる?」

「ガオ……」

 またしょんぼりする金獅子。

 なぜだい、ハニー……。ソラみたいにずっと一緒だったわけじゃないから、汲み取るのが難しいよ。


 えーっと、ちょっとここは一旦、状況を整理してみようか。

 まず戻る場所は分かっているけど、帰れない事情がある。

 そして私について来いと言うのに連れては行けない。

「……もしかして、この森に住んでいるわけじゃない? だから私に連れて行って欲しい?」

「ガオ!」

 やった! 正解だ! 私のモフ愛が名探偵を生んだ。

 じゃあこの子はウェンサ帝国の軍人に捕獲されて来たところを逃げ出した、ってことになるのかな。


「でも困った……。きみが何の魔物か分からないから、元居た場所も分からないよ……」

 そもそも魔の森以外で生息している魔物なんて、竜種ぐらいしかいないはずじゃなかったっけ?

 私が知らないだけで他にいたのだろうか。


「よし、ヴァンさんに訊いてみよう」

 常に魔物の行動を監視しているヴァンさんなら、何か知っているかもしれない。

 名探偵は早々に優秀な人材を頼ることにした。迷探偵の間違いだったよ。


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